山本周五郎の小説「季節のない街」を映画化した黒澤明監督初のカラー作品。 木下惠介、市川崑、小林正樹そして黒澤明という日本を代表する巨匠4人で結成した“四騎の会”の第1回作品。

 

 

 

 

 

 

         - どですかでん -  監督 黒澤明   脚本 黒澤明、小国英雄、橋本忍

 

 出演 頭師佳孝、伴淳三郎、井川比佐志、田中邦衛、三谷昇、松村達雄 他

 

こちらは1970年に制作された 日本映画 日本 です。 (140分)

 

 

山本周五郎の小説「季節のない街」を映画化した本作は、15話からなる原作のエピソードを脚色したオムニバス的な群像作品で、都会から離れたスラムのような貧民街で暮らす貧しい人々の懸命に生きる日常の断片が綴られています。

 

 

 

 

  とある郊外にある貧しい街。 ​​​ 街の中心にポツンとある水道に集まる女達は毎日のようにその街に住む人達の噂話に花を咲かせていました。

電車馬鹿と呼ばれている六ちゃんは、てんぷら屋をやっている母のおくにさんと二人暮し。 ​​​彼は毎日 「どですかでん、どですかでん」 と自分にしか見えない電車を運転して街を往復していました。 彼には電車が実際に存在し、それが彼の仕事なのでした、、。

 

 

 

 

日雇作業員の増田夫婦と河口夫婦がいました。二人の夫はいつも連れ立って仕事に行き、酔っぱらっては帰って来ます。 ある日酔って帰ってきた二人はそれぞれの家を取り違えて住みつき、やがてそれが飽きると、もとの家に帰ってきました、、。

 

 

 

 

​​​​​島さんは誰にでも愛想の良い「街」の紳士。 しかし、彼の片足には障害があり、その上猛烈な顔面神経痙攣症の持病がありました。 彼のワイフは街でも噂の無愛想で無骨な女で、島さんのところにお客が来ても接待はおろか、逆に皮肉をいうような女でしたが、客がそれを島さんに告げると島さんは激高してワイフを擁護するのでした、、。

 

 

 

 

かつ子は一日中酒をくらっている伯父の京太のために寝る間を惜しんで家事と辛い内職をしていました。 伯母の入院中、彼女は伯父の欲望の対象となり、妊娠してしまいます。 悩んだ彼女は突然何の関係もなく自分に好意をよせている酒屋の青年岡部を出刃包丁で刺してしま​​​​​​います、、。

 

 

 

 

たんばさんは元彫金師。 街のよろず相談役のような老人で、人柄とその話術で、人々のもめごとを治めてしまう賢者のような人物。 ある夜、彼の家に泥棒が入りますが、仕事道具を持って行こうとする泥棒に、それを置いてこれを持って行きなさいと財布を渡し、また無くなったら玄関からおいでと泥棒を逃がしてあげるのでした、、。

 

 

 

 

ヘアーブラシ職人の良太郎は、浮気性の妻が不倫の男たちと作った大勢の子供らを大事に育てています。 ある日、子供の一人が良太郎の実の子でないという噂を聞きつけますが、良太郎は 「本当の親か、本当の子かなんてことはね、誰にもわかりゃしないんだよ」と子供達に言い聞かせるのでした、、。

 

 

 

 

陰気で街の誰とも付き合わない平さんの所に、お蝶という女が訪ねて来ますが、この女と平さんとは過去に何かがあった様子。 赦しを乞うお蝶は平さんの家事手伝いをしますが、彼は終始心を閉ざしたまま。 諦めたお蝶は平さんのもとを去っていくのでした、、。

 

 

 

 

乞食の親子は廃車の車に住み着き、息子を町に出向かせ残飯を恵んでもらっています

自分はというと実現しないプール付きの家の設計を空想しては息子に聞かせているばかり。 ある日、熱を通して食べろと店の主人に注意された残飯をそのまま食べた事でお腹を壊し、そのまま放置した事で息子は死んでしまいます。 骨になった息子に空想のプールが完成した事を告げる父親、、。 といったエピソードが綴られます。

 

 

 

 

黒澤映画に心酔していた時期、「七人の侍」や「赤ひげ」と立て続けに観た中でもかなりの異色作で、その為強烈に印象に残った作品でもありました。

当初は四騎の会メンバーそれぞれが監督するオムニバス映画になる予定だったようですが、なかなか意見がまとまらず最終的に黒澤明の単独作品で製作される事になり、低予算で黒澤映画としては初のカラー作品という記念碑的な映画でもあります。

 

 

 

 

東京の埋め立て地の一角にあるゴミ捨て場に建てられたというセットが独特の世界観を生み、この貧困に生きる人々の貧しさを画的に象徴しています。 初のカラー作品という事もあり、画家を目指していた監督の色彩センスがアーティスティックに爆発し、(ポスターは監督自身の手によるものです) 赤や黄色といった原色で塗られた室内や特殊な配色で彩られた建物や時には空が、このミニマムな街をより寓話的なものにしています。

 

 

 

 

共通の街に住む人達ですが、それぞれのエピソードは他のエピソードと微かに交わったり、独立した話しだったりと、そこに住むという共通性と言語があるだけのものになっていて、個々の話には一貫性はありません。  お話の内容にしても障害者や暴行、堕胎や不貞、宗教、近親相姦、アル中、育児放棄、といった重い話が多く、微かな希望が持てるものや、特別な変化の起こらないものや、絶望的なものと、明るい話よりも暗い内容のものがほとんどです。 しかし、そんな話を色彩という絵具で彩る事によって、僅かな温もりと人間の生命力を感じさせる作品に仕上げています。

 

 

 

 

社会の底辺の街で生きる人間の過酷さや残酷さ非情さ、そこから生まれる人間の尊さ、哀しさ、美しさ、面白さが描かれた人間賛歌で、普遍的なヒューマニズム映画です。作中のどの人物にも共感出来るものではありませんが、おかしなもので、どの人物にも過去の自分に共通するものを見い出してしまうのも事実です。 黒澤明の作品群の中でも異色な作品ですが、何故かその存在すらも愛おしく感じてしまう不思議な魅力を持った映画となっていますので、機会があれば一度ご覧になってみて下さいませ、です。

 

 

 

 

平さんのもとを去るお蝶がそこに立っていた枯木を見て呟きます。 

     「これは何の木かしら?枯れてしまえば、何の木でもないんだわ、、」

                              何か妙に耳に残る言葉でした、、。

 

では、また次回ですよ~! パー