父親、母親、そして娘 3人の家族が、オーストリアの市街で暮らしていた。 ごく普通の家に住んで、ごく普通に車でドライブし、ごく普通にスーパーで買い物する一家。 だがある年、一家は海外旅行を計画した。預金を全て引き出し、身の回りのものを処分してオーストリアへ向かうつもりだったが、、、

 

 

 

 

 

      

       -  Der Siebente Kontinent  - 監督 脚本 ミヒャエル・ハネケ

 

 出演 ビルギット・ドル、ディータ・ベルナー、ウド・ザメル、

                                                                       ゲオルク・フリードリヒ 他

 

こちらは1989年制作の オーストリア映画 オーストリア です (104分)

 

 

 

 

記念すべき  ミヒャエル・ハネケ の監督デビュー作でございます。 そしてデビュー作にも関わらず、既に作家性が全開の本作は、当然の事ながら、こちらの感情に入る隙をなくし、冷ややかなまでに そこに映る人物達の行動の顛末を見せつけられる事になります。

 

 

 

 

そして、その行動原理の説明という文学的な描写は、余計なものと削除され、現象と現象の合間は観客の受け止め方に委ねられるという、映像作家さんでございます。  

 

 

 

 

8mm  映画は三部で構成され、日常を断片的に切り取った映像で構成されています。

 

第一部 1987年 洗車する車の中からの映像で始まります。 朝 目覚ましで起きる夫婦。一人娘を起こし、朝食の準備と朝の身支度という普段のありふれた情景が細かく映されます。 この日娘は小学校で 「目が見えない」 と嘘をつき、それを聞いた母親に叱られます。

 

 

 

 

第二部 1988年 同じような朝の日常が繰り返されます。 夫は管理職に昇進しました。 家族で外出した際、彼らは交通事故の現場を通り過ぎます。横たわる遺体を家族で眺めます。それを見た妻は、その後に入った洗車場で、人生を悟り、涙を流し​​​​​ます。 

 

 

 

 

第三部 1989年 夫の両親を訪ねた後、夫は仕事を突然辞め、夫婦は 「オーストラリアに移住する」 と言って預金を全て下ろします。 そして一家は購入した工具を用いて、家の中のものを破壊していきます。 服を全て破き、家具や家電を打ち壊し、本やアルバムを引き裂きます。  降ろした現金も全てトイレに流し娘の飼っていた熱帯魚の水槽を夫が壊したとき、娘は初めて感情を露わにします。 そして一家は、、、という作品です。

 

 

 

 

何故一家が心中を図ろうと決意したのか? といった説明等は当然の如く一切ありません。  第一部、二部 と大きな出来事は起こらず、日常生活のディティールが描写されるのみで、第三部で突然物事が大きく動き出します。 工具を買い求め、無感情で事務的ともいえる動きで、淡々と自分達の物を破戒していく行動が、延々と映し出される映像は、時に快感を憶えてしまう程です。

 

 

 

 

 

DVDの特典に監督のインタビューが入っていました。  作品からイメージするより、かなり饒舌で親しみやすそうなお方。 一、二部で日常のディティールを描き、最後にそれを破戒した理由に少し言及していたインタビューがありました。

 

 

 

 

「人はどれだけ日常の道具に支配されているか 道具を使い、行為を繰り返す 人は行為に縛られる 人生とは行為の総和だ そして何も残らない だから破壊行為をする」 と、現代社会に生きる人間に対してのアンチテーゼ も込められているようです。 

 

 

 

 

そして本作を プロトコル (複数の者が対象となる事項を確実に実行するための手順について定めたもの) と語っています。 つまりあえて説明的な事柄を省いて最小限に理解出来る事柄のみを映像化したという事でしょうか? 

 

 

 

 

「説明は、物語とその力を卑小化 ( 取るに足りないこと ちっぽけで価値の低いこと )してしまう」 「回答を出す気はない、人は自分の理解出来ないものに対して人は不安を覚える。 観客の深い部分に訴えるには説明を最小限にし、物語る事。   解答は観客それぞれが見つけ出せばいい、、。」 と

 

 

 

 

映画は大きく二つに分かれているように思います。 映画の物語に入り込んで、登場人物に同化し、物語を体験して楽しむ作品。 もう一つは映像作品を通して疑問や問題提起、そして触発してくるような作品。 (本当はもっとあるでしょうがね) 確実に ミャエル・ハネケ の映画は完全に後者です。 

 

 

 

 

全てを語らず 「曖昧さ」 で物語る希少な作家でございます。そこに不思議な魅力を感じ、ついつい観てしまう私がいるのでありました、、。 映画の最期に映されるテレビの砂嵐の向こうには何が見えているのでありましょうか、、たまに気分を変えて、このような作品をご覧になってみてはいかがでしょうか、です。

 

では、また次回ですよ~!  パー