スウェーデンの税関で働くティーナには、違法な物を持ち込む人間を嗅ぎ分ける特殊な才能があり、入国審査で欠かせない貴重な人材として活躍していた。しかし、あまりにも醜い容貌をしていたため、同棲相手はいるものの、誰とも心通わせず、孤独な人生を送っていた。 そんなある日、ティーナは自分と同じような容貌の旅行者ヴォーレと出会う。本能的な何かを感じ、彼に自宅の離れを宿泊先として提供するティーナだったが、、。

 

 

 

 

 

 

こちらは2018年制作の スウェーデン  デンマーク  の合作映画です。

                                                                                            (108分)

 

71回カンヌ国際映画祭の ある視点部門でグランプリを獲得、アカデミー賞では メイ

 

クアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートの本作は、私の大好きな作品 「ぼくのエ

 

リ 」 の原作で知られる、ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト の短編小説を基にし

 

た作品です。

 

 

 

 

  予備知識なく観始めた本作は、主人公 ティーナが、草むらでコオロギを手に取り

 

再び自然に放す場面から物語は始まります。 不思議なこの場面が物語を予見している

 

ようです。

 

 

 

 

主人公のティーナが冒頭で画面に現れるなり、異様なムードが漂い、観る者の目をク

 

ギづけにします。 その独特な顔立ちは、初めて見る相手をドキっとさせます。 それは

 

社会人として触れていい事なのかを迷わせる特有の「あの気持ち」。 自身の寛容さを

 

試される一瞬に似ています。 普通と異様のこの絶妙な境界線を具現化させた存在がテ

 

ィーナという主人公です。 しかし、「エレファント・マン」 のエリックとは違い、ち

 

ゃんとした仕事を持ち、男性の同居人も居る、いたって普通の生活を送っている女性

 

です。スウェーデンの税関に勤める彼女は、特殊な能力を持っていました。 並外れた

 

嗅覚を使って、持込禁止の品物や、違法な物品などを手荷物に隠した旅行者をピック

 

アップしていきます。 その為に鼻をクンクンとさせる動きが、余計に彼女を異質な存

 

在に見せます。 時には香りを発しない違法な画像を収めたメモリーカードまで発見す

 

るティーナは、単なる物の匂いではなく犯罪者から発する負の臭気も感じる事が出来

 

るようでした。

 

 

 

 

いつものように税関でチェックをしていたティーナの前に、ある日、自分と似たよう

 

な外見をした旅行者ヴォーレが現われます。 同じような顔立ちをした二人が揃った事

 

により観客は改めてティーナの容姿が特殊なものだと皮肉にも感じる事になります。 

 

それはティーナ自身が一番感じた事でしょう。  再び税関にヴォーレが現われた時にそ

 

れは確信に変わります。 ヴォーレに会いに行き、宿を探しているという彼に、同居人

 

の男に相談もせず、自分の家の離れを貸してあげる事にします。 ヴォーレが近くで

 

暮らすようになってから、ティーナの生活は信じがたい運命へ導かれていく事に、、

 

というお話です。ティーナが暮らしている家は森のすぐ近く、川や湖もあって野生動

 

物も暮らしています。この北欧独特の神秘的なロケーションが物語に不思議なリアリ

 

ティを生んでいます。 お話は静かに淡々と進みますが、同時に不穏な緊張感が漂いま

 

す。 観ていると、この物語が何処へ向かって進むのかが全く予想出来ない作品です

 

 

 

 

人間ドラマ、ファンタジー、ホラー、サスペンス、恋愛映画と、様々に変容していき

 

ます。「ボーダー」というタイトルが示すように、この作品には様々な境界線が提示

 

されています。 見た目、性、善と悪、過去現在、家族、そしてティーナの立つ税関

 

と、、、 多様な境界線と価値観が存在する現代の中で、自分のを運命を受け入れ、ア

 

イデンティティと居場所を見つける物語。自分とどう向き合うか、観る者の心をざわ

 

めかせる作品です。「ぼくのエリ」 同様、静かな北欧の空気に漂う寓話のような内容

 

ですが、「ぼくのエリ」では重要な場面にボカシが入っていたにも関わらず (そんな

 

加工の必要性は感じられない重要なショットでしたが) 本作ではその加工がされてい

 

ないビックリシーンが登場します。 色々な意味で嫌悪感を感じる方もおられるかも

 

しれませんが、ある種の強烈なメッセージである事を強く感じてしまう私でした。

 

そんな訳で、良い悪い、面白い面白くない、で簡単に分けられないような不思議な作

 

品です。 ちょっと変わった映画がお好きな方や、普通の映画に飽きている人には刺

 

激になる作品だと思いますので、機会があれば一度ご覧になってみて下さいませ。

 

では、また次回ですよ~!  パー