2009年・第62回カンヌ国際映画祭 「ある視点 」部門でグランプリを受賞し、第83回アカデミー賞では、ギリシャ映画として史上5本目となる外国映画賞にノミネートされたサスペンスドラマです。 

 

 

 

 

 

 

        -  DOGTOOTH-  監督 ヨルゴス・ランティモス

 

出演 クリストス・ステルギオグル、アンゲリキ・パプーリァ、マリー・ツォニ 他

 

こちらは2009年制作の ギリシャ映画  です。(96分)

 

 

 

 

  ギリシャ郊外でプール付きの豪邸に暮らすとある裕福な家庭。 3人の子どもたちは両親に大切に育てられ、生まれてから一度も外の世界に出たことがありませんでした。それは、世の中の汚らわしいものの影響から子供達を守るためです。 両親は外の世界がいかに恐ろしいかを様々な形で信じ込ませ、従順な子どもたちも清潔で安全な家の中で不満を感じることなくすくすくと成長していきました。 やがて年頃となった長男の性欲を処理するため、父親は金で雇った女性をあてがうことにします。 しかし外の世界からやって来た女性の出現に長女の好奇心が刺激され、両親が懸命に守ってきた無菌環境にはいつしか小さな綻びが生じはじめる、、。 というお話。

 

 



 

カンヌ映画祭の、ある視点部門で受賞、同年アカデミー外国語映画賞にもノミネートされたという本作。 そもそも、こちらをレンタルしたのは、以前 「ロブスター」 という映画をご紹介させてもらったのですが、その独特の世界観を持ったこの監督さんの他の作品も観てみようと思って鑑賞してみました。 さて、いざ観てみると、こちらもまたなんとも形容しがたい、不思議な映画作品でしたよ。強いていうなら ミヒャエルハケネ のような風合いとでも言いましょうか、かなり客観的な視点で、登場人物が描がかれています。

 

 

 


お話自体は、ある夫婦と3人の子供 裕福で幸せそうに暮らしているのですが、冒頭からの会話で早々とこの家族の不思議な生活を感じさせられます。テープレコーダーから聞こえる教材の声 その内容が 「海」は「革張りの椅子」、「高速道路」は「強い風」、「遠足」は「固い床材」と教えています。 例文として、「立ってないで海に座ってゆっくり話しましょう」 となります。 観ているこちらが、「?」 と思っていると、その謎が徐々に謎が解けていきます。この3兄妹は、この邸宅の世界から外に出た事がなく、両親によって外界に関する言は、別の意味に置き換えられているのです。 食事中、娘が 「お母さま、電話を取って頂ける?」 と言うと、私達で言う所の、塩が手渡されるのです。

 

 

 


何故このような生活をしているのか?それは、昔、3兄妹の兄が、何かの理由で死んでしまったから、(あくまで真偽は分からないのですが)子供達を外界の脅威から守るためにやっているようなのです、が、実はこれも定かではありません。その3兄妹といっても、実はどう見ても、ほぼ成人に近い年齢です。 そう考えるとこの両親がやはり普通ではない事が分かります。 外の世界の情報を入れない為に、涙ぐましい?努力をしています。 例えば、外界に出る為には車に乗ってでしか出られません運転出来る父親が食料等をまとめて買って来るのですが、ラベル等は外で全てはがしてから中へ持ち込んだり、家の外には 「ネコ」という名の怪物がいて、出ると殺される と教え込ませれています。その撃退の為、犬の鳴き方をテンションマックスで練習させられる兄妹。 塀の外に物が落ちてしまったら、父親が車で拾いに行く徹底ぶりです

 

 

 


そんな両親のルールの中で育てられた兄妹ですが、兄は良い歳ですからモヤモヤが出て来る訳です、その性処理の為、父親の会社 (どうやら経営者らしいのですが) の部下らしい女を雇って連れて来ます。 この時すらも、相手に目隠しをさせて来るプレイ感。この外界からやってきた女性によって、この家族世界が少しずつ崩壊していきます。その原因は彼女が持ち込んだ、映画のビデオを妹の一人に貸す事によって起こります。そのビデオを、内緒で一人観た彼女に変化が起こるのですが、、、

 

 

 


この作品はR-18になっております、確かにヌードシーンは多いのですが、あまりに視線が客観的である事もあり、そこにエロスは感じられません。 そして暴力的な場面も突然訪れます。 北野映画のような、素敵な?バイオレンスシーンもあります、が、です まるでガラス越しに動物を見ているような、不思議で冷淡な錯覚にも似ています。カメラはとても美しいのですが、部屋が整理され過ぎていて、モデルルームを越えてまるで無菌室のようにも見える室内。 カメラはほとんど固定で、それこそ監視カメラを覗いているかのようで、被写体が動くと顔が切れてしまったりもします。 音楽も流れない徹底ぶりで、独特なテンポで淡々と不思議な家族の日常が描かれていきます。

 

 

 


この両親にとって、彼女等は、まるで犬のような扱いに見えます。 両親の意に反する事をすると、リステリンを口にほお張り、「良し」 と言われるまで口から出してはいけません。 まるで犬が、食事前に「待て」をさせられているようで、子供もそれに従うのです。こんな神経質に育てている子供達なのですが、劇中のあるセリフで、この子供達も本当に夫婦の子供なのか?すら分からなくなってしまうという謎の家族。良い事をすると、親からご褒美のシールがもらえるのですが、こんな幼稚な事が兄妹の闘争心をかきたてるのです。

 

 

 


この家族の見方を変えると、まるで独裁国家のミニマル版にも見えます。 優秀な業績をした者に外の国では無意味な勲章やワッペンを与えて盲目にして、グローバリズムによって、外からの情報で崩れていく、そんな世界をこんな形で皮肉ったようにも思えます。情報や、教育がもし、間違っていたら、、この映画はそんな事を語りかけて来る作品でもあります。 今の世界を斜めから見たら、実はこの家族のような形態は普通に生活している私達自身の姿にも見えてきます。

 

 

 


この家族は、私達とは確かに違うのですが、はたしてそれが間違っているのか?不幸なのか?そんな疑問を投げかけられているような作品です。 そして最後、、ここもどうなのか、説明はされず、不穏な空気のままその解釈はこちらに委ねられます。 本作はかなり観客に解釈や、意味を考えさせられますが、私は意外とそれ込みでこの映画を楽しめました。 1時間40分弱の作品で、様々な要素が入った作品ですが、シリアスに観てもよし、アート系の作品として観てもよし、ブラックコメディとしても、ああだこうだ、考えたり考えなかったりしながら観れますので、風変わりな作品を観たいという方は、一度ご覧になってみてはいかがでしょうか、です。

 

では、また次回ですよ~! パー

 

 

 

 

 

 

独特な創作ダンス。曲も含め、この映画の空気感がダイレクトに伝わる映像です。