ある高級フレンチ・レストランを舞台に、その店の常連である泥棒とその妻、妻の愛人である学者などの、欲望渦巻く人間関係を描く。

 

 

 

 

 

 

  -  THE COOK, THE THIEF, HIS WIFE & HER LOVER  - 

                 監督 脚本 ピーター・グリーナウェイ 

 

 出演 リシャール・ボーランジェ、ヘレン・ミレン、マイケル・ガンボン 他

 

こちらは1989年制作の イギリス イギリス フランス フランス の合作映画です。(124分)

 

 

 

 

  フランス料理店“ル・オランデーズ”の一番の顧客は泥棒のアルバートとその妻ジョージーナ一行でした。 金にものを言わせて夜毎、卑しい乱行を繰り返しているアルバートに、ジョージーナはうんざりしていましたが、残忍な夫の性格を知る彼女は、恐怖で逃げ出すこともできないでいました。 そんなある日ジョージーナは、常連客の学者マイケルと知り合います。 お互い魅かれあったふたりはレストランの化粧室で抱きあい、やがて関係は深まっていきます。

 

 

 

 

美しい料理を洗練されたスタイルで提供することしか興味のない、フランス人コック長リチャードはそんなふたりに情事の場所を提供してあげるのですが、やがて彼らの関係は客からの密告でアルバートの知るところとなってしまいます。 ジョージーナとマイケルは、彼の書庫で思う存分愛しあいますが、ジョージーナの留守中にマイケルは、アルバートとその手下によって惨殺されてしまうのでした。 夫への復讐を決意したジョージーナは、コック長のリチャードにあるお願いをするのですが、というお話です。

 

 

 

 

映画はフランス料理店を舞台に店を仕切るコックと、毎晩そこへ訪れる野蛮な泥棒とその手下の一行、それに連れられて来る泥棒の妻、同じく客として訪れた男、その男と泥棒の妻が惹かれ合い、フランス料理店の中で不倫関係に陥り、ついにはそれが破綻していくさまが描かれています。

 

 

 

 

物語自体は非常にシンプルですが、この作品の特殊な所は、ほとんどの物語がフランス料理店の店内で繰り広げられているという点で、舞台を観ているような視覚的な演出が施されています。 大きく4つに区分けされた舞台にはそれぞれ色が設定されていて、様々な欲望がうごめくメインダイニングは赤を基調としたセットが組まれ、コック達が働く厨房は緑、休憩のトイレは白、唯一の屋外で暴力行為が行われる駐車場は青といったように、無意識のうちに色という視覚で場所と状況を観客に認識させます。

 

 

 

 

そして、人物が部屋を移動する時にカメラも合わせて動き、壁一枚で仕切られた次の部屋では衣装の色が背景と合わせて変化しているという独特な映像手法が施されています。 カメラも必要以上に動かず、見事に美しく計算され装飾されたセットと、これまた同じく高い美意識で作られた独特な衣装によって絵画のような美しい画面の中で繰り広げる人間の愚行数々。 人間の業の醜さを、フランス料理店という欲望の象徴のようなステージで、とことん愚弄した視点で描かれている作品です。

 

 

 

 

本作を初めて観たのはかなり昔で、インパクトだけが残っていました。 今回改めて観返して、え!こんな俳優さんが演じていたっけ?と今さらながらに気付いた事に自分でも驚きました。 口を開けば悪態しか出ない泥棒を2代目ダンブルドアのマイケル・ガンボン(まぁこちらは今でも悪も善もいけますね) その妻をヘレン・ミレン(これが一番驚きましたが) 泥棒の手下にティム・ロス(基本あまり変化がない役どころでした) というキャスティングだったんですね。 やはり気になった映画は観返してみるものです、ハイ。

 

 

 

 

そしてそんなお話に引けを取らない個性的な衣装は流石のジャン=ポール・ゴルチエ、あの手の奇抜な衣装は、彼か石岡瑛子さんですよね。 その映像を引き立てる重厚なバロック風な音楽を奏でているのが「ピアノ・レッスン」でブレイクするマイケル・ナイマンが音楽を担当しているという豪華さでございます。

 

 

 

 

これだけの映像美と演者、音楽だけでもこの作品が特別なものとなるのですが、これだけで終わらないのがこの映画です。 特異な映像美で綴られた物語のラストはこの映画の特殊性をより決定的にする驚愕の展開が待ち受けるものになっていて、本作を他の不倫映画とは違った次元で脳裏に焼き付けられる作品に仕上げています。

 

 

 

 

正直、物語に登場する人物の誰にも共感は出来ないような、ある種突き放されたような視点で描かれた、無秩序な欲望についての映画で、様式美の中に押し込められた動物の本能と人間の野蛮さが時に滑稽に見えてくる残酷な映画です。 その中でも歌をうたう少年に微かな良心と希望が見えましたが、、。野蛮と気品が扉一枚という絶妙なバランスを保つ、人間の業を描いた絵画のように美しく、汚物のように汚らわしい稀な映画だと思いますので、機会があれば一度ご覧になってみて下さいませ、です。

 

では、また次回ですよ~! パー