1970年代、ワシントン州。建築家を夢見るハンサムな独身の技師ジャックは、ある出来事をきっかけに、アートを創作するかのように殺人を繰り返すように。そんな彼が「ジャックの家」を建てるまでの12年間の軌跡を、5つのエピソードを通して描き出す。
こちらは2018年制作の デンマーク フランス ドイツ スウェーデン
による合作映画です。(155分)
「ダンサー・インザ・ダーク」 「メランコリア」 の ラース・フォン・トリア―監督
がシリアルキラーを主人公に彼の殺人行為と精神世界を交錯させて描かれています。
本作はあくまでフィクションですが、過去の様々なシリアルキラーを参考に、主
人公のジャックという人物が創造され、人間の持つ本能と潜在意識。 自身の欲望のま
まに行動する、ジャックの12年が、彼の回想によって5つの章とエピローグで語ら
れます。主人公ジャックをマット・ディロンが演じ、ブルーノ・ガンツ、ユマ・サー
マンといった面々が脇を固めた本作は、ジャックと、ある人物の会話によって進行し
ていきます。
建築家を目指していたジャックは強迫性障害を患っていました。 そんな彼がある日、
突発的に人を殺してしまいます。 それをきっかけに殺人に目覚めたジャックは、その
行為を芸術と捉えるようになり、連続殺人を繰り返すようになっていきます。
様々な意味で、何かと話題になるラース・フォン・トリア―監督が、本作では遂に ド
直球 な殺人という行為を描いた事で個人的な期待が高まりました。 シリアルキラー
が主人公で、その上フォン・トリア―作品ですから、かなり人の気分を害する作品で
ある事は承知出来ます。 ただ残念なのが、レンタルされているDVDは2分程カット
されています。察しはつきますが、正直ちょっと損した気分になった私でした、、。
しかし、園子温的グロ描写が無くても、充分フォン・トリア―らしい リアルで嫌悪感
上等の殺人行為が堪能出来る 内容で作品自体に影響は無いように感じられました
映画はジャックがこれまで犯してきた殺人行為を、ある人物に告白する形で進行しま
す。
ジャックには避けがたかった最初の殺人 (これは観ているこちらもやや納得してしま
うものがありましたが) 徐々に自ら対象を求めるようになり淡々と人を殺し、冷凍庫
に保管をはじめるジャック。 遺体でアート写真を撮影したり、はく製を作ったりと
犯行も目的もどんどん大胆になっていきます。 (オッパイで作った財布って)
遺体を持ち帰る為、車で引きずるも、摩擦でお顔が無くなっていたり、親子を鹿狩り
に見立てての子供からドン と、狂気を通り越したフォン・トリア―の悪意の極み
加減には流石に笑ってしまいました。 その悪意と、ジャックのテーマともと
れる デヴィッド・ボウイの曲「FAME」が作品の良いアクセントになっています。
ジャックのドラマが進む中、時折聞き手との会話で芸術や哲学、果ては宗教等の小難
しい話題にまで話が及び、それを象徴、解釈する映像のコラージュやスライドによる
イメージ画像が度々挟まれるという構成の、やや変化球な作りです。 お好みもあり
ますが、この会話が意外と無知なインテリジェンスを刺激して心地よかったりもしま
映画はシリアルキラーのジャックという人物を通じて、人間の業を描いています。と
同時に、この作品はラース・フォン・トリア―自身の 「告解」 でも あるように思え
てなりません。やや精神的に不安定なフォン・トリア―の闇の部分がジャックという
キャラクターを生み出し、まるで自身の願望を作品の中で浄化しているようでもあり
ます。
決定的なのが最後の章での展開です。 これまでのドラマとは逸脱したような、精神的
で観念的な世界が舞台になり、これまでのフォン・トリア―作品には無かった、過剰
ともいえる説明的でそのまんまの映像表現は、こちらがちょっと恥ずかしくなる程で
す。
イタリアの詩人ダンテの「神曲」をモチーフに、告白を終えたジャックを地獄へと案
内するというベタな展開は好みが分れる所ですが、映像としてはそこそこ楽しめるも
のです。やはりフォン・トリア―作品は、一筋縄ではいかないのでした、、。
ほぼ出ずっぱりのマット・ディロン、「アウトサイダー」等のカッコイイイメージが
強い私ですが、本作の病んだジャックもかなりのハマリ役で見所の一つでもあります
赤という色を象徴的に使ったりと、映像センスと音楽センスは相変わらず素敵です
し、サイコホラー、サスペンス映画としても十二分に楽しめます。 湿ったエンディン
グになりかけてからの、あの曲のセンスはやはり嫌いになれない理由でもありました
劇中、本物のアヒルのヒナの足を、幼少期のジャックが切り落とすという、誰もが嫌
悪感を抱く場面が登場します。エンドクレジットの最後に「この映画で狩られたり、
傷つけられた動物はいません」という字幕が入ります。 それを見てホッとすると同時
に、監督のニヒルな嘲笑も浮かび、人間の嫌な所を突かれたようで、少しゾッとした
私。
物議、不快感、嫌悪感、が前提の本作は、155分と若干長めの作品ですが、ラー
ス・フォン・トリア―作品の中ではかなり観やすい作品だと思いますので (この手の
ジャンルが苦手な方にはお勧めできませんが) この機会にでもご覧になってみてはい
かがでしょうか、です。
では、また次回ですよ~!