あまりにも過激なバイオレンス描写で物議をかもした作品。イギリス植民地時代のオーストラリアを舞台に、夫と子どもの命を将校たちに奪われた女囚の復讐の旅を描くバイオレンススリラー。

 

 

 

 

 

 

       - THE NIGHTINGALE - 監督 脚本 ジェニファー・ケント

 

 出演 アイスリング・フランシオシ、サム・クラフリン、バイカリ・ガナンバル他

 

こちらは2018年制作の オーストラリア映画  です。(136分)

 

 

「ババドック 暗闇の魔物」 の女性監督 ジェニファー・ケントの作品で、第75回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門で審査員特別賞ほか計2部門を受賞した作品です。

 

 

 

 

  舞台は19世紀の植民地オーストラリアのタスマニア島。 けちな盗みを働き流刑囚となったアイルランド人のクレアは、元罪人という身ながらイギリス軍に奉仕することを条件にある一定の自由が与えられた囚人という立場でした。 彼女はその美しい容姿と歌声から一帯を支配する英国軍将校ホーキンスに囲われていました。 クレアの夫エイデンは、彼女が刑期を終えた後も釈放されることなく、拘束されていることについて不満を持ち、ホーキンスに交渉を試みます。 しかし、逆上したホーキンスはクレアを仲間達とレイプした挙句、彼女の目の前でエイデンと子供を殺害してしまいます。 尊厳を踏みにじられ、愛する者達を奪われたクレアは復讐を決意しますが、野心と出世を目論むホーキンスはローンセストンに駐屯するベクスリー大佐に昇進を直訴するために旅立った後でした。 

 

 

 

 

 

クレアは先住民アボリジニの黒人男性ビリーに道案内を依頼し、将校らを追跡する旅に出ます。 危険な任務を嫌い、最初は彼女に反発しながらも謝礼金のために嫌々同行していたビリーだったが、彼女の本当の目的を知ると、自分も白人達から家族や仲間を殺されて奴隷となった過去を打ち明けます。 共通の敵を持つ2人の間にはいつしか強い絆が生まれてゆくのですが、、。 という物語です。

 

 

 

 

「バイオレンス満載のリベンジ映画」 と思ってレンタルしたのですが、映画のテーマは全く別の所にありました。 勿論、女性軽視のレイプシーンや殺人、泣きわめく赤ちゃんを殺害するといった目を覆いたくなるような残虐な場面が多く登場するのは確かです。ですが、今作ではそれが日常化して当然という植民地時代の悪しき差別や偏見、その延長線上の暴力という行為をクレアという女性の視点を通して描かれています。

 

 

 

 

主人公のクレアという女性は故郷アイルランドで貧しさから盗みを犯し、犯罪者となります。 イギリス軍に従事する事で一定の自由は得ているものの、あくまでイギリス軍の所有物と言う立場にあって、周囲の住民からは罪人として差別されています。 そんな彼女が復讐の為に道案内で雇うアボリジニのビリーも白人達から人間以下の差別をされている身です。 元々は彼等アボリジニの土地だったものが、後から来た白人達によって植民地にされ、彼等は迫害、差別されています。 

 

 

 

 

そんな立場のビリーが生きる為にクレアの道案内をする事になり、復讐の旅に同行する羽目になるのですが、当初クレアもビリーに対して銃を向け、白人と原住民という優劣の関係で旅が始まるのですが、その道程で白人達の残虐な行為や彼等に対する迫害を見る事になります。 ビリーもクレアの生い立ちと、ここに至った人生を聞く事で、互いに理解を深めていく事になります。 性別も人種も違う立場の二人が旅する中で、差別や偏見といった人間の愚かさと、英国植民地時代のオーストラリアの生々しい惨状が描かれていきます。

 

 

 

 

人種、国籍、性別、立場といったものが何の意味も持たなくなる場所が原生林の中というのも象徴的です。劇中、白人の老夫婦に招かれ食事をもらうシーンで、ビリーも同じテーブルに座るように促され、「ここは自分達の土地なんだ」 と涙する場面には深い悲しみを感じました。

家族の復讐を軸に描いた作品ですが、それが憎しみの暴力を生み、差別、迫害、抑圧憎しみ、という負の連鎖を生みだすという事を同時に描いた作品でもあります。本作で主人公を演じたアイスリング・フランシオシ と バイカリ・ガナンバル の二人は素敵な演技を見せてくれています。 そして悪の根幹の将校ホーキンスを演じた サム・クラフリン の嫌われゲスキャラ演技も見事でした。

 

 

 

 

本作の監督のインタビューで、「暴力シーンは植民地時代に先住民族に対して向けられた暴力とレイシズムを正確に描写したものである。本作は暴力を描くことを主題にしているわけではなく、暗い時代における愛、同情、優しさの必要性を主題にしている。」 とあります。 女性監督らしい繊細な映像で描かれた、復讐とその裏にある深い悲しみ、それと同時に人間の持つ可能性を感じさせられる作品でもありますので、機会があればご覧になってみて下さいませ、です。

 

では、また次回ですよ~! パー