1949年、共産主義政権下のポーランド。音楽舞踊団を結成したピアニストのヴィクトルは、養成所のオーディションに応募してきた歌手志望のズーラに興味を抱き、やがて激しい恋に落ちる。しかし当局の監視を受けるようになったヴィクトルは西側への亡命を決意、ズーラにも決断を迫るが、結局2人は離ればなれに。数年後、パリで暮らしていたヴィクトルは、舞踊団の花形スターとしてパリ公演にやって来たズーラと再会を果たすのだったが、、。
こちらは2018年制作の ポーランド フランス イギリス による
合作映画です。(88分)
第71回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞 アカデミー賞、ゴールデングローブ賞で
は外国語映画賞のポーランド代表としてノミネートされる等、多くの映画賞で受賞、
ノミネートをされた作品です。
1949年、東西冷戦の影響が⾊濃く出始めていた共産主義政権下のポーランド
で歌手を夢⾒るズーラがピアニスト・ヴィクトルも審査員を務めるポーランドの民族
音楽舞踏団 マズレク のオーディションを受けるところから映像は始まります。 2人
は瞬く間に激しい恋に落ちます。 マズレクの花形として舞台に立つようになったズー
ラでしたが、西側の自由な音楽 ジャズ への渇望を止められないヴィクトルは政府に監
視される中、ズーラと共にジャズが自由に演奏できるパリ(西側)への亡命を決意し
ます。
ベルリンでの公演時、ヴィクトルはズーラを誘いパリに亡命しようとしますが、ズー
ラは現われず、ヴィクトルは一人で亡命する事になってしまいます。 舞踏団に残っ
たズーラは歌手となり、公演活動で訪れたパリやユーゴスラビアでヴィクトルと再会
します。
ズーラは彼とパリに住み始め、歌手として売り出す為にレコードを制作しますが、仕
事が2人の関係性に亀裂を生む事になり、突然ズーラはポーランドに戻ってしまいま
す。ヴィクトルも彼女の後を追いますが、時代は容赦無く2⼈を引き裂いていくので
した、、。
貧しい出のズーラと、インテリ階級のヴィクトルという身分違いの2人が激しい恋に
落ちながらも、時代に翻弄されていく儚くも美しい大人のラブストーリーです。
映画は冷戦という特殊な時代を描きながらも、2人の出会いと別れという出来事に終
始した物語にのみフォーカスした作りになっています。 逆に言えば、ズーラとヴィク
トルという男と女に、冷戦という時代がどれだけ生き辛いものだったか、情熱的で純
粋な愛の前に、それがいかに大きな障害であったのかが描かれています。
10数年に渡る2人の物語のわりに上映時間が短いというのも本作の特徴的な所で、
余計な時代説明は省かれ、終始2人の物語だけが綴られていきます。 そればかりか
2人が数年離れている時間は省略され、ヴィクトルが政府に逮捕されたり、ズーラが
他の男と結婚しようと映画的な説明はなく、2人だけの物語にポイントが置かれ、ヴ
ィクトルとズーラの不変的な愛だけが描かれていて、他の出来事など2人の人生には
関係ない!と言わんばかりの作りとなっています。
もう一つの特徴が モノクロ4:3のスタンダードサイズで撮影されている映像で、ま
るで絵画や詩を思わせるような美しさです。 劇中ズーラが川に浮かびながら歌を口
ずさむ場面などは、モノクロながら名画の「オフィーリア」を思わせる美しさであり
ます。
映像同様に素敵なのが多様な音楽で、この主人公2人を紡ぐ重要な要素でもありま
す。本作では物語上のアイテムでもありますが、2人の関係や時代を象徴するもの
としても使われています。 出会いのきっかけになった民族音楽や伝統舞踊に始ま
り、ジャズ、シャンソン、ロカビリー、サンバ、と音楽によって時代の変化と移り変
わりが表現されていて、見事に2人の物語に同化しています。この主人公2人を演じ
る役者さんの画面の中での存在感がまた素敵なのでした。
ポーランド・ベルリン・ユーゴスラビア・そしてパリと、舞台を移しながら紡がれる
物語。ラストシーンで、腰かけた2人が 「向こう側へ、景色がきれいよ」 と言いなが
ら画面から外れ、誰も居なくなった景色にただ風が吹いてくるという場面に、深い意
味と悲しみを感じてしまう私でありました、、。
冷戦下で恋に落ち、別れと再会を幾度となく繰り返しながら、時代に翻弄されたピア
ニスト・ヴィクトルと歌手ズーラ。 愛し合っていても、同じ場所で一緒には生きられ
ない2人の美しくも情熱的なラブストーリーです。
物語はもとより、音楽好きな方 (素敵な様々なジャンルの音楽が堪能できます) にも
お薦めの映画ですので、機会があれば一度ご覧になってみて下さいませ、です。
では、また次回ですよ~! 「オヨヨ~ィ!」