ミヒャエル・ハネケ監督によるSF作品。 世界滅亡の危機に瀕した世界で懸命に生きる親子の姿が描かれる。

 

 

 

 

 

 

            -  LE TEMPS DU LOUP   - 監督 脚本 ミヒャエル・ハネケ

 

 出演 イザベル・ユペール、ベアトリス・ダル、パトリス・シェロー 他

 

こちらは2003年制作の フランス フランス ドイツ ドイツ オーストリア  

                                                                        の合作映画です。(109分)

 

 

  物語の舞台は少し先の現代。 何らかの危機的な災害、戦争、が起き、水・食糧不足に陥ったヨーロッパです。 アンナと夫、その子供姉弟の一家四人は僅かな貯えを携えて、住んでいた街から森にある別荘へとやって来ました。 しかしそこには既に別の家族が居座っており、彼らに銃を突きつけます。 共生の説得を試みた夫はあっけなく射殺され、物資と車を奪われた妻のアンヌは娘・エヴァ、息子・ベンを連れて着の身着のままで逃げ出す羽目になってしまいます。 

 

 

 

 

この状況では、警察も彼らを助けてはくれず、知人も「親切のお返し」として僅かな食料を恵んでくれるだけでした。 父親を失ったショックもそのまま、行くあてもなく彷徨う母と幼き姉弟は、とある農家の小屋で一晩を過ごします。 そこで連れていた小鳥は死んでしまい埋葬してあげます。 翌日の夜、ベンは姿を消してしまい、アンヌは必死の思いで探しに出ます。 ほどなくしてベンは夜明けに戻ってきますが、そこには見知らぬ少年も一緒でした。

 

 

 

 

少年と合流して四人となったアンナ達は、少年から聞いた南の駅に向かうことになります。 少年の情報によれば、そこに来る列車に乗って避難することが出来るというのでした。 微かな希望を抱き線路伝いに進む途中で、少年は転がっている死体から上着を剥ぎ取り、薄着のエヴァに渡しますが、その行為は親子に僅かな嫌悪感を抱かせるのでした。 駅へ向かう途中で貨物列車が通過しますが、多くの難民を乗せた列車は親子を無視するように通り過ぎていきました。 やっとの事で目的の駅へと辿り着くアンナ達でしたが、駅舎では十数人の異文化を持つ人々が列車を待ち集団生活をしていました。

 

 

 

 

 しかし、そこも同じように水も食料も僅かな状態にあり、飲料水すらボスの許可なく手に入れられず、家族に安息をもたらしてはくれませんでした。 一緒に来た少年はそこで盗みをはたらいた事で駅舎から追放されますが、エヴァは度々彼の様子を看に森へと通っていました。 日が経つにつれ駅舎には同じような人々が溢れかえるようになり、少しずつコミュニティが形成されていきます。 しかし、あまり状況に変化はなくただただ列車が来る時を待つ日々が過ぎて行きます。 そんなある日、コミュニティの中に父親を殺し、別荘を奪ったあの家族を見つけるのでした、、。 というお話です

 

 

 

 

ハネケ作品には珍しい近未来的な設定のデストピア風映画ですが、あくまでも設定だけのもので、近未来的な機械や建造物は一切登場しない、明日起こり得る現在との地つづきな世界が舞台になっています。 その上、この状況がどのような原因で起こったのかの説明は一切語られず、母親と子供の過酷な生活が綴られます。 

 

 

 

 

ハリウッド映画なら、そんな家族を救うヒーロー的な人物や劇的なドラマが展開しそうなものですが、そういったエンターテインメントな演出は一切排除され、一市民が突如、危機的な状況に陥ってしまった日常が、リアルで客観的な視点で淡々と描かれているのが特徴です。 文化的で物理的にも豊かな生活を送っている現代人が、ほんの些細な何かによって、その生活や価値観、自由やプライバシー、個人という意識がはく奪されてしまったら? 

 

 

 

 

ハネケ監督は、いつも以上にそんな過酷な状況に人間を陥れ、現在の人間がこれが普通の日常だと思い込んでいる常識が危機との表裏一体に存在している事を今作でも皮肉たっぷりに親からの視点と子供の視点の両方で残酷に突き付けて来ます。  この親の視点から見る世界と子供の視点から見たこの世界の差に多少のズレがあるのも面白い所です。

 

 

 

 

ただ意外な事に、これまでのハネケ作品とは異なり、ラストで純粋であるがゆえにとる自己犠牲にもとれる子供の行動に、人間の善の面が見えたりする所があったりと、微かな希望が含まれているヒューマニズムで寓話的作品でもあります。

 

 

 

 

今の世界を凝縮したような駅舎での生活、異文化や言語、これまでの消費する生活がもしはく奪されてしまったら、、、自身がこのような状況に陥らされてしまったとしたら?居心地よい世界でテレビ越しに終末を見ている社会に対してこの作品を提示したかったとハネケ監督は語っています。 こうまでして生きる価値や意味のある世界なのか? ラストの列車から見える穏やかな田舎の景色は以前の記憶か、その後の希望か、独特な間合いで映されるその風景の映像の中途半端で絶妙な時間が観客を最後まで惑わせます。

 

 

 

 

作品の解釈を頑なに拒むハネケ監督は今作でも個々の解釈に委ねています。そんな事から観た人の数だけそれぞれ解釈が違い、受け取る感情も違う作品ですから、この機会にでもご自身の目でご覧になってみてはいかがでしょうか、です。

 

では、また次回ですよ~! パー