第二次世界大戦下、大西洋上を航行していた客船が、ドイツの潜水艦Uボートの魚雷攻撃を受けて沈没した。脱出に成功した7人の男女は、1隻の救命艇にたどり着く。 そこへ、連合国軍によって撃沈されたUボートの生き残りであるドイツ兵も乗り込んできて

 

 

 

 

 

 

こちらは1944年制作の アメリカ映画 アメリカ です。 (96分)

 

「怒りの葡萄」 「エデンの東」 等で有名な作家 ジョン・スタインベック の原作をサ

 

スペンス・スリラーの巨匠 アルフレッド・ヒッチコックが監督したのが本作です。

 

 

 

 

  大西洋上を航行していた客船が、ドイツのUボートに攻撃を受け沈没。そこから

 

生き残った人々が小さな救命艇に乗り込み、救助を待ちながらバミューダ方面へと舵

 

を進めるといったお話で、いわゆるワンシチュエーションのはしりのような作品です

 

 

 

 

ヒッチコックの映画技法の巧みさはオープニングから冴えています。 海の中に沈む船

 

の煙突、その後様々なものが水面に漂う残留物という短いカットで、状況の説明をす

 

んなりとやってのけてしまっている所等は流石です。

 

 

 

 

そしてカットが変わりその海に浮かぶ 一隻の救命艇。 たった一人、救命艇に乗ってい

 

るジャーナリストのコニー。場違い感満載のミンクの毛皮を着てタバコを燻らす程の

 

エレガントさです。 そこへ遭難者が次々に乗り込んで来ます。 最初に乗ってくるエ

 

ンジニアのコバック、ダンサーで足を負傷しているガス、操船担当者だったスタンリ

 

ー、看護士のアリス、富豪のリット、赤ちゃんを抱いたヒギンス夫人、黒人のジョ

 

ー、そして最後に救助されたのが、Uボートの乗員で連合軍に撃沈されたドイツ兵ウ

 

ィリー。 

 

 

 

 

ドイツ兵であるウィリーを巡り、それぞれ思惑はあるものの、民主的で人道的な扱い

 

をする事になります。 ヒギンス夫人が抱いていた赤ちゃんは亡くなり、悲観した夫人

 

は海に身投げして自殺してしまいます。  足を負傷していたガスの足は悪化し、壊死

 

する前に船上で切断する事に。

 

 

 

 

ドイツ語を喋れるコニーにより、ウィリーが軍人の前に医師だったという事実を知

 

り、彼がナイフで施術してガスの命を救います。 遭難をつづける救命艇は嵐に遭い、

 

食料と水の大半を失い危機的状況となってしまいます。 飢餓状態からうわ言を話すガ

 

スをこっそり救命艇から落とすウィリー。 皆、そんなウィリーの態度に不信感を抱き

 

始めるのでした、、。 

 

 

 

 

映画自体、当時としてかなり実験的な作りで、状況が海の上という事もある為か、音

 

楽は一切使われていません。 救命艇が嵐に遭う場面等の撮影は見事ですが、撮影の海

 

上場面等は全てクロマキー処理され、演者はスタジオの中で演技している為か、やや

 

臨場感には欠け、時間経過が不明で乗員達の疲労感が伝わりずらかったり、危機感

 

や、空腹感、枯渇感が、画面からはほとんど感じません。  

 

 

 

 

この極限での表現は、以前こちらで紹介した「人間」の方が生々しく感じます。この

 

辺りは人間自体を描くという遠藤兼人監督の作家性の違いも大きいのでしょうね。

 

製作されたのが戦時中という事もあり、プロパガンダ的な部分も少なからず感じま

 

す。ここに登場する個々のキャラクターが小さな社会を揶揄した役割をはたしている

 

ようにも見えます。 経営者、労働者、黒人、ジャーナリスト、子を持つ親、そして

 

軍人と、、。

 

 

 

 

この閉鎖された救命艇という空間で、民主的な世界とカオスを ヒッチコックなりにサ

 

スペンス映画というフォーマットに凝縮した作品ともとれます。真偽は別としてです

 

が、、。

 

 

 


一応物語のメインとなっているジャーナリストのコニーですが、前半で他の人達を、

 

やや下に見ていた彼女が、遭難によってカメラ、タイプライター、ストッキング、毛

 

皮、ブレスレットといった世俗的なモノを海上で失っていくごとに人間的になってい

 

く描写が興味深かったりしました。 カルティエのブレスレットの伏線と回収の上手

 

さたるや。 ウインク

 

 

 

 

ヒッチコック監督あるあるですが、コニー役のタルラー・バンクヘッドのワンショッ

 

トになると、画面に斜がかってより彼女がより美しく見えます。 生死の境を彷徨う救

 

命艇の船上なのですがね。 これがヒッチコックの美意識なのでありました。  キラキラ

 

ナチスを悪としながらも、ウィリーという人物の描写に善人なのか、悪人なのか(手

 

術でガスを救い、そのあと海に落して殺害) をあえて曖昧にしたのも、戦時下に生き

 

る人間の善悪の曖昧さを表しているようにも感じてしまいました。

 

 

 

 

 

「人間、苦しみ絶望にいる時は、どんな助言でも受け入れてしまう」という劇中のセ

 

リフにも、製作者の戦争と閉塞的思考への危惧への警鐘にもとれるのでした。その社

 

会の縮図ともいうべき救命艇の人達ですらも怒りに任せ、自分達の手を汚してしまう

 

という状況なのですから。

 

 

 

 

ラスト、ドイツの戦艦が連合軍に撃墜され、若いドイツ兵が救命艇に助けられます。 

 

銃を向ける兵士。 銃 その銃を振り落とす救命艇の乗員。「殺さないのか?」と聞

 

く若いドイツ兵。 「応急処置だけでも」と看護師のアリス。 「殺さないのか?」 

 

「同じ人間なのか?」 と自問する救命艇の人達 「分からん あの母子とガスを思い出

 

してた 、、」 「彼らだけが答えを知っているのよ。」 と、コニーが救命艇で亡くな

 

っていった人達の事を嘆いて幕を閉じます。 

 

 

 

 

ヒッチコックの作品の中でも、奥に潜むテーマは異色な作品と言えるかも知れません

 

善悪の判断とは如何に曖昧なものか、という事も考えさせられます。ミニマムな世界

 

で、多用な側面を覗かせる作品です。 ただ、現在観ると微妙な所も正直ありますが、

 

それでも普通にサスペンス映画として楽しめる作品かと思いますので、機会があれば

 

ご覧になってみて下さいませ、です。  目

 

では、また次回ですよ~!  パー