「死霊館」ユニバースを生み出し、「ソウ」や「インシディアス」シリーズなど数々のホラーを手がけるジェームズ・ワン監督がオリジナルストーリーで描くホラー。
- MALIGNANT - 監督 ジェームズ・ワン
出演 アナベル・ウォーリス、マッケナ・グレイス、マディー・ハッソン 他
こちらは2021年制作の アメリカ映画 です。(111分)
生い立ちに特殊な事情を持つ女性・マディソンは、夫・デレクと平穏に暮らしていたが、それまでに複数回子供を流産していた。再び妊娠するも、デレクと口論になり壁に頭を打ち付けてしまうマディソン。
そして、その日の夜、デレクは何者かに殺害される。その現場を目撃し再度流産してしまったマディソンは、悲しみに暮れる間もなく、夢の中でリアルで幻覚かのように殺人現場を疑似体験するようになる。
義理の妹のシドニーと共に、自分の過去を探るマディソンは自分と血を分けた双子“ガブリエル”の存在に行き着くも、警察から一連の事件の犯人として疑われ、どんどん追い詰められていく。
一体彼女の身に何が起きているのか、夢に出てくるガブリエルは今どこにいるのか、謎が明らかになるとき、さらなる恐怖の幕が上がる、、。
ジェームズ・ワン監督が5年ぶりに手掛けたオリジナルストーリーのホラー映画となるこの作品。一応私もデビュー作の「ソウ」や「死霊館」「インシディアス」辺りは観ている程度で、特別ワン監督に思い入れはないのですが、本作が前々からかなり話題になっていたもので今回レンタルしてみました。
ちょっと驚いたのが、これを鑑賞する少し前に観た「ラストナイト・イン・ソーホー」に設定がよく似ているという所。主人公の女性が寝ている間にリアルなヴィジョンを見てしまった事で現実世界で苦悩するという不思議な偶然にビックリしました。
ただこちらはがっつりとしたホラー映画で、監督自身この映画を80年代のホラー作品へのオマージュと語っている程、随所にその時代に作られていた多種多様なホラー映画のエッセンスや映像を感じる事が出来る、良い意味のごった煮サービス作品です
その80年代感はオープニングから発動されていて、当時沢山の映画をビデオで観ていた私たち世代には懐かしいVHSのノイズ画面から映画はスタート、ただしこのビデオ画面というのが後に物語の重要な謎解きの役割を果たす事にも繋がっているという上手い伏線にもなっていました。
そこからまさか今時これを?という「セブン」以降多くの映画で真似されたコラージュを多用したオープニングクレジットの古さにも驚きましたが、映画を観終わった後、ここで見せられていた映像にその後の謎が全て明かされている事に気付いた瞬間、二度ビックリするという憎い仕掛けが施されているのでした。
事の発端は妊娠していた主人公のマディソンがDV夫に暴力を振るわれ、頭と体を壁に強く打ち付けてしまう事から始まります。夜になり夫の様子を見に行ったマディソンは夫の傍にいた謎の影を見ますが彼女も襲われ気を失います。搬送先の病院で目覚めたマディソンは警察から夫とお腹の赤ちゃんが死んでしまった事を聞きます。
退院した彼女は自宅に戻り一人の生活を始めますが、ある晩リアルな幻覚を見ます。それは夫を殺した謎の影が女性を殺す瞬間を、まるでマディソンもそこに居合わせて居るような生々しい類似体験をします。その後も再び男性が殺される現場を間近かで目撃したマディソンは、あまりのリアルさに遂に警察へと出向くのですが、、。
不気味で謎を含む過去の病院のオープニングから現在の謎の影による猟奇的な殺人、霊的な出来事なのかオカルトチックな話なのか、はたまたサイキックなものかサイコなストーリーなのか、観客が予想する展開を次々にはぐらかしていく手腕が見事です
ただ期待値が高かったせいもあって個人的には中盤までは少々退屈に感じる所もあり原因としては誰に感情移入していいのやら、魅力的なキャラクターを見つけられなかったというのが正直な所でもあります。強いて言えば妹さんでしょうかね。
しか~し!中盤以降から徐々に展開も進み、謎の殺人鬼の名前がガブリエルと判明した辺りから面白くなってきました。誤解から留置場に入れられてしまったマディソンが囚人に暴行を受けてピンチになった瞬間、ガブリエル君が登場して悪の囚人と警察までもバッタバッタと成敗していくシーンにはテンション爆上がりでしたよ
見た目もなかなかキュートでファンキーなルックスとその斬新な動きに、新たなダークヒーローの誕生を予感させてくれました。帽子被れば女囚サソリ感
中盤までちゃんとホラーしていますが、それに加えミステリーやサスペンスにオカルトといった展開で興味を持続させ観客を飽きさせない作りになっています。反面ドッキリ描写は少な目なのでホラーが苦手な方でも見やすい作品になっています。
自分が養子である事で血縁関係に強い憧れを持つマディソンの心理を巧みに使い、これまで流産した原因の謎とそこから生まれる血縁への渇望を、ガブリエルに集約させていく展開の緻密さ、ラストでは血縁である事だけが本当の家族ではない事に気付くという愛についての側面も持ち合わせたホラーラブストーリーの映画でもありました
意外と笑える場面も多く、犯人の似顔絵を見た警官が、その見た目から「グーニーズ」のスロースを手配する?と80sツッコミをしたり、襲撃された警察署の警官が慌てて自分の警察署へ間違い電話しちゃったり、変な間で屋根裏からドーン!と人が落ちて来たりと、要所要所で笑ってしまうシーンがあるのも楽しい所です。
1回だけても面白い映画ですが、内容を理解した上で2回目を観ると様々な工夫や見せ方、巧みなはぐらかし方やつじつまが発見出来るような作り方がされているのにも気づけて、また違った楽しみ方が出来る作品です。
クローネンバーグがアクション作品を撮ったら「ヴェノム」みたいな映画が出来上がったみたいな、色々な要素がブレンドされたビックリホラー作品となっておりますので、興味がありましたらご覧になってみて下さいませ、です。
では、また次回ですよ~!