アガサ・クリスティー原作「ホロー荘の殺人」を野村芳太郎が映画化した作品。  

 

南紀・白浜の別荘でおきた殺人事件をもとに、女の愛憎のドラマを描く。

 

 

 

 

 

  

  -  危険な女たち  - 監督 野村芳太郎  原作 アガサ・クリスティ

 

 出演 大竹しのぶ、 池上季実子、和由布子、藤真利子、寺尾聰  他

 

こちらは1985年制作の 日本映画 日本 です。(122分)

 

 

  南紀・白浜の絹村健一郎の別荘。 大病院の医院長をリタイアし、隠居生活をおくっている健一郎の妻ハナは朝からジッとしていられませんでした。 今日から三日間、ハナが子供の頃から可愛がっていた藤井冴子、水野美智子、升森弘、また、健一郎の病院の院長代行の棚瀬秀雄・紀子夫妻が別荘に滞在するからでした。 隣の別荘の住人でミステリー作家の枇杷坂周平と小児端息の療養のため別荘に来ている棚瀬夫妻の息子・守も加わってにぎやかに夜会が始まりました。 

小説の執筆の為に枇杷坂が帰った後、最近落ち目の歌手、橋まゆみという女性が鉢植えを手に現われます。 自分の借りた別荘の電気がつかなくて困っていると言うのです。 彼女を見て秀雄は驚きました。 二人は十年前恋人同士だったのです。 そして、秀雄が別荘の電気の具合を見に行くことになりました。 それぞれの部屋に皆が引きあげたあと、弘は水割りを飲んでいました。 彼はまゆみが現われる直前、秀雄と冴子が抱き合っているのを見てしまったのです。 弘は冴子に結婚を申し込んでいたのですが断わられていたのでした。 傷心の弘は、そこに現われた美智子に突然結婚を申し込むのでした。 弘を愛していた美智子はヤケ酒の勢いでプロポーズされて複雑な思いをするのでした。

 

 

                      

 

 

 

久久の逢瀬から秀雄がもどったのは、皆が寝静まった深夜でした。 常に彼に対し献身的で従順な紀子は、夫に、不満を言う事も出来ませんでした。 翌朝、皆は海へ釣りに出かける事になります。 それぞれの場所で釣りを楽しんでいる時、一発の銃声が響きわたります。 その音で集まってきた皆が見たのは、血を流して倒れている秀雄と、その傍で拳銃を握り、ぼう然と立ちつくしている紀子の姿でした。秀雄は「冴子、、」と言うなり、息絶えます。 冴子は紀子が握っていた拳銃に危険を感じ、手から奪って海に投げ捨ててしまうのでした。

警察の捜査が始まります。 訪ねてきた堂園警部に、ハナは不器用な紀子にあんなことができるわけがないと告げます。 紀子も何となく傍に落ちていた拳銃を拾ってしまったと答えます。 冴子が海中に投げ捨てた拳銃が賢明な捜索によって発見されましたが、それは紀子の息子・守が持つモデルガンで、撃たれた拳銃とは別のものでした。 その結果から、捜査の目は紀子だけでなく他の人間にも向けられるようになります。 一緒に釣りに訪れ、現場に居合わせた作家の枇杷坂は、この事件をもとに小説を書き始めます。 数日後、警察の捜査が一段落した冴子、美智子、弘、紀子は別荘を後にそれぞれの帰路に着きます。 事件が混迷を迎える中、枇杷坂は独自の推理に基づいて書きあげた小説をハナに読んでもらおうと別荘を訪ねる。それを読んだハナは、、。

 

 

 

 

以前ご紹介したアガサ・クリスティの映画化作品 「華麗なるアリバイ」 と同様の原作、「ホロー荘の殺人」 を野村芳太郎が映画化した作品です。 映画化される国によってさまざまにアレンジされている作品の為、この機会に本国のテレビドラマ 「名探偵ポアロ」の正規版 「ホロー荘の殺人」もついでに鑑賞してみました。 やはりミステリー作品として整理され楽しめるのは、残念ながらポアロも登場する本国のテレビドラマ作品でした。ではどう日本的なアレンジが加えられているのかと言えば、舞台は当然日本に置き換えられ、時代も現代。 大まかに起こる出来事は原作に沿ったもののようですが、一番大きくスポットが当てられているのがタイトルが示す通り、被害者になる秀雄に翻弄される女性の悲劇が、日本的な湿度の中で描かれています。 ただ、殺される秀雄がやっている事は倫理観に外れながらも、彼があまり悪人に見えず、真に愛していたのは!という件も相まって殺人にまで至る心情にちょっとスッキリしない部分が多くありました。 演じる寺尾聡の風貌もあり、ある意味家族を理解している良き夫にも見えてしまうのでした。こういった有名作家の原作ありきの作品を大胆にアレンジすれば良いのですが、所々原作のニュアンスを残して日本に置き換えてしまうと微妙な違和感が残ります。 単純な画としては、冴子のバリバリのレーシングスーツ姿や彫刻、守のモデルガンや何でも壊してしまう紀子の不器用さといった所に原作に寄せた苦労と不自然さを感じてしまう私。その為ミステリー映画としてはなんとも中途半端な作品に仕上がっています。 二丁の拳銃のトリックとその隠し場所の粗さには困惑しますし、犯罪を隠そうとする人達の心理描写もない為、普通に観ていると疑問に感じてしまうかも知れません。

 

 

 

 

逆に言えばどう日本的に設定を変えているのかを楽しむという見方もあります。 本作では探偵のポアロが登場しない為、隣の別荘に住むミステリー作家の枇杷坂という人物がその代わりとして登場しています。 これを演じるのがあの 石坂浩二!そう日本の名探偵金田一耕助その人であります。 最初に​​石坂が画面に登場する場面では小沢栄太郎と共演されていて、その画はもうただの「犬神家の一族」。 本作での石坂のキャラクターとあの声は正に現代の洋服姿の金田一耕助で、観ている私はいつ頭を掻くのやらとワクワクしっぱなしでした。 彼の推理によって事件の真相は判明するのですが、その際の展開がまさかの金田一メソッド。 石坂の「しまった!」の声と共に毒によって自決する犯人。 その犯人を捕まえる事もなく、その意志を尊重する金田一の「犬神家の一族」へのオマージュのようなエンディングに驚きと喜びが交錯してしまいました。

警部を演じるのが夏八木勲さんで、捜査側だからかポアロを思わせる口ひげをたくわえての登場。 これは石坂とコンビを組んで事件解決!と想像しましたが、なんとも中途半端な役どころに留まり、後半にはその姿は見えませんでした。 残念、、。

物語をかき回しそうな橋まゆみ役の藤真利子もミステリー要素に絡んでこないかったりと、そこそこの有名俳優さんが出ていながら推理劇を楽しみたい人にはちょっと残念な映画ではありますが、その時代の空虚な空気感は堪能できます。80年代に確立した?大竹しのぶのかまとと的でフワフワした演技と、エンディングの何かに憑かれたような豹変演技は好みが分かれる所ですが、見所の一つでもあります。

そして多くの作品で汚れたお婆さん役の多い北林谷栄さんが、綺麗な衣装でハナ夫人を演じているのにも意外性があって楽しめます。

 

 

 

 

後半映画オリジナルの場面で、枇杷坂が独自の推理をして書き上げた原稿をハナに読ませるという劇中最もスリリングでサスペンス的な展開があるのですが、その場面で事件の顛末を描いていたらもっと素敵になったような気がします。 どうしてもあの最後の場面に枇杷坂を居合わせたかったのでしょうかね? と、勝手に考えてしまうのでした。最後、砕けた彫刻の中から想い出の品とか何かが出て来ても面白かったですがね、、。まぁ個人的に色々と残念に思う所も多々ありますが、金田一風の石坂浩二が観れただけでも充分にその価値はありましたし、名匠 野村芳太郎監督の最後の作品という事でも観る意義のある映画でもあり、私的には楽しめた作品でありました。

映画が終わり、劇中でも流れた作品に不似合いな曲がエンドクレジットでかかります。違和感のある曲だな~と思っていたら、その謎の曲「ミステリユ」の作曲者が細野晴臣さんだったのが一番の驚きでした。 どのような意図でこの曲を作ったのか? 映画の内容を理解しての曲だったのか? 監督はこれでOKだったのか?YMOファンとしては、そこがこの映画の最大のミステリーでありました。

ある種、映画の登場人物がそうしたように、作品の様々な部分に忖度と寛容、そして大目に見る気持ちで鑑賞すれば楽しめる映画だと思いますので、機会があれば一度ご覧になってみて下さいませ、です。

 

予告がなかったので、この不思議な細野さんによる印象的な曲を宜しければお聴きください。 では、また次回ですよ~! パー