第63回全国高等学校演劇大会で最優秀賞となる文部科学大臣賞を受賞し、全国の高校で上演され続けている兵庫県立東播磨高校演劇部の名作戯曲を映画化。

 

 

 

 

 

  

   -  アルプススタンドのはしの方  - 監督 城定秀夫 脚本 奥村徹也

 

 出演 小野莉奈、平井亜門、西本まりん、中村守里、黒木ひかり、平井珠生 他

 

こちらは2020年制作の 日本映画 日本 です。(75分)

 

 

 

 

  夏の甲子園大会の1回戦、吹奏楽部や応援団が賑わう中、アルプススタンドのはしの方の応援席。 演劇部員の安田あすはと田宮ひかるが観戦していましたが、2人とも野球のルールがよく分からず、どうして相手に点が入ったのか分からないと話していると、元野球部員の藤野富士雄がやって来て近くに座ります。 藤野に野球の解説をしてもらいながら、3人は試合を見守っていました。 少し離れた所には、成績優秀だが人付き合いが苦手な宮下恵もいました。 彼女は、最近初めて成績学年一位の座を、吹奏楽部部長の久住智香に明け渡してしまっていたのでした。

 

 

 

 

安田と田宮は、演劇部の関東大会出場の目前で、主役の田宮がインフルエンザにかかってしまい出場できなかったことで、お互いに妙に気を遣っています。  藤野は、安田に野球部を辞めた理由を聞かれ、園田が今のピッチャーでいる限り、どんなに練習しても自分がレギュラーにはなれないから諦めたと答え、万年ベンチの矢野も試合に出られることはないのに懸命に練習していると話しました。 「しょうがない」 といろんなことを諦めていた冴えない4人。 そんな彼女達の前に時折やって来ては、ひたすら声を出して応援しろという英語教師の厚木先生に少し困惑する4人。

 

 

 

 

宮下はピッチャーの園田に好意を持っていますが、園田が久住と付き合ってることを田宮と藤野の話から知ってショックを受け、体調を崩して田宮と藤野に背負われてスタンドの外で休憩に行くことになります。 そこへ偶然居合わせた久住も心配して宮下にドリンクを差し出しますが、わだかまりがあって宮下は受け取らず客席に戻っていくのでした。田宮がスタンドに一旦戻ろうとした時、出会った安田が宮下の体調を心配して「私も一緒に行くよ」と言ってみるが、田宮から「大丈夫だから座っといて」と言われたことから、「そういうのもうやめない?半年も前のことだよね。大会に出られなかったのは、ひかるのせいじゃないよ!」と思いをぶつけてしまいます。

 

 

 

 

試合の方は、強豪チーム相手に終盤8回裏の4-0。 園田が健闘しているがホームランを打たれてしまっている。「相手は格上だから、しょうがない」 と諦めたように言う安田に宮下が「頑張ってる人にしょうがないって言うのやめて!」と怒りだします。  安田は「私はめちゃくちゃ頑張ったけど、しょうがないって言われた。宮下さんにはそんな経験ないだろうけど」 と言い返しのでした。

 

 

 

 

そんな時、補欠の矢野が選手交代で出場、送りバントを成功させ、4-2まで追い上げます。 矢野の嬉しそうな活躍を見て、田宮が 「もう一度大会に出よう。あすはと一緒に舞台に立ちたい」 と安田に話しかけます。 久住も吹奏楽部のメンバーに「大きな音出していくよ!」と声をかけ、思いを演奏に込める。

 

 

 

 

そして9回、ツーアウト満塁のチャンスを迎えバッターは矢野。 気づけば安田たち4人も大声を出して夢中で応援していた。宮下が久住にも「ナイス演奏!」と声援を贈り、気づいた久住が嬉しそうに振り向く。矢野の打球は快音を発して思い切り伸びるが、、、

 

 

 

 

たまには新しい日本映画を観ねば!と思いたち、チョイスしたのが本作となりました鑑賞中に舞台っぽい設定だな~と思っていたら、やはり元は兵庫県立東播磨高等学校演劇部の作品で、全国高等学校演劇大会にて最優秀賞を受賞していました。

 

 

 

 

高校の演劇部が演じるため、その顧問教諭が書いた戯曲という事もあり、お話の内容はとっても甘酸っぱい青春物語の王道。 ではありますが、タイトルが示すとおり主人公たちは華やかな舞台を見る側で、それも半強制的に参加させられたという立場。

 

 

 

 

演劇部で大会を目指していた部長の安田、同じ演劇部でしたが自身がインフルエンザにかかってしまい部が大会に出場できなくなってしまった事に後ろめたさを感じている田宮。 野球部でしたが努力しても勝てない園田の存在により野球を挫折した藤野。学校のテストでは常にトップだったのに、部活や恋愛も充実している久住に首位を奪われ、友達も居ない宮下。 この4人が強豪校と対戦する事になってしまった母校の観戦と応援を通じて、新たな光を見つけていく姿が描かれていきます。

 

 

 

 

本作の面白い所がメインである野球の試合やグラウンドが一切映されず、スタンドの彼女達の会話とリアクションのみで物語が進行していくという構成。 舞台の主人公ではないスタンドのはしのその他大勢の中で繰り広げられている高校生の会話にスポットを当て、夏の甲子園では脇役に見られる彼、彼女にもそれぞれの青春っていうのがあるんだよ!と、主人公になれないその他大勢の人達を応援しているようにも思える作品です

 

 

 

 

ただ原作が舞台という事もあってか、その良さを優先させた事によって映画的な演出がやや大げさで不自然なものに見えたり、映像に真夏の暑さを感じなかったりするマイナス面もありますが、それをも凌駕する甘酸っぱさと痛みが作品には溢れています

 

 

 

 

最初はそれぞれの思いで訪れたアルプススタンドのはし、バラバラだった立ち位置が試合が経過していくごとにその距離が狭まり、最後には4人が一列になって大声で応援しはじめるその光景には、自然とこちらも熱く高揚してしまう事請け合いです。

 

 

 

 

自分の学生時代、彼女達のように真っすぐでポジティブではなかった事もあってか、ちょっと斜めに見てしまう劣等感癖がある私ですが、それでも学生時代に抱いていた自分の持つ何かしらの痛みやトキメキをこの映画の中で追体験することが出来るのではないでしょうか? こんな青春を送りたかったな~とつくづく実感させられてしまいましたよ、、。

 

 

 

 

良い意味でも悪い意味でも 「爽やかな清涼飲料水」 のような青春映画だと思いますので、中原中也の詩にある「汚れつちまった悲しみに」の大人こそが過ぎ去ったあの夏を思い出しながらご覧になり、日常のモヤモヤを浄化してみてはいかがでしょうか、です。

 

では、また次回ですよ~! パー

 

 

 

 

 

本作のエンディングに流れる主題歌です。 MVとなっていますので宜しければ 音譜