貞子は夫の出張中、強盗に犯されてしまう。しかし翌日、出張から帰った夫に昨日の出来事を打ち明けることができなかった。二日後の夜、再び現れた強盗に乱暴されるが、自分はもうすぐ死ぬので優しくしてほしいと頼まれる。そして貞子は、強盗の子供を身ごもってしまう、、。

 

 

 

 

 

 

こちらは1964年制作の 日活映画 日本 です。 (150分)

 

藤原審爾の原作小説を、「復讐するは我にあり」 等の 今村昌平監督が映画化した本

 

作は、「重喜劇」 というなんともオリジナリティ溢れた表現による人間ドラマです。

 

 

 

 

 舞台は仙台。 貞子は大学の図書館に勤める小心者の夫、吏一と息子勝と暮らし

 

ていた。 家では吏一に威張り散らされ、姑の忠江には年がら年中叱られて、二人に女

 

中のように扱われていました。 ある日、吏一が出張中の晩、強盗目的の男が忍び込ん

 

できて貞子は強姦されてしまいます。男は平岡というバンドマンで、明け方まで居座

 

り帰っていきました。 

 

 

 

貞子は死のうと汽車に飛び込もうとしますが、死ねませんでした。 吏一に告白しよ

 

うとしますが、それも出来ない貞子、、。二日後、又も平岡がやって来て、犯されま

 

す。 肺病で自分はもうすぐ死ぬと言う平岡は貞子に愛情を求めます。 嫌々ながらも密

 

会を重ねるようになる貞子。  一方吏一は、彼に執着し妻の座を夢見る図書館勤めの

 

義子と長い関係がつづいていました。 

 

 

 

 

ある日、貞子と平岡が二人で居る所を見た義子は、吏一に告げ口をし、吏一は貞子に

 

疑惑の目を向け始めるのでした、、。   サーチ

 

 

 

 

とにかく本作は、THE今村ワールド全開の作品で、土着的でねっとりとした人間の

 

闇の部分がこれでもかという位に、じっとりといやらしく描かれています。 溝口や

 

黒澤、小津には描けない、正に今村昌平の映画を観ている事を実感します。

 

 

 

 

男性社会で男に虐げられている貞子ですが、吏一も平岡も最低な人間で、その上二人

 

共、今にも死にそうな病いを持ち、慰めと母性を貞子に求め、なんとか生きている

 

ような存在として描かれています。 

 

 

 

 

一方の貞子は無学でぼ~っとしているように見えて、編み物を学んだり、ちゃんと本

 

妻としての地位を確保したり、はたまた毒殺計画を画策したりと、場当たり的ながら

 

も成果をあげます。 後半で浮気の証拠を突き付けられても、のらりくらりとかわす辺

 

りの腹の据わった感じの度胸に女性の強さを感じます。女性のコミュニケーション、

 

コミュニティ能力の高さに男は敵わないのでした

 

 

 

 

映画は全編東北弁で、時にささやくようなセリフの為に聞き取りにくい部分もありま

 

すが反面、映像の力は息をのみます。 モノクロで撮られた本作は光と影のコントラス

 

トが強調され、時折奇跡的な美しさを見せます。 

 

 

 

 

アイロンの底に映った貞子の顔、暴行後の部屋を頭上から回転しながら写した様子、

 

映画「めまい」を超えた感のある貞子の落下イメージシーンなどはどう撮影したのか

 

と驚きます。

 

 

 

 

 雪の中を延々と歩く貞子と平岡の画などは浄瑠璃を連想させます。 そして圧巻だった

 

のが、駅のホームから汽車に乗り込み最後尾まで歩くワンカットのショットと、その

 

後の実際の汽車でのやりとり等、映像もかなり実験的で、それを観るだけでも価値が

 

ある素晴らしさです。

 

 

 

 

そしてこの貞子を演じる 春川 ますみの 肉々しさ、決してメリハリのある体型ではな

 

く、日本の母親的体型なのですが、これを今村昌平のいやらしいカメラが、じと~っ

 

と映し出すとなんとも不思議なエロスが発散されます。 吏一を演じる 西村晃のこれま

 

たいやらしさ、、、現在の俳優さんでは出せない ねっとり感が覆っています。 その

 

浮気相手義子のホラー並の行動力。 トンネル前での滑り落ちアクションと、その後の

 

顛末。 

 

 

 

 

他にも 露口茂、北林谷榮、宮口精二、殿山泰司、加藤嘉、と昭和臭満載です。

 

どんよりとした大人の世界を描いているのですが、時折それゆえに笑ってしまう場面

 

が多々あり、正に重喜劇という名にふさわしい映画です。そんなだらしない自己中な

 

男達と、家系と土着的風習といったものを全て抱擁するような貞子の体型と存在感、

 

空虚を見つめるような表情と「わたしってなんでこんなに不幸なんだろ」 という呟き

 

を吐きながら生きて行く女性の辛さとタフさを感じる作品です。

 

 

 

 

線路沿いに建つ家と、その前を走る列車のコントラストが貞子と同様、当時の多くの

 

女性を象徴しているように思えてならない本作。 

 

是非一度ご覧になってみて頂きたい日本映画の一本でございます、です。  目

 

では、またですよ~!。  パー