イングマール・ベルイマン監督の68年度作。小島に暮らす画家が、彼の昔の愛人を知る男爵家より晩餐に招かれ、当家の人々の奇妙な雰囲気の中で正気を失っていく。

 

 

 

 

 

 

              -  VARGTIMMEN  - 監督 脚本 イングマール・ベルイマン

 

  出演 マックス・フォン・シドー、エルランド・ヨセフソン、リブ・ウルマン  他

 

こちらは1966年制作の スウェーデン  映画です。(85分)

 

 

 

 

  北海の小島で暮らす、画家のユーハン・ボイルとその妻アルマ。 ある日、ユーハンが忽然と姿を消してしまいます。 彼の日記帳を今も大切に保管するアルマが、当時の事情について静かに語り始めます、、。

 

 

 

 

人嫌いのユーハンは孤独を好み、妻アルマを伴って7年前にこの小島へとやって来ました。しかし彼の創作活動は芳しくなく、不眠や過去のトラウマにも悩まされ、徐々にその精神はバランスを失い始めているようでした。

 

 

 

 

ある日、ユーハンの留守中に現れた謎の老婆の言葉に従い、ベッドの下に隠された彼の日記帳を読んだアルマ。 そこには彼の妄想、不安、苦悩、そして忘れられない過去の恋人ヴェロニカへの想いが綴られていました。

 

 

 

 

2人はバルトルム島の所有者だという男爵から招待を受け、その城を訪れます。男爵の一族と食事を取った後、男爵夫人は自分が購入したというユーハンの絵を2人に見せます。 それはかつての恋人ヴェロニカを描いたものでした。

 

 

 

 

城からの帰路、アルマはヴェロニカへの嫉妬で泣き出し、ユーハンを責め始めます。 それからしばらく経ち、眠れないままにユーハンは自分の過去の経験をアルマに告げます。海岸で釣りをしていた彼はある少年と出会い、ちょっとしたいさかいからその少年を殺してしまったというのです。

 

 

 

 

アルマはその話にショックを受けますが、それが本当かどうかはハッキリしません。そして男爵の一族のひとりがユーハンの家にやってきて、またパーティに誘います。出席者の中にはヴェロニカも含まれると告げ、拳銃を置いて去っていきます。

 

 

 

 

ヴェロニカのことで喧嘩になるユーハンとアルマ。ユーハンは手に持ったピストルでアルマを撃ちます。そのままユーハンは男爵の城へ向かいヴェロニカと再会する事になるのだが、、。

 

 

 

 

ベルイマンの未見作品を観ようと探していたところ、あのスティーブン・キングが好きなホラーとしてこの作品を挙げているというのを知って、「え!あの高尚なベルイマンが?」と興味を惹かれて早速お取り寄せしてみました。

 

 

 

 

まぁ分かってはいましたが、いわゆるホラー映画としてイメージする作品とはやや異なる難解な作品でしたが、確かにこれをホラーと言ってしまっても何ら問題のない作品ではあります。

 

 

 

 

「数年前 小島から画家ユーハンが突然姿を消した 彼の日記を保管する妻アルマが当時の事情を語ってくれた この映画は彼女の話と日記にもとづいている」 という説明文で始まる本作。

 

 

 

 

それに被さるようにカメラの奥で「用意、カメラ、スタート!」とベルイマンがスタッフに声をかけている音声が入っています。 これから始まる物語は作り物、映画ですよとわざわざアナウンスしているメタ的な構造をした作品です。

 

 

 

 

映画は残された妻アルマがカメラのこちら側へ語るモノローグから始まり、平穏な暮らしからスランプに陥るユーハンの姿が語られ、全ての発端となる謎の老婆から告げられたベッドの下にあるユーハンの日記をアルマが読んだ事から事態は変化していきます。

 

 

 

 

その中に綴られている様々なユーハンの日常と苦悩と妄想。 次第に物語はユーハンの現実世界なのか空想なのか、はたまた日記を読んでいるアルマの妄想なのか、映画自体が誰の視点で語られているのかがいつの間にか曖昧になったまま進んでいくのです

 

 

 

 

その後、島の所有者と名乗る人物の屋敷に招待されますが、その誰もが非現実的な異様な人々ばかりで、会話も意味不明。 そこで披露されるモーツァルトの「魔笛」の人形劇がまた不気味。

 

 

 

 

「金のための仕事でも素晴らしい芸術作品を創作したモーツァルト」と「芸術家でありながらいまだに何も生み出せていないユーハン」との残酷な対比が、より彼を孤独の闇に追い込んでいきます。

 

 

 

 

そして子供が生まれ、病人が死ぬ真夜中の狼の時刻、ユーハンは幼かった頃の恐ろしい体験をアルマに聞かせ海岸で少年を殺した事を告白します。 すると屋敷からの使いが訪ねて来てパーティーの誘いとヴェロニカも来る事を告げ、護身用に拳銃を置いて立ち去ります。

 

 

 

 

嫉妬に駆られたアルマはユーハンを責め、彼は銃口をアルマに向けて発射します。 ユーハンはその足で屋敷に向かい奇妙な体験をする事になり、最後は屋敷の人間達に襲われて森の中に消えていきます。はたしてユーハンの体験したものは現実だったのか幻覚だったのか、、。

 

 

 

 

そもそもこれはアルマが他者に語っている話であり、彼女の主観と妄想も盛り込まれている物語だという事も重要です。オープニングでアルマが語っている相手すら誰なのか分からず、全てがアルマの生み出した妄想にもとれるのです。

 

 

 

 

男と女が長い間一緒に暮らしているとそっくりになるんでしょ? 愛する人と同じことを考え同じ物を見たくなる そして人が変わってしまう 私たちは幻覚まで共有したの?現実だったの? 強すぎる愛情が良くなかったの? それとも愛が足りないから嫉妬に振り回されたの?もう疑問ばかり、、。

 

 

 

 

映画のラストでアルマが他者に向かって投げかけるセリフですが、この言葉は映画の前半で既に一度ユーハンに語っています。 もしかしたら彼女がユーハンに対して嫉妬を抱いた事から始まった幻覚とも思える言葉です。

 

 

 

 

ユーハンの芸術家として、男としての苦悩を幻覚としてを描いた作品にもとれますし、妻という立場で崩壊していく夫の姿を不安で懐疑的な視点で描いたようにもとれます。と 同時に同じ芸術家であるベルイマン自身の葛藤を登場人物に投影した物語でもあるという様々な視点を持つ作品である事は間違いありません。

 

 

 

 

見事なロケーションと深い陰影を映し出した撮影の美しさは見事の一言で、特に人間の闇すらも映し出すカメラはそれだけで観る価値のある作品です。 

 

 

 

 

まるでホラー映画のような見せ方で人間の崩壊と破滅を、悪夢のような美しさと残酷なまでのイマジネーションで体験させてくれる恐ろしい映画となっていますので、機会がありましたらご覧になってみて下さいませ、です。

 

では、また次回ですよ~! パー