俳優・クリエイターとして幅広く活躍するエメラルド・フェネルが、自身のオリジナル脚本でメガホンをとった長編映画監督デビュー作
- PROMISING YOUNG WOMAN - 監督 脚本 エメラルド・フェネル
出演 キャリー・マリガン、ボー・バーナム、アリソン・ブリー 他
こちらは2020年制作の アメリカ映画 です。(113分)
カサンドラ・トーマス(キャシー)は極めて優秀な女性で、誰もが彼女には輝かしい未来が待っている 「プロミシング・ヤング・ウーマン」 (前途有望な女性)だと確信していた。 ところが、医学部在籍中、親友のニーナが同級生のアルにレイプされるという事件が発生した。
ニーナは周囲に被害を訴えたものの、誰からも信じてもらえなかったことに絶望し、自殺してしまった。 この出来事にショックを受けたキャシーは医学部を中退し、それ以来、近所の喫茶店でバリスタとして働いていた。 彼女には学生時代の明るさや覇気は最早なく、両親の元で毎日を無為に過ごしているかに見えた。
しかし、キャシーの夜の顔は昼のそれとは全く違うものだった。 夜になるや、キャシーは復讐の鬼へと変貌し、女性を性欲のはけ口としか思わない男たちに制裁を加えていった。 そんなある日、キャシーはかつての同級生ライアンと期せずして再会した。 これをきっかけに、キャシーは忌まわしき過去を清算する覚悟を決めるのだった、、
女優としても活躍するエメラルド・フェネルの初監督・脚本作品で、第93回アカデミー賞では作品、監督、主演女優、編集等の5部門にノミネートされ、見事脚本賞を受賞した作品で、キャッチコピーには復讐エンターテインメントとありました。
そんなコピーからてっきり主人公のキャシーが、男どもを拳銃でバッタバッタと倒していくリベンジ映画だと思ったのですが、意外にもその内容は想像を超えた重いテーマをはらんだ女性目線のヘビーなお話でした。
30歳で独身の主人公キャシー。 未だに両親と同居し、恋人も趣味もなくコーヒーショップでバイトをする彼女には密かな日課がありました。 それは夜な夜な町にあるバーで泥酔したふりをして、寄ってきた男どもに制裁を与えるというものでした。 何故そのような事をするのかの説明は映画の序盤ではありません。
大きな変化が訪れるのはキャシーのバイト先に大学時代の友人ライアンが立ち寄った事から物語は具体化していきます。 彼女が医学部を中退した事、そこでキャシーにとって大きな事件があった事、その事件に関わった友人達が普通に家庭を築いている事を知った彼女は、過去を清算する為に行動に移す事にします。
その事件とは、キャシーが在学中に親友のニーナが泥酔している中で男子学生にレイプされたというものでした。 それを苦にニーナは自殺してしまい、加害者はお咎めなしという不公平なもの。 彼女を救えなかった悲しみと失ったショックで大学を中退したキャシーの時間はそこで止まったままになっていたのです。 そこでニーナを自殺に追い込んだ人物をターゲットにした復讐を実行していく事になります。
最初のターゲットは、ニーナの噂話を広めて彼女の評判を悪くした女友達のマディソン。彼女をレストランに誘い、薬を混ぜたお酒で泥酔させ、見知らぬ男の居る部屋で目覚めさせ酔った勢いで浮気したと思い込ませて自尊心を傷つけます。
第2のターゲットはニーナのレイプ事件をもみ消して彼女を中退に追い込んだ大学のウォーカー学長です。 彼女の娘をダイナーに足止めさせ、学長に自分の娘を事件のあった部屋の男に紹介したと告げます。 パニックになり娘の無事を懇願する学長。「 自分の愛する人だと見方が変わる」と告げ無事な事を教えます。
第3のターゲットはニーナがレイプ事件を告訴できないようにしたグリーン弁護士です。キャシーが弁護士の家を訪ねると、罪の意識に苛まれ仕事も休職して弱りきった姿の男が居ましたひざまずいて許しを請う弁護士に哀れみと虚しさを浮かべるキャシー。
復讐が進むと同時に、友人ライアンとの恋愛も順調に進展していたキャシーに事件当時現場で撮影されていたビデオの存在を知ります。 その映像を見たキャシーはそこに驚きの事実を発見する事になり、全てを悟った彼女は最後のターゲットである事件の当事者アルの独身さよならパーティーに乗り込んでいくのでした、、。
映画のルックスはとってもお洒落でポップ、映像も音楽も今時の洗練さでキャシーのファッションもメチャ可愛い!のですが、作品のテーマはとってもヘビー。 こういったテーマを女性監督の視点で描いた事に本作の意味があるように思えました。
酔った勢い、若気の至りで起こしたレイプという事件によって当事者のみならずそれを傍観していた人間、もみ消した人間、弁護した人間、止められなかった人間の罪の所在を探すキャシー。 被害者、その家族や友人ばかりでなく、その周りの人たちも傷つけてしまっていることを、この作品はリアルに訴えています。
復讐やリベンジ映画でありながら拳銃やナイフ、血といった直接的な暴力描写がないのもこの作品のセンスの良さで、そういった直接的表現を抑えているのも社会にある暗黙の男は、女は、という盲目的な構造やルールを揶揄しているようにもとれるのです。
多くを語らない前半から、目的を達成しながら普通の幸せを手にする中盤、怒涛の胸糞気分になる後半と飽きさせない巧みなストーリー展開が見事です。 特に後半のキャシーに起こる災難からの予約メッセージは、悲しみと快感が同時に押し寄せるような不思議な映画的な感覚を味わいました。
ニーナを救う事が出来なかった自分自身もキャシーは許せなかったんでしょうか? 復讐が終わり、映画もエンディングを迎えても、切なさと悲しみの余韻が残る作品でした。
このキャシーを演じているのがキャリー・マリガンという女優さんで、こちらでも「未来を花束にして」や「ワイルドライフ」という作品を以前にご紹介していますがそのどれとも違った華やかさと刹那さで主人公を演じていてとっても魅力的でありました。 恋人役のボー・バーナムって「エイス・グレード」の監督さんだったのにも驚きました。
現代的な映画手法で、現代的な視点の男と女描いた本作。 ただ、その根底には普遍的な愛と憎しみ、微かな期待が見え隠れする作品でした。 ラストの絵文字が映画の全てを物語っているようで、ちょっと切なかったな~。 といった所で、様々な感情に訴えかけて来る映画になっていますので、機会がありましたらご覧下さいませ、です。
では、また次回ですよ~!