難病を抱えた青年が前を向いていく姿を、独特な映像美で描いたヒューマンドラマ。

 

 

 

 

 

 

       -  JATTEN  -   監督  脚本  ヨハネス・ニーホルム

 

 出演 クリスティアン・アンドレン、ヨハン・シレーン、アンナ・ビエルケルード他

 

 こちらは2016年制作の スウェーデン  デンマーク  

                          の合作映画です。(90分)

 

 

 


  スウェーデンの福祉施設で暮らしている青年リカルドは、頭蓋が変形した狭頭症という難病を発症したままこの世に生をうけます。 父親は誰か分からず、母親は出産後に精神のバランスを崩してリカルドを育てる事が出来なくなり、別の施設に収容されています。他の人達とは違う外見のせいで周囲の差別や好奇の目にさらされてきたリカルドでしたが、彼にはひたむきに打ち込んでいるものがありました。 

 

 

 

 

それはフランス発祥の球技ペタンクでした。 コート上で金属のボールを投げ合って、相手と得点を競い合うこのスポーツで才能を発揮したリカルドはこれまでに多くの大会でトロフィーを獲得。 今は気のいい中年男のローランドとのペアで間近に迫った北欧選手権への出場を目指していました。

 

 

 

 

そんなある日、リカルドは練習中に背後から飛んできたボールを頭部に受け意識不明の重体に陥ります。 幸いにも回復したリカルドでしたが、この事故を問題視したクラブの役員から北欧選手権に出す事は出来ないと通告されてしまいます。 彼は視力が他人の半分しかなくコートを行き来するのは危険だと判断されたのです。

 

 

 

 

あまりのショックに無言で退場したリカルドを支えたのは唯一の親友でもある相棒のローランドでした。 大会を諦めない彼らはチーム・スッギという二人だけのチームを結成して空き地でペタンクの練習に励みます。 

 

 

 

 

身体のサイズも人並み以下のリカルドは現実世界では無力な存在でしたが、空想の世界では雄大な山岳地帯をのっしのっしと歩く巨人でいられました。 そんな空想世界に安らぎを見出しているリカルドは北欧選手権で優勝すれば母親との暮らしを取り戻せると信じていました。

 

 

 

 

30歳のバースデーを迎えた日にこっそりと施設を抜け出したリカルドは、自転車を走らせて母親が居る施設を訪ね、ドア越しに一瞬だけ彼女と対面する事が出来ましたさらにローランドから金色のペタンク・ボールをプレゼントされたリカルドは北欧選手権での優勝を改めて胸に誓います。

 

 

 

 

そしていよいよ大会当日、ペタンク・クラブの仲間達とも和解してコペンハーゲンの会場に乗り込んだリカルドは、金色のボールを自在に操りローランドと組んだダブルス部門で連戦連勝。 ついに前回大会の覇者である強豪のデンマーク・ペアとの決戦に選出するのですが、、。

 

 

 

 

以前ご紹介したホラー映画「ココディ・ココダ」のヨハネス・ニーホルム監督のデビュー作で、スウェーデンのアカデミー賞にあたるゴールデン・ビートル賞で作品賞を含む3部門を受賞したヒューマンドラマでございます。

 

 

 

 

「ギルバート・グレイブ」や「アイ・アム・サム」等の障害や難病を扱った映画の部類に入る本作ですが、その見た目は「エレファント・マン」や「マスク」でも描かれた狭頭症の一種で頭部が異常に肥大変形してしまった難病のリカルドの生活をまるでドキュメンタリーのようなリアリティで描いたものが本作になります。

 

 

 

 

仲間や施設からひとたび外の世界へ出た途端、奇異な視線と差別やイジメに遭うリカルドの現実世界の苦難と、それを補うように空想する色に溢れた壮大なイマジネーションの世界。 リカルドの強さや自由への渇望を象徴するような巨人の姿が印象的です

 

 

 

 

厳しい現実の世界と、映画ならではの豊かなイマジネーションの世界のバランスの中で母親と子の情愛や人間の尊厳、生きる希望といった普遍的なテーマを押し付けることなくそのままに観客の胸に響かせる、様々に異なるマイノリティの社会派ドラマに仕上がっています。

 

 

 

 

監督は「これは疎外感とそれに耐える方法について描いた作品です。 不幸や惨めな気持ちは私達全員の心の中や経験の中に渦巻いているということです。 そんな人達や状況と関わった時、私達の心が反響し、それについてもっと理解できるようになるのです」

 

 

 

 

「リカルドは私達が見慣れているものや普通の人々とは大きく違っています。現実的な形式と対象を成す不条理。 自分の環境で生き残ろうとする個人。 厳しい現実を知った上で、何かすべてを超越したものがあるという希望を提示したいと、どんなに物事が不快であっても常に別世界から差し込む一条の光があることを信じて、そうなっていることを心から願っています。」 と語っています。

 

 

 

 

現実に様々な障害を持つ人達も多く出演されている本作。 普段見て見ぬふりをしている別の現実世界に触れる良い機会にもなるこの映画は、普遍的な人間の生きる事への意味や希望をあるがままに描いた独創的な作品であり、生きることへの勇気と生命力に満ちた作品になっていますので、機会がありましたらご覧になってみて下さいです

 

では、また次回ですよ~! パー