ニューヨークに暮らす老人ハリーが、区画整理でアパートを追い出された。

 

彼は愛猫のトントを連れて、娘の居るシカゴへ向かう。

 

 

 

 

 

 

          -  HARRY AND TONTO  - 監督 製作 ポール・マザースキー

 

 出演 アート・カーニー、エレン・バースティン、ラリー・ハグマン、

                                                                          メラニー・メイロン 他

 

こちらは1974年制作の アメリカ映画 アメリカ です。 (115分)

 

 

 

 

 

 

  72歳のハリーは、妻に先立たれ3人の子供達も独立しており、マンハッタンのアパートに、愛猫トントとともに暮らしていた。しかし、区画整理の為に、アパートから強制的に立ち退かざるを得なくなり、長男バートの家へ移り住むことになるも、バートの妻に気兼ねしなければならず、シカゴにいる娘のシャーリーを頼って旅に出る決心をした。

 

 

 

 

 

 

バートは飛行機で行くことをすすめたが、トントと一緒では飛行機に乗せてもらえずバスで行くことになった。しかしそのバスもトントのために途中で降りなければならなくなり、中古車を買って目的地に向かうことにした。車で旅を続けることで、様々な人と出会うことになり、、。

 

 

 

 

 

 

私が大好きな映画の一本で、今でも度々観返してしまう愛しの作品です。 これも一応アメリカンニューシネマの部類に入る作品で、長年暮らしていたアパートが老朽化で取り壊される事になり、飼っていた茶トラ猫のトントと一緒に子供達の下を訪ねて旅をするというロードムービーでございます。

 

 

 

 

 

 

まずはオープニング、ニューヨークの街を行きかう老人達の様々な表情がスケッチされ雑多な都会とそこで暮らす老人のコントラストに哀愁を感じさせます。 その中に猫にリードを付けて散歩する老人の姿が登場、主人公のハリーとトントです。 当時でも珍しかったと思われるそのミスマッチな散歩スタイルがとってもキュートです。

 

 

 

 

 

 

妻を亡くし猫のトントと長年暮らしていたアパートが取り壊しになりますが、一応最後まで抵抗を試みるハリーでしたがソファーに座った状態で遂に立ち退きを命じられてしまいます。 一旦は長男の家で暮らす事になりますが、どこの家でも問題を抱えているもので居心地の悪さから娘が暮らすシカゴへ旅立つ事を決意します。 

 

 

 

 

 

 

その間にも、身寄りのない友人が亡くなった事を知り、遺体安置所に別れを告げに訪れるハリー。 冷たい安置所に横たわった孤独な人間の死の寂しさを感じる場面です。

ただハリーは孤独ではなく、長男は彼を愛していて引き留めるんですよね。 でもハリーは互いの事を思って去ろうとする。 息子はそんな父親を広い家に迎え入れてあげられない自分の情けなさを悔やんでいる姿が垣間見えるのが切ないです。

 

 

 

 

 

 

飛行機でシカゴへ向かおうとしますが、トントを荷物検査に渡すのを拒んで長距離バスに乗り換えます。 バスの中でトント用にでサンドイッチを分けてもらう場面が愉快です。しかし、トントのトイレの為に無理からバスを停めてもらうハリー。 一応バスの人間用トイレでおしっこさせようとチャレンジして「無理だとおもった」と嘆く場面もお茶目です。

 

 

 

 

 

 

という訳でバスを下ろされ向かった先は中古車店、安い車を購入してシカゴへ向かってドライブとなりますが、免許証は何十年も前に期限切れ。 それでも娘の居るシカゴを目指す度胸の据わったハリー。 その道中でヒッチハイクしていた家出少女ジンジャーを乗せる事に、世代を越えたふれあいに和みます。 

 

 

 

 

 

 

ジンジャーとの会話の中で昔の恋人を思い出すハリー、話の流れから彼女を訪ねてみる事にしますが、愛しの恋人は老人ホームに入っていました。 花を買って訪ねると彼女は認知症を患い記憶が曖昧でした。 

 

 

 

 

 

 

ハリーを他の誰かと混同しますが、彼は優しく耳を傾け、二人でダンスを踊るのでした。 この何気ないダンスシーン、過去の若く美しかった頃の思い出と現在の年老いた二人の姿が頭の中で交錯するようで、とても素敵でした。

 

 

 

 

 

 

その後、娘が暮らすシカゴへ到着して娘に会いますが、彼女は4度目の離婚をしていました。 何かと意見がぶつかる二人。 教師の仕事を紹介する彼女に「私が好きか?」と尋ねるハリー「気に入らないところもあるけど愛してる」お答える娘。 それを聞いたハリーは次男の住むロスアンゼルスへ向かって旅をつづける事にします。

 

 

 

 

 

 

車を譲りヒッチハイクをするハリーとトント、髭のセールスマンに会ったり、娼婦に会って○○したり、カジノへ寄り道してみたり、留置場へ入れられてネイティブアメリカンに呪文を唱えられたりしながら次男と再会します。 見た目は羽振りが良さそうだった次男でしたが、事業に失敗して一文無しの状態でした。 泣き崩れる息子を励ますハリー。

 

 

 

 

 

 

それから数日後、ハリーは西海岸で暮らし始めていました。 しかし、ずっと一緒だったトントが体調を崩し病院へ向かいますが、亡くなってしまいます。 一人海岸を歩くハリー、、、

ある日、海岸でトントそっくりの茶トラ猫を見つけて後を追うハリー。 まだしばらく彼の人生はつづくようです、、。

 

 

 

 

 

 

移り変わる時代と老い、巣立った子供達もそれぞれ悩みや苦悩を抱えながら生きている姿を静かに見つめながら、残された時間を正直に生きるハリー。 人生の後半を共に過ごしたトントとの別れをや悲しみを全てしっかりと受け止めながら前を向いて立つ彼の姿に静かな感動を覚えます。

 

 

 

 

 

 

多分この映画の根底には小津安二郎の「東京物語」にインスパイアされた所があると思いますが、実にアメリカ的な発想が随所に見られる作品で、老いをものともしない 性 という話題が多く登場したりして、生きる事への強さを感じさせられます。

 

 

 

 

 

 

そしてとにかくハリーとトントのコンビが最高なのが最大の魅力で、もうハリーがトントを抱いている画だけで魅せられてしまいますよね。 これがなつこい犬ではない自由気ままな猫という存在がハリーの分身のようで、付かず離れずの微妙な距離感が変なセンチメンタルさを浄化してくれて、灰汁の強いハリーや登場人物達の姿を優しい色で包み込んでくれています。 

 

 

 

 

 

 

足早に進化していく現代社会と、そこに居ながら置き去りにされる老人の姿をテーマにしながらも、決してセンチメンタルにならず声高に叫ぶ事もしない社会派ドラマの本作。 これを優しい視点で観れるのはまさにハリーの人間的な優しさと、トントのとにかく可愛い仕草の賜物に尽きる映画です。 そうそう出演者が名を連ねるエンドロールには、しっかりと TONTO の文字が誰よりも大きく表示されます。 素敵な配慮ですよね。

 

 

 

 

 

 

ロードムービー好きは勿論の事、ニャンコ好きにはたまらない作品だと思いますので、この機会にでも一度ご覧になってみてはいかがでしょうか、です。

 

では、また次回ですよ~! パー

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ映像ですが、ビル・コンティのテーマ曲を乗せてみた動画です。 宜しければ。 音譜