単館としては記録的な大ヒットをした、奇才カラックスの鮮烈な愛の映画。パリの中央にあるポンヌフ橋で繰り広げられるホームレスの青年と、失明の危機にかられた女画学生との純愛を描いた愛の物語、、。

 

 

 

 

 

 

   - Les Amants du Pont-Neuf -    監督 脚本 レオス・カラックス

 

出演 ジュリエット・ビノッシュ、ドニ・ラヴァン 

                          クラウス=ミヒャエル・グリューバー 他

 

こちらは1991年制作の フランス映画 フランス です。(125分)

 

以前このブログでもご紹介した 「ホリー・モーターズ」 や 「汚れた血」 の奇才 レオ

 

ス・カラックスによる恋愛映画です。

 

 

 

 

  物語の舞台はパリのセーヌ川に架かるポンヌフ橋です。 

修理のため閉鎖されているポンヌフ橋。 そこに暮らす天涯孤独のホームレス青年のアレックスは、大道芸で日銭を稼ぐその日暮らしをしていました。 彼はいつものように酒を飲みながら夜のパリを放浪していましたが、車に片足を轢かれてしまいます。そこを通りかかったミシェルはその光景を見ていました。

 

 

 

 

ある日、アレックスが橋の寝床に帰ると、ネコを抱き片目を絆創膏で覆ったミシェルが寝ているのを見つけます。 彼女は恋の痛手を抱え、失明の恐怖から家出をし、放浪生活をする女画学生でした。 アレックスはミシェルの美しさに初めて恋の心地を知り、ポンヌフ橋を仕切っている初老の浮浪者ハンスに、この家出娘ミシェルを置いてくれるように頼み込みます。 ハンスに煙たがられながらも二人のホームレス生活が始まります。 

 

 

 

 

ジュリアンというチェリストへの恋の未練と画家としての失明の恐怖を両手に抱えたミシェルと、他人との繫がりをあまりにも持たずに生きてきたアレックスとの間にも、徐々に愛情に似た親愛が芽生え始めます。 そんな中、パリの町ではフランス革命200年祭を祝う花火が乱れ交います。

 

 

 

 

このまま二人の生活がつづくと思われていたある日、眼の病気は治るからこの人を捜してという、ミシェルを探すポスターが町中に貼られているのをアレックスは目撃します。今の幸せな生活が消えてしまう事を恐れたアレックスは、ミシェルに見られないように町中のポスターをはがして周ります。 ついにはこのポスター張りの仕事をしている車に火を放ってしまい、業者は焼死してしまいます。 そんなアレックスの行動も虚しく、その夜アレックスがミシェルにプレゼントした携帯ラジオから、ミシェルを探すアナウンスを耳にしてしまうのでした、、。 というお話です。

 

 

 

 

ある種の極限で出会った男女のラブストーリーをめぐる本作。 主人公はどちらもホームレスという事もあって、衣装は勿論の事、絵面はかなり汚いはずなのですが、この二人不思議と汚さを感じさせない魅力があります。 それは中から湧き出てくる人間的な魅力がそうせせているように思えます。 

 

 

 

 

この作品で特に有名な花火の場面の美しさは、一瞬の輝きで消えてしまう花火の儚さと同時に、その生命力の美しさがそこで踊るホームレスの二人の躍動感と共鳴する事で、より命という美しさが強調されてこの上なく感動的なものに見えてくる、正に映画という映像の醍醐味を感じさせられます。

 

 

 

 

ただ、本作では単純な男女の恋愛が描かれている訳ではなく、愛を与えて欲しているのは純粋なアレックスの片想いです。 手に入った大金を故意に川へ落したり、目が治るという知らせをミシェルに知られないようにする行動からは、現在の生活でしかミシェルと居る事が出来ないという事実をアレックスは知っているからです。

 

 

 

 

反対にミシェルの心には常に過去がつきまとい、アレックスを受け入れるどころか、最後まで心の底を打ち明けようとはしません。 目が見えなくなるという本当の孤独を共有してくれるのは、今現在目の前にいるアレックスだけだと理解しているからで、治ると知った彼女のとった行動がそれまでの二人の利害関係を象徴しているものではないでしょうか?

 

 

 

 

それはあまりに悲しい現実ですが、数年経った後もその距離感に変化はなかった事でアレックスは非日常へとミシェルを誘います。 ラストがハッピーエンドなのかは二人しか知り得ない事ですが、愛とはそういうものなのかも知れません、、。これを演じるジュリエット・ビノッシュとドニ・ラヴァン この二人でしか演じ得なかったであろうミシェルとアレックスがとにかく汚な美しい作品でありました。

 

 

 

 

余談ですが、本作は映画本編よりも完成に至る経緯自体が非常に話題になったいわくつきの作品です。 この映画は完成までに3年もの歳月が費やされた超大作です。 映画は当初、白黒フィルムで短期間、低予算、の作品予定でした。 しかし主役俳優の怪我によって撮影は中断・延期になります。 その為、本物のポンヌフ橋でのロケが出来なくなってしまい、歯車が狂い始めます。 

 

 

 

 

ロケが出来ないなら作ってしまえと、実物大のポンヌフ橋と背景を郊外の村に建設する事にまでなります。 資金の調達等、途方もない大きなプロジェクトに膨れ上がり、セットの建築費用と、製作費を支払いきれずプロダクションは倒産。 半年に及ぶ撮影中断と嵐に襲われ、巨大セットも再度作る羽目になります。 そんな様々な事でプロデューサーも3人目となり、フランス映画史上最大のセットによってようやく完成した作品です。 この顛末はDVDの特典に収められていますので作品をご覧になって興味がありましたらついでにでもご覧下さいませ、です。

 

 


 

甘いラブストーリーだと思ったら、なかなかの私利私欲恋愛映画でありました。 

え!これセットなの?と思える見事な橋と町の再現や、ポンヌフ橋の花火とボート場面の美しさと、見所は沢山ある映画ですので機会があればご覧になって下さいね。

 

では、また次回ですよ~! パー

 

 

 

 

 

 

 

劇中で印象的になが流れるデヴィッド・ボウイの隠れた?名曲 「Time Will Crawl」 音譜