「ファニーゲーム」「ピアニスト」などで知られるミヒャエル・ハネケ監督の衝撃の深層心理サスペンス。 カンヌ国際映画祭で、監督賞など3部門受賞

 

 

 

 

 

 

        - CACHE -  監督 脚本 ミヒャエル・ハネケ

 

出演 ダニエル・オートゥイユ、ジュリエット・ビノシュ、モーリス・ベニシュー 

 

こちらは2005年制作の フランス フランス オーストリア  イタリア イタリア 

                       ドイツ ドイツによる合作映画です。

 

 

 

 

  テレビキャスターのジョルジュは、出版社に勤める妻・アンヌと息子・ピエロと共に順風満帆な人生を送っていました。 そんなある日、ジョルジュの元に奇妙なビデオテープが送られて来ます。 それは、ジョルジュの自宅を外から長時間にわたって隠し撮りしたものでした。 当初は単なる悪戯と考えていたジョルジュでしたが、その後もビデオは送られ2度目には子供の落書きのような血を吐く子供の絵が添えられ、同じ絵はピエロの学校にまで送られていまた。 繰り返される不気味な出来事に、ジョルジュとアンヌは不安を募らせていきます。 

 

 

 

 

そして、3度目のテープには、走る車の中からジョルジュの実家を映した映像と首を斬られた鶏の絵が添えられていたことから、ジョルジュは心の奥深くに封印し、すっかり忘れていた過去の記憶と罪を思い出します。  それは40年以上前の1961年の事、ジョルジュの子供時代に両親が引き取ったアルジェリア人の孤児マジッドとの思い出でした。マジッドに理由のない嫌悪を感じたジョルジュは、嘘をついて彼を孤児院へ追いやってしまったのです。 

 

 

 

 

テープに写されていた映像に導かれマジッドの住む団地にやって来たジョルジュはマジッドを厳しく問いつめますが、彼は何も知らないと言います。 ジョルジュはマジッドによる脅迫だと決めつけ、彼を激しく脅して去りますが、その様子を隠し撮りした映像がアンヌだけでなく、ジョルジュの職場の上司にも送りつけられたことで、ジョルジュはますます精神的に追いつめられて行きます。 更に息子ピエロが行方不明になる事件が起き、マジッドが誘拐したと思い込んだジョルジュは警官を連れてマジッドの部屋に押し掛けます。

 

 

 

 

 しかし、ピエロは母アンヌの不倫に怒り友人の家に黙って泊まっていただけでした。 そんなある日、ジョルジュはマジッドに呼び出されます。 マジッドはジョルジュを部屋に入れると、自分はビデオとは何の関係もないと告げ、ジョルジュの目の前で自ら喉を切って自殺してしまいます。

 

 

 

 

それからしばらくして、マジッドの息子がジョルジュの職場に押し掛けて来ます。 マジッドの自殺は自分には責任はないと取り乱すジョルジュを前に、マジッドの息子は、自分がビデオとは関係がないこと、ジョルジュのせいで施設送りとなった父マジッドが苦労して自分を育ててくれたことを語り、ジョルジュが心の中に疾しいものを抱えていることを鋭く指摘するのでした、、。 というお話です。

 

 

 

 

「ファニーゲーム 」等こちらでも何本かご紹介しているご存知 ミヒャエル・ハネケ監督の作品です。 映画はある通りから一軒の住宅を固定カメラで映した映像で始まります。しかし、それは劇中のジョルジュ夫婦が見ているビデオ映像だという事が分かり、そのビデオの意図も送り主も分からないという困惑した夫婦の会話から物語は進んでいきます。 

 

 

 

 

その後も送られて来るビデオテープと不気味な絵。 相手の意図も理由も分からない事で様々な憶測が過ぎり、幸せだった家庭を不穏な空気が包み、夫婦、親子の関係が不安と欺瞞なものへと変化していく様が描かれていきます。 そんな中、新たに送られて来たビデオの映像によって夫のジョルジュが消し去っていた子供時代の忌まわしい過去の記憶を思い出し、マジッドという人物に辿り着くのですがといったシンプルにサスペンス的な展開はハネケ作品の中でも観やすい内容で、心理的にも感情移入しやすい作りになっています。 

 

 

 

 

しかし!そう一筋縄でいかないのがハネケ作品。 映画の物語としてのちゃんとした結末は提示してくれくれないまま映画は幕を閉じます。 観客はその突き放され、モヤモヤとした不快な気分にハネケ作品の醍醐味と快感を味わうというハネケ特有のサディズムに酔いしれるのでありました。 その上で色々と頭をひねる私。 あの固定の防犯カメラで撮られた住宅の映像はどうしても不可解な事に気付くのです。 

 

 

 

 

これはある意味現実世界を俯瞰から客観視したようなメタ的な構造になっているのではないか?と。 この物語のキーワードであるアルジェリア戦争という出来事がそもそものの始まりになっています。 劇中にもジョルジュの家のテレビ画面には現在でもつづく民族紛争のニュースが映されたりと、国家や民族を強く意識させる映像が流される事で、嫌でも映画の劇中世界と外である現実の世界、そしてビデオの映像といったものが意図的な構造になっていると示唆しているように思えてきます。

 

 

 

 

そう考えると裕福なジョルジュの家族はフランスを擬人化した存在なのではないか?として置き換えると、ある意味曖昧な終り方をするこの映画の本質が少し分かったような気がします。 ただ、そんな難しく考える作品かと言えばそんな事もなく、単純に心理サスペンス映画としても面白い作品なのは間違いありません。 エンドロールの固定カメラ映像すら何かが起こりそうな緊張感が最後まで漂います。 そしてその映像にも謎が、、。

 

 

 

 

理路整然と、犯人は子の人でした!という映画がお好きな方にはお薦め出来ませんがモヤモヤザワザワと気持ちを揺さぶられたい方はお楽しみ頂けるのではないでしょうか嫌悪感を伴うバイオレンスな場面もありますし、特に鶏の頭を落とす場面の残酷さは、日常私達が食べている鶏肉はこういう過程があってのものだと、日常に潜む私達の罪をハネケ監督から提示させられているような気になります。 

 

 

 

 

人間と罪をテーマにしたハネケ作品、不穏と嫌悪感を置き去りにした稀な映画だと思いますので機会があれば一度ご覧になってみて下さいませ、です。

 

では、また次回ですよ~! パー