「ロゼッタ」「ある子供」で2度に渡ってカンヌ国際映画祭のパルム・ドールを獲得している世界的な名匠ジャン=ピエール、リュック・ダルデンヌ兄弟が、初めて愛の物語を紡ぐ

 

 

 

 

 

 

- LE SILENCE DE LORNA -   監督 脚本 ジャン=ピエール、リュック・ダルデンヌ

 

出演 アルタ・ドブロシ、ジェレミー・レニエ、ファブリツィオ・ロンジョーネ 他

 

こちらは2008年制作の ベルギー映画  です。(105分)

 

 

 

 

  アルバニアからベルギーへ移民として渡ったロルナは、ブローカーのファビオの手引きで、麻薬中毒のベルギー人クローディと偽装結婚する。 ファビオは、ロルナが国籍を取得したらクローディを殺し、国籍を必要とするロシア人と彼女を結婚させようとしていた。 ロルナも、同郷の恋人ソコルとバーを開くという夢のため計画に乗るが、ロルナを必要とするクローディと時を過ごすうちに罪の意識が芽生え始める。 

 

 

 

 

そんなクローディは薬の禁断症状が悪化し入院する事に。 彼との離婚を早めたいロルナは自分の体を傷つけてクローディから暴力を受けた振りをし、看護婦のモニクを証人にして離婚を申請する。 退院したクローディはロルナに感謝して夕食の約束をするしかし裁判所から離婚を認める文書を受け取った彼女は、ファビオにそれを伝えるため約束もほどほどに家を飛び出して行く。 ファビオは客のロシア人を説得し、離婚手続きが済むのを待つと彼女に伝える。 ロルナが家に戻ると、彼女に見捨てられたと思ったクローディが薬の売人を呼んでいたがロルナは必死にそれを止めるのだった。 

 

 

 

 

その後、2人は激しく愛し合う。 しかし、クローディはファビオの計画通りにあっけなく殺されてしまう。 ロルナはクローディが残したお金を母親に届けるが、彼の兄に拒絶されてしまう。 ロルナはロシア人と顔合わせをし、受け取った前金で夢だったバーの物件を契約する。 ソコルと電話で話していたロルカだったが、強い腹痛を感じて座り込んでしまう。 自分が妊娠している事に気付いた彼女は、堕胎のため病院を訪れるが、エコー検診の直前に感情が爆発したロルカは検査室を飛び出してしまう。 ロシア人はロルナの妊娠を知ると激昂し、ブローカーのファビオは子供を堕ろすよう詰め寄るが、再びロルナを腹痛が襲う、、。

 

 

 

 

ダルデンヌ兄弟による本作も、これまでの作品同様全くブレる事のないドキュメントタッチの作風によって描かれています。 社会の中でなんとかしがみつきながら生き抜こうともがく一市民の女性ロルナの危うい生活を一切の装飾を排除したリアリズムの中、ロルカのみを追うカメラが観客を彼女と同じ世界に没入させます。

 

 

 

 

映画は銀行の窓口とお客の間で受け渡されるお金の映像で始まります。 そのお客側が主人公のロルカで、「今日ベルギーの国籍を取得した」といった短い会話が窓口の女性と交わされ、状況説明のないまま観客はロルカの日常の世界に同行する事になります。

 

 

 

 

あえて説明をしない事で、こちらは早く彼女の人物像を知ろうとセリフや仕草に集中していつの間にかロルカの日常がまるで自分の日常であるかのように自然と同化しています。 これがダルデンヌ兄弟の映画マジックなのですが、主人公の大半は社会的にヘビーでシビアな状況に置かれている為に観ているこちらもかなりの体力を使う羽目になります。 その分、考え、深く体感できる作品でもあるのですが、、。

 

 

 

 

移民としてベルギーにやって来たロルカはベルギーの国籍を取得する為にブローカーの仲介で偽装結婚をします。 国籍を取得した彼女は早々と離婚して次に国籍取得しようとしているロシア人と再び結婚しようとしますが、離婚しようとしていた男は麻薬中毒者で薬から抜け出す為にロルカに協力を仰ぎ彼女を頼っていました。 

 

 

 

 

最初はお金の為に早く離婚したかったロルカでしたが、彼女を頼り、更生していく彼の姿を見ていくうちにロルカの中に少しずつ変化が訪れますが、用が無くなった彼はブローカーにあっけない程簡単に殺されてしまいます。 

 

 

 

 

しばらくして彼の子供を妊娠している事に気付き、ロルカは初めて真の愛情に目覚めるといった物語としては非常にシンプルではあるのですが、無駄のない動きとセリフその映像や画角によって痛みと儚さが画面を通じてダイレクトに伝わってくる映画の魔法によって完全に物語に没入してロルカに同化している自分がいました。

 

 

 

映画の冒頭からお金の画で始まる作品ですが、本作では特にお金をやり取りする場面が意図的に多く登場する事によって、国籍や夫婦、はたまた子供といった人間のアイデンティティすら資本主義の中に取り込まれてしまっているような現在の構造に疑問を呈しているようにも感じます。 

 

 

 

 

映画の中でほぼ暗い顔をしているロルカが劇中で一瞬だけ見せる笑顔の場面に、人間の普遍的な幸せって、お金ではなくこういう単純な事なんじゃないの?と改めて気付かさせられる瞬間がありました。 

 

 

 

 

これまで一切音楽を使わなかったダルデンヌ監督が、ラストのロルカに寄り添うように初めてエンドクレジットで音楽を流している事で、ロルカの決断と将来に希望を感じさせているようで、その優しさが映画が終わった後でも尾を引く余韻になっています。それが贖罪の気持ちからでも、空想でも、妄想だったとしても、愛には変わりない強い指針になる得ると思わせてくれるような映画体験でした。 上手く言えてませんが、、。

 

 

 

 

あの何気ないロルカとクローディが見せる笑顔の瞬間が忘れられない作品となりましたそんな訳で、時にはこんな充実した時間を過ごしてみてはいかがでしょうか?といった感じで、機会があれば一度ご覧になってみて下さいませ、です。

 

では、また次回ですよ~! パー