カンヌ映画祭出品時、その凄惨さからヴィム・ヴェンダース監督や批評家、観客がシ

 

ョックのあまり席を立ったと言われ、ロンドンではビデオの発禁運動まで起こった

 

作品。

 

 

 

 

 

                -  FUNNY GAMES  - 監督 脚本 ミヒャエル・ハネケ

 

 出演 ズザンネ・ロター、ウルリッヒ・ミューエ、アルノ・フリッシュ、

                                                                                フランク・ギーリング

 

こちらは1997年制作の オーストリア映画 オーストリア です(108分)

 

 

 

 

  穏やかな夏の午後 バカンスのため湖のほとりの別荘へと向かうショーバー一家 

 

車に乗っているのは夫のゲオルグと妻のアナ、息子のショルシ、それに愛犬のロルフ

 

ィー。 別荘に着いた一家は明日のボート・セーリングの準備を始めます。 そこへ

 

ペーターと名乗る見知らぬ若者がやって来ます。 はじめは礼儀正しい態度を見せてい

 

たペーターでしたが、もう一人パウルが姿を現す頃にはその態度は豹変し横柄で不愉

 

快なものになっていました。 やがて、2人はゲオルグの膝をゴルフクラブで打ち砕

 

くと、突然一家の皆殺しを宣言、一家はパウルとペーターによる“ファニーゲーム”の

 

参加者にされてしまうのでした、、。

 

 

 

 

ミヒャエル・ハネケ 監督作 「ピアニスト」 「隠された記憶」 「白いリボン」 「愛 

 

アムール」等々をこれまで鑑賞してきた私。 実はこれと同じものをアメリカ資本で

 

監督自身が、同じ脚本ほぼ同じ構図でリメイクした 「ファニー・ゲームUSA」 (2

 

007年制作)という作品を数年前に観ておりまして、レンタル店の棚を見ていたら

 

なんと!無かったはずのオリジナル版を発見!つい手を伸ばしてみてしまったのでご

 

ざいました! しかしこの「ファニー・ゲーム」というタイトルからしてハネケ監督

 

のシニカルなメッセージがストレートに詰まっている作品なのでした。

 

 

 

 

カンヌ映画祭で上映された際 (そもそもこれを招待するセンスもなかなかですが)か

 

なり論争を巻き起こした作品なのです。 何がそう論争にまで?とも思うのですが、

 

それはいわゆる 映画の暗黙のお約束 という物を、ことごとく裏切って行く部分と、鑑

 

賞している人間の良識を逆なでし、不快にする登場人物の言動と、その行動による物

 

が大きい為でしょう。 殺人なんて映画には沢山登場しますし、グロいシーン等はホ

 

ラー映画には山ほど登場します。 それは映画の中の エンターテインメント の一つと

 

して観客も理解して、楽しんでいますから成立しているのですが、この作品の中に登

 

場する家族は、全くの無防備で、ほぼ無抵抗に従わなくてはならない常に弱者の立場

 

にあります。 

 

 

 

 

その弱者が、外から訪れた部外者2人の若者によって勝手に始められた ゲーム という

 

名の不条理なお遊びに一方的に付き合わされてしまう事になります。 そんな無秩序な

 

現場に 私達観客は強制的に傍観者 として参加させられてしまうのです。そもそもの始

 

まりは、ショーバー一家が別荘に訪れたその時点から始まっていたのです夫と子供は

 

家の外でヨットの様子をみていました。 妻のアナがキッチンで食事の準備をしてい

 

た所に、近所の別荘の知人と称して彼が訪れます。 礼儀正しく 「卵を4つ分けてほ

 

しい」 と言われ分けてあげますが、 男は玄関先で渡したばかりの卵を落とします。

 

 

 

 

再び卵を分けてあげますが、この時キッチンに置いてあった携帯を、彼は水没させて

 

しまいます。 失礼を詫びて出て行きますが、今度は外の犬に驚いて再び卵を落とした

 

と言って、今度は二人で戻って来ます。 携帯の件と、執拗に卵を要求する態度に、

 

イライラと不安を感じたアナは出て行くように促しますが、二人は納得しません。 

 

そこへ夫のゲオルグと子供が戻って来ます。 状況が飲み込めない ゲオルグでしたが

 

アナの態度を察知し、二人に出て行くよう求めます。それでも ごねる二人の態度に、

 

思わず顔を殴ってしまう ゲオルグ。 さあ、それをきっかけにして彼等のゲームが始ま

 

る事になってしまいます。 

 

 

 

 

二人はゴルフクラブでゲオルクの足を殴って動けない状態にした上で、リビングへ連

 

れて行き、自分達に対してこれまでの家族の無礼を責め始めます。そして、朝までに

 

この家族が生き残っているか?の賭けを持ち掛けて来ます。 こうして 絶対的に二人に

 

有利な ファニー・ゲーム がスタートする事になってしまいます。 まず最初に彼等が

 

現われる場面、どこか不自然な違和感を漂わせているこの場面。 その原因は何故か二

 

人共謎の白手袋をはめているのです。 この白手袋一つで彼等の不気味さと異様性を強

 

烈に印象付けます。 

 

 

 

 

そして執拗にこどわる卵という物も、何かのメタファーにも感じます。殻に守られた

 

生命と、その中身の儚さ。 この作品では、ハリウッドの「エンターテインメントとし

 

てのバイオレンス」 を否定しているような所が多々あります。 子供に対しても容赦

 

しませんし、ある瞬間 形勢逆転する場面ではそう映画のように上手くは行かせないと

 

でも言うように場面を逆再生させ、チャンスシーンをリトライさせるという荒業もや

 

ってのけます。 その上、家の中でも映画の中でも主導権を握った二人組が、画面か

 

ら観客に話しかけて気分を逆なでするカットまであります。 これは意図的に、監督

 

が これはゲームで 映画だという事を強調している部分でもあり、「虚と実」 を強調

 

しているからこそ、画面上に展開されている映画というものの恐ろしさを実感させら

 

れてしまいます。 

 

 

 

 

現実にはヒーローも登場しないし、悪には報いがあるというのは映画の中だけの話だ

 

と映画のラストは、正にテレビゲームをするかのように、次の新たなステージが始ま

 

るような終わり方で幕を閉じます。 二人の素情も何も語られないまま、まるでゲーム

 

コントローラーで操作するキャラのようです。この作品をアメリカでリメイクした事

 

にも、かなりの意味があったのではないでしょうか?暴力ヒーローを商品としている

 

国に対してのハネケ監督からのアンチテーゼではないでしょうか? 暴力や人が簡単

 

に死ぬのが好きなんでしょ?だから見せてあげてるのにと言われているようです。 

 

 

 

 

一方的な強者から弱者への暴力が、同じ暴力でもどれほど人を不快にするものかなの

 

か、本当のバイオレンスとは、痛みとは、嫌悪感とは、ハネケ監督の観客の感情を寄

 

せつけない、突き放し逆撫でした暴力嫌悪映画です。決していい気分になる作品では

 

ありませんが、たまにはこんな映画もご覧になってみるのも良いかと思います。ちな

 

みに USA版は、夫婦に ティム・ロスと ナオミ・ワッツ という豪華な顔ぶれで、個

 

人的には訪問者の一人を演じる マイケル・ピット が恐ろしく印象に残りました。 

 

「ファニー・ゲームUSA」 と、どちらを観るか、両方観るか (あまりないでしょう

 

が) 憂鬱な嫌悪感に支配される気分を味わいたい方はこの機会にでもご覧になっ

 

てみてはいかがでしょうか、です。

 

では、また次回ですよ~! パー

 

 

 

 

 

 

 

「ファニー・ゲームUSA 」 も併せてご覧下さいませ  目