監督のダルデンヌ兄弟が2003年に日本で開催された少年犯罪のシンポジウムで耳にした育児放棄の実話から着想を得た作品で、カンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを受賞。

 

 

 

 

 

 

 -  LE GAMIN AU VELO  - 監督 脚本 ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ

 

 出演 トマ・ドレ、セシル・ドゥ・フランス、ジェレミー・レニエ 他

 

こちらは2011年制作の ベルギー  フランス フランス イタリア イタリア 

                                                                 による合作映画です。(87分)

 

 

 

 

  シリルは、もうすぐ12歳になる少年。 彼の願いは、自分を児童養護施設へ預けた父親を見つけ出し、再び一緒に暮らすことだった。 そんなシリルと偶然知り合った美容師の独身女性サマンサは、シリルに週末の里親になって欲しいと頼まれると、それを受け入れたばかりか、シリルの父親の行方探しを手伝う。 サマンサのおかげでようやく父ギイと再会できたシリルだったが、自分の生活で手一杯のギイは二度と会いに来るなとシリルを追い返す。 激しいショックを受けたシリルだったが、それから後も週末はサマンサの家で過ごすようになる。

 

 

 

 

サマンサの家で穏やかに過ごしていたシリルだったが、近所の不良少年ウェスに気に入られたことから彼の言いなりになる。 サマンサからウェスと付き合わないように言われても耳を貸さないばかりか、止めるサマンサに怪我を負わせてまでウェスとの関係を優先したシリルは、ウェスに言われるまま強盗を働いてしまう。 

 

 

 

 

しかし、シリルが被害者に顔を見られたことを知ったウェスが激高し、全ての罪をシリルになすりつけようとしたことから、シリルはようやくウェスがシリルを利用していただけだったことを知る。傷ついたシリルは父のもとに行き、盗んだ金を渡そうとするが、父からも見捨てられてしまう。結局、シリルはサマンサの元に戻り、サマンサと警察に出頭するが、、。

 

 

 

 

親の都合で児童養護施設に預けられてしまった11歳の少年シリルの物語。 本作でもダルデンヌ監督はドキュメンタリーのように手持ちカメラを使った映像で、淡々と少年の行動に寄り添いながらも傍観者のような視点でありのままを映しています。

 

 

 

 

子供が主人公の映画なら通常は観客に同情させるような演出をしそうなものですが、流石はダルデンヌ監督、映画のオープニングから少年シリルを聞き分けの無い憎たらしい子供という印象を与えてくれます。 いつもながら説明は省かれ、大人の説得を聞かずに執拗に電話をかけようとするシリルの場面から始まります。 そして施設らしい建物から逃走しようとするシリル。 

 

 

 

 

物語が進むにつれシリルの置かれている状況をこちらも把握していくのですが、正直映画の中盤までシリルの行動にはイライラしてしまう自分がいました。 しかし彼のその行動は、まだ親の愛情を信じていたから、自分が父親にとって邪魔な存在だと認めたくなかったからというのが徐々に理解し、切なくなりました。

 

 

 

 

父に買ってもらった自転車に執着するシリルの姿は、それが父との絆の象徴だから。そんな事も考えず自転車を売ってしまった父は、子供が居ると仕事にありつけないという理由でシリルを施設に預け、訪ねて来た我が子に「二度と来るな」と言い放ちます。

 

 

 

 

シリルと偶然知り合い、里親になるサマンサという女性についても、何故里親になったのか、何故そこまで献身的にシリルの世話をするのかの説明は一切されません。 彼女の過去に何があったのかすら省略し、母という無条件の愛の象徴のように描かれています。 そんな事もあって本作はダルデンヌ監督的な寓話ともとれます。

 

 

 

 

ラスト、自転車に乗ってピクニックに出かけるシーン。 これまで執着していた自分の自転車をサマンサのものと交換して漕ぐ場面にはシリルの心の変化がうかがえ、その後のサンドイッチを食べる場面で初めて彼の笑顔を見る事が出来て安心しました。

 

 

 

 

そんな細やかな幸せと、二人の生活がやっと軌道に乗り始めたと思った瞬間、以前起こした事件の被害者から石を投げられ木から落ちたシリル。 動かないその姿にもしや!と心配するこちらの気持ちを余所に、被害者側だった親子が介抱そっちのけで口裏合わせの会話を始めるという嫌悪感溢れる場面。 別の形で子供を守ろうとする父親の姿がとても皮肉に感じられました。 子供は親を選べないのですよね、、。

 

 

 

 

そこからスクっと起き上がるシリル、いつまたバッタリと倒れないかと気が気じゃありませんでしたよ。 何あのドキドキ感、そんなバッドエンドはハネケ監督でも許せません。観始めた時はシリルに嫌悪感とイライラを抱いていた私でしたが、いつの間にか彼に同調している自分に気付きました。 これもダルデンヌ監督の手腕なのでしょうね。

 

 

 

 

あくまで意図的に観客を泣かそうとはしない、そんな簡単に感傷に走ってもらっては困るとでも言っているように、俯瞰的な視点で綴られているからこそ深い所に訴えてくる作品です。 それぞれに抱える国、社会、家庭、個人の事情 、しかしそういった事に飲み込まれてしまってはいけないものがあるのではないか、を再び問われている気がします。

 

 

 

 

劇中一人ぼっちのシリルに声をかけてくれたメガネの少年が忘れられません。 そしてシリル!大事な自転車には鍵をかけましょう! 何度も盗まれてるんだから!その度に心配しちゃいましたよ、、。 どこか童話のピノキオを連想してしまった私でありました。

 

 

 

 

シリルにとって、自由と成長、そして絆を象徴するような自転車を巡る物語。 ただただ可哀そうな少年のお話という訳ではなく、その裏に大人として色々と考えなければならない、大人としての責任も含まれた映画となっていますので、機会があれば是非一度ご覧になってみて下さいませ、です。

 

では、また次回ですよ~! パー