故・黒澤明監督が山本周五郎の短編をもとに書いた遺稿を、黒澤組のスタッフたちが映画化。剣の達人でありながら人の良さが災いし、思うように仕官になれない浪人をユーモラスに描く。

 

 

 

 

 

 

       - 雨あがる  - 監督 小泉堯史 脚本 黒澤明  原作 山本周五郎

 

 出演 寺尾聰、宮崎美子、三船史郎、檀ふみ、井川比佐志、吉岡秀隆 他

 

こちらは2000年制作の 日本映画 日本 です。(91分)

 

 

 

 

  亨保時代。 武芸の達人でありながら、人の好さが災いして仕官がかなわない武士三沢伊兵衛とその妻・たよ。 旅の途中のふたりは、長い大雨で河を渡ることが出来ずある宿場町に足止めされていました。 ふたりが投宿する安宿には、同じように雨が上がるのを鬱々として待つ貧しい人々がいました。そんな彼らの心を和ませようと、伊兵衛は禁じられている賭試合で儲けた金で、酒や食べ物を彼らに振る舞います。 

 

 

 

 

翌日、長かった雨もようやくあがり、気分転換に表へ出かけた伊兵衛は若侍同士の果たし合いに遭遇します。 危険を顧みず仲裁に入る伊兵衛。そんな彼の行いを偶然見かけ、その行動に感心した藩の城主・永井和泉守重明は、伊兵衛に城での剣術指南番の話を持ちかけます。 ところが、頭の固い城の家老たちは猛反対。 ひとまず御前試合で判断を下すことになりますが、そこで伊兵衛は、自ら相手をすると申し出た重明を池に落とすという大失態をしてしまいます。 重明は伊兵衛が彼を気遣いかけた言葉に機嫌を損ねてしまい、伊兵衛は失意のまま城を後にするのでした。

 

 

 

 

それから数日後、伊兵衛の元にやってきた家老は、以前、伊兵衛が行った賭試合を理由に彼の仕官になる話を無かったものと断ります。 それを聞いていた妻のたよは夫が何のために賭試合をしたかも分からずに判断を下した彼らをでくの坊と非難し、自ら仕官の話を辞退します。 そして河の水もひいた事で再び旅に出る伊兵衛とたよ。 

 

 

 

 

城では家老から報告を聞いた重明がたよの言葉に関心し、改めて城へ指南番として迎え入れる事を決意して、自ら二人を追って馬を走らせます。 そんな事も知らない伊兵衛とたよは、晴ればれとした気持ちで道中に広がる美しい海を眺めているのでした

 

 

 

 

黒澤明の遺稿3本のうちの1作である本作、全て山本周五郎の原作というのも興味深い所です。 で、今作の監督を務めたのが28年間にわたって黒澤監督の助手を務めていた小泉堯史監督で、本作で監督デビューを果たし、黒澤組と呼ばれるスタッフが脇を固めていて、この年の日本アカデミー賞では作品賞他、8部門で受賞。 ヴェネツィア国際映画祭では緑の獅子賞を受賞した作品です。

 

 

 

 

以前は城内にも勤めていた武士の伊兵衛。 腕は立つものの、お役所仕事や他人との競争が性に合わずに辞めてしまい、今は妻のたよを連れ立っての旅の途中。 たまたま大雨の為に足止めをくった安宿で様々な出来事に遭遇てしまうというお話です。

 

 

 

 

普段は穏やかで貧しい人々にも分け隔てなく接する伊兵衛を演じるのが寺尾聡。 ちょっと弱々しいイメージですが、いざとなるとキリッとする主人公にぴったりのナイスキャスティング。 その妻で夫を支えながらも伊兵衛以上に強い意志と心を持つたよを演じるのが宮崎美子。 彼女の優しい表情と雰囲気が本作を人情味あふれる温かなものにしている重要なキャラクターで、その所作一つ一つが見事に作品に反映しています

 

 

 

 

この夫婦の愛情溢れるやり取りこそが作品の根幹となっていますが、伊兵衛が偶然出くわした侍同士の果たし合いを仲裁した事で、剣術指南番を探していたお殿様の目に留まる事になります。 このお殿様もなかなか破天荒な人物で、伊兵衛のここに至るまでの人生を聞いて「面白い!」と言って大笑いするような人間味溢れるお人柄。 

 

 

 

 

映画のユーモアと物語の展開を一身に支える重要な人物で、こちらもとっても魅力的です。 これを演じるのが三船敏郎の息子である三船史郎。 あえて父親に寄せたような演技は、一部で不評のようですが、私には豪放磊落なお殿様にははまっていてとってもキュートに思えました。

 

 

 

 

ある種、本作もカリカチュアされた表現が多く感じられる部分もありますが、それは余計なものをそぎ落とした結果そう感じるのかも知れません。自然と人間の営み、人の気遣いや優しさ、思いやりといった日本的な心の部分が静かに伝わってくるような作品でした。

 

 

 

 

劇中で語られるセリフひとつひとつに重みがあり、同じ宿に泊まる貧しい人を元気づける為に賭試合をして、その稼いだお金で食事をもてなした伊兵衛。 賭試合という行動をとがめる家老にたよが 「大事なことは主人が何をしたかではなく、何のためにしたかということではございませんか? あなたたちのようなでくのぼうにはお分かりいただけないでしょうが、、。」 というセリフには参りました。

 

 

 

 

黒澤監督が残したこの作品の創作ノートの片隅に 「観た後に晴ればれとした気持ちになる作品にする事」 という覚書があり、まさにそのとおりの映画に仕上がっています

 

 

 

 

小さな武士夫婦の小さなお話ではありますが、日本人の強さと美しさ、生きることの辛さと素晴らしさを感じられる作品となっていますので、この機会に是非覧になってみてはいかがでしょうか、です。

 

では、また次回ですよ~! パー