嘘をつくことでしかコミュニケーションを取ることができない女性の繊細な心理をスリリングに描き、2018年サンダンス映画祭で脚本賞を受賞したサイコスリラー

 

 

 

 

 

 

     -  NANCY  -    監督・脚本 クリスティーナ・チョー

 

 出演 アンドレア・ライズボロー、スティーヴ・ブシェミ、アン・ダウド 他

 

こちらは2018年制作の アメリカ映画 アメリカ です。(86分)

 

 

 

 

  病気の母親の介護をしながら、日々の生活を送っているナンシー。 派遣の職場では嘘をつく事で同僚とコミュニケーションを図るのが彼女の癖でした。 そんな娘に厳しく当たる母。 ナンシーは自室に籠ってはインターネットで他人と偽りの会話を繰り返すのに僅かな楽しみを見出していました。 そんな中、ブログで出会った男性と初めて会うことにしたナンシー。 子供を幼く失ったという相手に合わせて妊娠中だと告げていましたが、実際は妊娠どころか相手すらいません。 彼女は嘘をつき通して、しばし楽しい時間を過ごしますが、数日後、偶然スーパーでその男性と出くわしてしまいます。 彼の傷ついた心に寄り添う為についた嘘がばれ、 逆に彼を大きく失望させてしまいました。その数日後、ベッドで眠るように母が亡くなってしまいます。 唯一の肉親の突然の死にショックを受けるナンシー。

 

 

 

 

母の死から1週間後、偶然見たテレビに映っていたのは、30年前に行方不明になった少女ブルックの番組でした。 少女が生存していれば現在、35歳。 ブルックの両親は未だ帰らない娘の安否を気にしつつ、貧しい子供達に奨学金を出そうとしている事を伝える内容でした。 テレビは、もし現在ブルックが生きていればどのような外見になっているのかをCGで処理した35歳になった彼女の写真を公開しました。それを見たナンシーは35歳のブルックの写真と自分が良く似ている事に気付きます。 そこで、ナンシーは自分の出生証明書を探してみることにしますが、出生証明書は抜き取られていました。 これは偶然なのか?、胸騒ぎを覚えるナンシー。

 

 

 

 

そこで、彼女はブルックの両親へ連絡を入れることにします。 もしかして自分が二人の娘ブルックではないか。 自分は30年前、母に誘拐された身ではないか。 そのことを夫人のエレンに伝えました。 すると、エレンはナンシーの顔写真を送って欲しいと言い、すぐさま写真を送ると、エレンはすぐに会いたいとナンシーに頼みます。その言葉を受けてナンシーは決意し、エレン夫婦の元へと会いに向かいました、、。夫婦の家に着いた彼女は二人に歓迎され、ぎこちない空気が流れる中、誘拐された時の記憶を問われます。 ナンシーはエレンと手を繋いでいたが、はぐれてしまったと話しその後、更に適当な言葉を重ねていきます。 パスポート申請の際に必要な出生証明書がなかった事。 母から実の母親ではないと明かされた事等、思いついた嘘を重ねていくナンシーは、どうしてもエレンとレオに気に入られたかったのでした、、。

 

 

 

 

DVDのパッケージやキャッチコピーによって、ホラー的な作品と勘違いされている本作ですが、殺人鬼もゴーストもオカルトも登場しない、心理的な飢餓を描いた映画です。映画は最初左右に黒い帯が出るスタンダードサイズの画面で始まります。 これは主人公のナンシーが暮らす狭い世界を視覚的に見せた寸法ですが、彼女が家を離れて夫婦の下へ向かう所から徐々に視界は広がり、いつの間にか画面はワイドになっています。そんな画面からも伝わるように、幼い頃から他人とコミュニケーションをとる事が苦手だった彼女は、嘘をつく事によって他人との距離を早く縮められる事や、たやすく好意を持たれる為の手口やツールのように、自然とそれが身につき、そうする事が普通の事のようになってしまっているように描かれています。

 

 

 

 

娘を探しつづけている夫婦にも、当初は同情から始まり、自身の母親が亡くなったショックと、その母親から優しさを感じなかった自分は、本当に母親の娘だったのか?という疑念が入り混じって、自分があんな夫婦の子供だったら、可哀そうな二人を癒してあげたい、という歪んだ愛の気持ちから、そうだったら良いのに、という微かな希望を抱いてしまうナンシー。 DNA検査等ですぐに判明する事が分っていながら、何故そんなすぐばれるような嘘をつくのかは、もしそうだったら互いに幸せになるという彼女の中にある勝手な善意と思い込みという、悪意のなさが罪な所で悲劇的でもあります。迎える夫婦も当然ナンシーには懐疑的ですが、反面では彼女が娘であってほしいというジレンマを抱えている所が、より切なく感じてしまいます。

 

 

 

 

検査を受け結果が出るまでの数日間を夫婦の家で共に過ごすナンシー。 ビクビクと落ち着かない時間を過ごす彼女と、同じようにその時間を共有する夫婦のぎこちない関係でありながら、どこかで何かが通い始めていく過程が逆に切なさを増幅させます。ブログで出会った男性やエレンに、自分が描いた文章を褒められた事をしきりに気にするナンシーの姿から見えるのは、きっと誰かに自分の存在を認めて欲しかったから、自分自身の存在意義を確認したかったからなのでしょうね。

 

 

 

 

儚くも疑似家族を体験するナンシーと夫婦の、互いに抱える悲しみと淋しさの痛みの分かち合いと、そこから生まれる不思議な共鳴が静かに心を揺さぶる作品です。ナンシーを演じるアンドレア・ライズボローの神経衰弱気味の繊細な演技が見物の本作ですが、他にもジョン・レグイザモが出演していてり、娘が行方不明になった父親を スティーヴ・ブシェミがいつになくフラットな感じで演じていて新鮮でした。 ネコのポールも。日常を円滑に進める為に、誰もが無意識のうちについている嘘。 それが自分の為か、他人の為なのかは別として、嘘をつくという行為の根底にある人間のかよわさと淋しさを見せつけられるような映画となっていますので、興味が湧いた方はご覧になってみて下さいませ、です。

 

では、また次回ですよ~! パー