ヨーロッパの架空の国パンドリカでの雪国観光から、イギリスへの帰国途上の列車内で事件は起こる。 結婚前の最後の旅行を、友人二人と楽しむアメリカ人女性アイリス。そんなアイリスが知り合ったイギリス人の老女ミス・フロイが、突然車中から姿を消すが、乗客も乗務員も初めからそんな老女は見なかったと口を揃える。さらに、同乗していた医師は、ミス・フロイは実在せず、アイリスが頭を打った後遺症で記憶違いを起こしているのだと断定する。ミス・フロイの実在を信じるアイリスは乗客のギルバートと共に列車内でミス・フロイを探し始めるが、、。
こちらは1938年制作のイギリス映画 です。 (97分)
アルフレッド・ヒッチコックが、アメリカへ渡る2年前に製作されたモノクロによる
サスペンス映画で、ストーリーの大半は列車の中という密室で展開されます。
ヨーロッパのある国、雪崩によって出発が明日になった客でごった返す安ホテ
ル。その中に、帰国後すぐに結婚式を控えているアイリスがいました。 偶然隣の部屋
になった音楽教師の老婦人フロイと知り合います。 ホテルには他にもクリケット好き
なイギリス人の男性コンビ、弁護士カップル、陽気に騒ぐ作家ギルバートがいました
翌日、ロンドン行きの列車が到着し、アイリスはフロイと乗り込もうとしますが、上
列車に乗り込みますが、その衝撃で気絶してしまいます。 回復したアイリスは、同室
の席に居たフロイと食堂車へ向かいます。途中の席で弁護士カップルに出会い、食堂
車にはイギリス人コンビがいました。 席に着いたアイリスはフロイの持ち込んだ紅茶
を飲み、改めて自己紹介をしますが、列車の音で聞こえづらいフロイは自分の名前を
列車の窓に指で書いて伝えます。 ひとしきり会話した
二人は席に戻ります。 落ち着いたアイリスは眠りにつきますが、目覚めると前の席に
居たフロイの姿が見えません。 同室の乗客に聞いてもフロイという女性は居なかった
と言います。 アイリスはフロイの存在を信じ、列車の中を探し始めます。
そこにホテルに居合わせたギルバートと再会し、興味本位から彼も一緒に捜索する事
になりますが、偶然仕事で乗り込んでいたハーツ医師に状況を説明すると、頭を打っ
た後の後遺症による妄想だと言われてしまいます。アイリスは妄想を強く否定します
が、フロイを見たはずの他の乗客までも、そんな女性は見なかったと言うのでした。
といったお話で、ヒッチコックらしい伏線や小道具等を巧みに使って密室劇を楽しく
みせてくれます。 列車の窓に指で書いた文字というアイディアは、かなり後の 「フ
ライトプラン」 等にも引用されていましたね。 持ち込みの紅茶や、音楽教師という
気付かないようなものが伏線になっていたりして、流石の上手さです。
そして視覚的な仕掛けでも楽しませてくれます。 オープニングのミニチュア撮影や、
走る列車の複数の合成もなかなか凝っていて、迫力満点です。 中盤のマジシャンの
小道具を積んだ車中のアクション場面では、リバー・フェニックスの「インディージ
ョーンズ」を思い出してしまいました。それを見ているウサギが可愛かったですが、
映像だけでなく、登場人物それぞれの描写。そう証言するにはそれなりの理由がある
という所が、単純になりがちなミステリーをリアルで複雑なものにしています。
後半での止まった列車でのドンパチは、少々サスペンスらしくないという所もありま
したが、それもサービス精神なのかも知れませんね。
ラストでは肝心なものは謎のままですが、女心のタフさを見せられます。 婚約者には
可哀そうですが、物語を見て来た私達には納得してしまったりして、洒落たエンディ
ングになっているのではないでしょうか クリケットが見たくて急ぐイギリス人コ
ンビの男心への無情さと、 看護師なのにハイヒールを履いてしまう女心、、。
ヒッチコック作品らしく、サスペンスとコメディが絶妙なバランスでブレンドされ、
美しくて強い女性が活躍する作品です。 脚本も巧みに練られていて、飽きる事なくご
覧いただける上質なサスペンス映画ですので、機会があればご覧になってみて下さい
ませ、です。
では、また次回ですよ~!