若い男女がおもいがけない事のなりゆきで罪を犯し、警察に追跡されながらテキサス周辺300マイルにおよぶ逃避行をやってのけたという1969年に実際に起きた事件を素材にしたアクション。

 

 

 

 

 

 

    -  THE SUGARLAND EXPRESS  -  監督 スティーブン・スピルバーグ

 

 出演 ゴールディ・ホーン、ウィリアム・アザートン、ベン・ジョンソン、

                                                                        マイケル・サックス

 

こちらは1974年制作の アメリカ映画 アメリカ です。(110分)

 

 

 

 

  窃盗の罪で収監されていたルー・ジーン・ポプリンは出所後、同じく軽犯罪でテキサス州立刑務所に収監されている夫クロヴィスに面会し、脱走をもちかけた。 彼女は福祉局によって里子へ出された息子ラングストンを奪還するため、共にシュガーランドへ向かおうと計画していた。

 

 

 

 

4か月後に出所を控えていたクロヴィスは脱走に反対するも、ルー・ジーンに離婚を切り出されて渋々計画に付き合うことになる。刑務所を出た二人は、囚人仲間ヒューバーの両親ノッカー夫妻の車に同乗してシュガーランドに向かう。

 

 

 

 

しかし、車が些細な交通違反を起こしてスライド巡査のパトカーに呼び止められてしまい、脱走がバレたと勘違いしたルー・ジーンは車を奪い逃走する。スライドは近隣のパトカーに応援を呼びかけて二人を追跡するが、二人の乗る車が林に飛び込み故障し、ルー・ジーンはスライドを人質にしてパトカーを奪い取りシュガーランドに向かう。

 

 

 

 

三人の乗るパトカーは巡回中のパトカーに発見され、報告を受けたタナー警部はパトカーを引き連れて追跡を開始する。 しかし、「息子を取り戻したい」という二人の犯行理由を聞いたタナーは強硬策に出ることをためらい、パトカーを連れて三人の乗るパトカーを後方から追跡するに留め、その間にテキサス中のパトカーが合流し、さらに騒ぎを聞きつけたマスコミが駆け付け事件を報道する。

 

 

 

 

警察側は三人がドライブスルーで休憩中に二人を狙撃しようとするが、二人に感情移入し始めていたタナーによって狙撃が中止され、三人は逃走に成功する。逃走の中、行動を共にするスライドも二人に感情移入するようになる。

 

 

 

 

一夜を明かした二人に改めて投降を呼びかけるが、二人はそれを拒否してシュガーランドに向かうことを決め、スライドも二人に同行する。 二人の意思が固いことを知ったタナーは、狙撃手をラングストンの里親の自宅に向かわせ、二人を待ち伏せるように命令し、再び追跡を開始する。

 

 

 

 

三人が行く先々には報道を見た住民たちが集まり、息子を取り返そうとする二人を応援し、警察やマスコミに混じりパトカーを追いかけるようになる。 三人が里親の自宅に到着する直前、タナーは最後の説得を試みるが、二人は投降を拒否して里親の自宅に向かう。しかし、異変に気付いたスライドは家に入ることを止めるように二人を説得するのだが、、。

 

 

 

 

最初にこの作品を観たのは確か中学生の頃のテレビ放送。それからも何度か観返した作品ですが、久しぶりにまた観たくなってレンタルしてみました。「続・激突」というタイトルからも察しの通り監督はあのスピルバーグで、劇場映画としてはこれが記念すべきデビュー作ではあるのですが、日本では安易で残念なタイトルを付けられてしまっている可哀そうな作品でもあり、原題は 「シュガーランド・エクスプレス」 でございます。

 

 

 

 

テレビで「刑事コロンボ」等を単発で監督していた頃、テレビ映画として任されたのがあの「激突!」で、作品の評判が良かった為に海外では劇場公開されています。 その手腕を評価され劇場映画の監督1作目として製作されたのが本作で、数多いスピルバーグの中でも個人的に大好きな作品の一つでもあります。

 

 

 

 

自身の犯罪の為に、里子へ出されてしまった息子を取り戻そうとパトカーをジャックする若い夫婦というとんでもストーリーですが、こちらは1969年に実際に起きた事件を脚色した物語で、オープニングの更生施設の脱走は脚色ですが、彼等の後ろに隊列を組んで走行するパトカーやニューシネマ的なエンディング等、大まかなプロットはそのまま生かされています。

 

 

 

 

息子を取り戻したいという一心で、もうじき釈放の身の夫クロヴィスを更生施設の刑務所から無理矢理脱走させてしまう若い母親ルー・ジーン。 後先考えない彼女は行き当たりばったりのまま新米警官スライド共々パトカーを強奪し、息子のいるシュガーランドへ向かう事になります。 ただこの里親さんのお家がかなり豪華で、そちらで育てられた方が彼にとっても幸せそうに思えてしまったりもするのですがね、、。

 

 

 

 

事件の報告を受けた強面タナー警部はパトカーを引き連れて追跡を開始。 二人の説得

にあたりますが人質が警官である事、その犯行目的が特殊なもので危険性の少ない事を理由にしばらく様子をうかがう事にします。 こうして二人を乗せたパトカーとそれを追尾するパトカーというユーモラスなロードムービーの旅が始まります。

 

 

 

 

終始子供のような無邪気な二人と、人質となってしまった若い警官との関係性の変化やそれを後ろから見守り続けるタナー警部の微妙な心の変化がこの映画の最大の魅力です。 重罪を犯しているという意識もほとんどないルー・ジーンとクロヴィスの無邪気さの罪、彼らに共感しながらも警官である事を貫こうとするスライド。 同じく二人に同情しながらも警部として法を守りつつ落としどころを探るタナー警部の父親のような視点。

 

 

 

 

「激突!」では姿さえ見えない相手との孤独な戦いが描かれていましたが、本作ではそれぞれの立場に置かれた人達の心理や行動が繊細な描写の積み重ねと大胆な映像で描かれています。 特に印象深いショットが、バックシートに座ったルー・ジーンが後続のタナー警部のパトカーにガラス越しに「ハーイ」と指で書くシーン。 こんな状況で?と疑う場面ですが、それを笑顔で返すタナー警部との短い心のふれあいには痺れました。

 

 

 

 

他にも逃亡犯の身であるにもかかわらず必死でスーパーのゴールドスタンプを集める姿車の中でその集めたスタンプをどのベビー用品と交換しようか悩むルー・ジーンの母親としての心境、スライドと写真を見せ合う場面や、二人に発砲した自警団の車を自らの手で破壊するタナー警部の佇まい等、繊細な人間描写が記憶に残ります。

 

 

 

 

中でもドライブインシアターに映るアニメ映画を二人で観る場面。 破天荒なアニメの主人公がドタバタを繰り広げ、最後に崖から地面に落ちていくシーンを悲しげな表情で見つめるショットには、二人の現在と未来が重なって見える秀逸さと刹那さがありました。

 

 

 

 

そういった細かな人間描写が多分にある映画ですがそこはスピルバーグ監督、車破壊のカーアクションや銃撃場面、サスペンスフルな展開や大胆な映像表現といった後年のスピルバーグ作品を予感させる映画的な面白さも十分に詰め込まれています。

 

 

 

 

コメディのようなユーモラスな展開に始まり、警察からマスコミ、果ては民衆を巻き込んでお祭り騒ぎのように巨大化していく二人の行動。 子供を取り戻したいという目的で始まった旅は、映画が始まった瞬間からそこに明るいゴールがない事は誰の目にも明らかで、目的地が近づくにつれ明るい二人の表情とは裏腹にシビアな現実が徐々に迫り映画は冷たい緊張感に包まれていく事になります。

 

 

 

 

前述したようにこの作品は実話を基にした作品の為、そのエンディングの結果は事実に則したものになっています。 映画を観た事で二人と共に同じ旅を経験した観客には、二人が根っからの悪人でない事が分かっているだけに、最後まで決断を迷っていたタナー警部同様ただただやるせない気持ちになってしまうエンディングでした。

 

 

 

 

シンプルなストーリーながら見事な人間描写とアクションが交錯した一級のエンターテインメント作品に仕上がっている作品で、第27回カンヌ国際映画祭では脚本賞を受賞しています。 

 

 

 

 

この次にあの「ジョーズ」を監督してハリウッド映画を牽引する事になるスピルバーグのラストアメリカンニューシネマともいえる名作だと思いますので、残念なタイトルに惑わされる事なく(笑)、この機会に是非ともご覧になってみてくださいませ、です。

 

 

では、また次回ですよ~! パー