「ザ・セル」 のターセム監督が構想26年、13の世界遺産、24ヶ国以上でロケーション撮影され、期間4年を費やして製作された、美しい美術品のような感動巨編。

 

 

 

 

 

 

                   - THE FALL -  製作 監督 ターセム・シン

 

 出演 リー・ペイス、カティンカ・アンタルー、ジャスティン・ワデル 他

 

こちらは2006年制作の インド  イギリス イギリス アメリカ アメリカ による

                                                                          合作映画です(118分)

 

 

世界遺産に指定されている建造物や自然の景色の中で、全てを実写、実景で撮影されている貴重な映像標本のような作品です。 ただ映像の一部に写り込んでしまった街頭を消す程度にCGが使われていますが、そこに映されているものは全て本物という、こだわりの美しさが堪能できる映画に仕上がっております。

 

 

 

 

  舞台は年の1915年のアメリカ、ロサンゼルス。 映画のスタントマンとして働いていた ロイ・ウォーカーは撮影中の事故で橋から落下し両足を、両足を骨折するという大怪我を負って病院に入院していました。 ロイの不運はそれだけにとどまらず、恋人を映画の主演俳優に奪われるといったことなども重なり自暴自棄に陥っていました。同じ病院に アレクサンドリアという幼い女の子も入院していました。 彼女は実家の手伝いでオレンジを収穫中に木から落ちて腕を骨折していたのでした。ある日、アレクサンドリアが2階から投げた手紙が、偶然ロイが眠るベッドに落ちてきた事がきっかけで二人は出会います。 好奇心旺盛なアレクサンドリアはロイに話しかけ、ロイは彼女を和ませようとお話を語りはじめます。

 

 

 

 

それはアレキサンダー大王にまつわるおとぎ話でした。 ロイの話を頭の中で思い描くアレクサンドリアはお話に夢中になります。 そして明日は別の愛と復讐の壮大な叙事詩の話をしてあげるとロイは告げます。 叙事詩の意味は分からなかったアレクサンドリアでしたが、そのお話を楽しみにして翌日もロイの所へとやって来ます。「お話を聞かせて」という彼女にロイは目を閉じるように言って話しはじめます。ロイが語りはじめたのは悪者オウディアス総監に復讐を誓う男達のお話でした。 

 

 

 

 

元奴隷のオッタ、妻を自殺に追いやられたインド人、発明した爆弾を恐れて孤立させられたルイジ、探し求めていた蝶の死骸を贈られたデーウィン、兄弟を引き離された仮面の男、この5人の男達が主人公の復讐劇。 彼等が旅をしてオウディアスと対決するまでのお話を、数日に分けて語っていく事になるのですが、ロイにはある思惑がありました。 お話を餌にアレクサンドリアを使って自殺する為の薬を盗ませようとしていたのでしたが、、。 というお話です。

 

 

 

 

心身共に傷つき自殺を考えている男ロイが、アレクサンドリアという少女に出会い、架空のお話をしていくのですが、徐々にそのお話が自分も気付かないうちにロイ自身の現実世界の苦悩とリンクし始めていきます。 そして、勝手に作ったはずのお話が、アレクサンドリアの影響によってその物語自体にも変化が起こりだすのです。架空のお話が、いつしか二人の心の傷と穴を少しずつ埋めていき、気付かないうちにお互いに影響を及ぼしていく現実世界の二人と、それに伴って変化していく架空のお話。 全く別だった二つの世界が次第に融合していくさまがスリリングで感動的な作品です。

 

 

 

 

この監督さんは前作にジェニファー・ロペス主演の 「ザ・セル」 という映画を撮っていてそちらでも非常に幻想的な映像表現をされていました。 それもあって、今作でもその美しい幻想的な映像目当てでレンタルしたのですが、意外や現実世界のロイと少女アレクサンドリアのドラマの方へ完全に心が持っていかれてしまいました。勿論、ロイが語り、アレクサンドリアが空想するお話の映像の美しさは、現実とは思えない程の素晴らしさで、正に幻想の夢を見ているようです。 この場面で衣装を担当している 石岡瑛子さん の衣装デザインも素敵なのですが、現実世界の二人が織りなす演技を越えたような二人の関係により強いドラマを感じました。

 

 

 

 

お話のパートは華やかなな原色で描かれているのに対し、ドラマ部分は色調を抑えた映像で撮られ、徹底的にリアルな世界として描く事で、二つの世界が全くの別物として区別しています。 ここで登場する語り部のロイと聞き手のアレクサンドリアの関係が実に自然なのです。 特にアレクサンドリアを演じる カティンカ・アンタルーちゃんの半分素のような演技には参ってしまいます。 決して美人さんではないのですが、その仕草、目の動き、喋り方、そして前歯。全てが見事で、ついお話そっちのけで、彼女の事ばかり目で追っていました。 それを受けるロイの父性溢れる演技も素敵で、この二人に見事にやられてしまいました。

 

 

  

 

 

映画のエンディングでは、ロイを中心に今まで映画というものを観た事がないアレクサンドリアと入院している子供達、そして病院の大人が揃って映画を観る場面があるのですが、この場面で映画を初めて観る子供達の表情がまた素晴らしく、創世記の活動写真を物語に組み込んで物語を終息させるという構成に、監督の映像に対する情熱と愛が伝わってくるようで、実に感動的なエンディングになっています。映画を観終え、この作品の原題 「TheFall」 が含む様々な意味に納得する私でした、。DVDにはメイキング等の特典も入っていて、そちらも見応えがあります。 けっこうエモーショナルな監督さんに 「もうやらない!」 と返すカティンカちゃん等が観れますよ。美しいロケーションと不思議なお話。 時間と空間を超越したような映像のファンタジーを味わえる作品ですので、機会があれば一度ご覧になってみて下さい、です。

 

では、また次回ですよ~! パー