1966年に実際に起きた当たり屋夫婦の事件にヒントを得て作られた 大島渚 監督の作品。 全国縦断ロケを行って撮られた犯罪ロードムービーの一編です。

 

 

 

 

 

 

 

 

                                -  少年  -   監督  大島渚

 

 出演 阿部哲夫、渡辺 文雄、小山 明子 他

 

 こちらは1969年制作の 日本映画 日本 です。(98分)

 

 

  舞台は高度経済成長真っ只中の昭和40年代 独り言をつぶやきながら一人で時間を潰す孤独な少年。 夜になったのを見計らい屋台に駆け込むと、そこには彼の父親と母親、母親におぶさったチビの3人が食事をしており、彼も加わります。翌日、家族で泊まっていた旅館の代金の支払いを踏み倒して街中へと出て行く4人。バスに乗って向かった町で、早速仕事を始めます。 母親は道路で目を付けた車めがけて飛び出します。 車に当ったふりをして道路に倒れ込み、運転手が下りてくるのを待ちます。 父親はそこへと表れて騒ぎ、示談金をせしめるという当たり屋で生計を立てていたのでした。

 

 

 

 

10歳になる少年の父親は戦争で傷を負ったことでこれまで定職に就かずにいました少年の母親とは血がつながっておらず、実の母親は行方知らずでした。 今の母親との間に生まれた3歳の子供チビとの4人家族でした。一応の家族という形態は成しているものの、 親子の絆は希薄なものでした。 一箇所で仕事を続けると足がつくという理由で、一家は次々と場所を変えて旅をしている為、少年は学校にも通えず、友達すら持てない孤独な環境でした。

 

 

 

 

ある日、そんな仕事の最中、母親が腰にケガを負ってしまった事で、遂に少年が当たり屋の仕事をするようになっていきます。 しかし、少年は車の前に飛び出す恐怖と両親への抵抗から何度も逃げ出そうと試みますが、結局は逃げた後に味わう孤独に打ちのめされて、まだ幼い彼は家族の元に帰るしかありませんでした。一家は反目しあいながら、当たり屋という犯罪を続けながら日本を北へ移動しながら、ととうとうその先には海しかない北海道の最北端まで辿り着くのでしたが、、。

 

 

 

 

というお話です。 ​​​​ そもそも本作に興味を持ったのは当然 大島渚の作品という事もありますが、フランスの番組で 是枝裕和監督が 「万引き家族」 を作る時にかなり参考にしたというインタビューを見たのが大きくて鑑賞しました。 それを知った上で本作を観ると「万引き家族」という作品を発想するのにかなりの影響を与えた事が分かります。是枝監督の作品では血縁関係上では他人という人達ではありながら、芯の部分ではそれ以上に強い絆で結ばれている集合体が、血縁という繋がりよりも家族らしい存在に成り得るのではないか?という作品でした。 

 

 

 

 

本作は一応の血縁関係がありながら、真の意味での家族、そして親子という内面的な繋がりが希薄で、少年と父親の繋がりに至っては服従関係の方が強いいびつな親子関係にあります。 ただ時折、血縁関係のない母親がみせる優しさによって、なんとか家族という形のバランスを保とうとする少年。腹違いの弟のチビに、兄らしさと愛情を向け、アンドロメダ星人という子供らしい空想を話て聞かせる姿は、チビに対する優しさと同時に、自身の少年らしさを保とうと、「汚い大人になりたくない、まだ少年でいたい」 と、訴える相手の居ない少年の独白のように聞こえて切なくなります。

 

 

 

 

そんな少年の孤独な世界を表現するように、映画での登場人物は少年と両親、そしてチビのほぼ4人だけです。 この言葉少ない少年の心象風景を表すように、音楽が様々な音色で流れますが、どれも悲し気で不安な旋律な事も印象的です。この少年を演じている 阿部哲夫 という少年がまた見事です。 決して表情豊かではないのですが、劇中の少年のどこにも属せない淋しさが画面から伝わって来る程です。彼の略歴を見ると実際に養護施設に収容されていた孤児だった事を知って驚きました。現在では不可能でしょうね。 後半の雪の場面では幼い兄弟が風雪の中で演じる固定カメラの場面がありますが、チビはそこそこ薄着で手袋もフードもない状態です。 寒そうなその姿といで立ちが気になって集中できなかった私。 恐るべし昭和時代です。

 

 

 

 

母親役の小山明子さんがなかなかカッコよかったり、チビが可愛かったり、昭和の街並みや車が素敵だったりと、美しい映像と見所が多くある低予算のロードムービーです。ラストシーンで少年が見せる涙は子供に戻った安堵の涙なのか、少年期の決別の涙なのか、家族や人間同士の絆について考えさせられる映画ですので、機会があれば一度ご覧になってみて下さいませ、です。

 

では、また次回ですよ~! パー