財政難に陥り、人心の荒むゴッサムシティに住む大道芸人のアーサー・フレックは、母ペニーの介護をしながら、自身もまた福祉センターでカウンセリングを受けながら毎日を過ごしていた。 彼は、発作的に笑い出すという病気を患っていた。 アーサーはコメディアンを目指していたが、なかなか機会に恵まれず、それどころか不良少年に仕事を邪魔されたことの責任を押し付けられるなど、報われない人生だった。 ある日アーサーは、大道芸人の派遣会社での同僚・ランドルから、護身用にと拳銃を借り受ける。だが小児病棟での仕事中にそれを落としてしまったことが原因で、会社を解雇される、、。

 

 

 

 

 

 

こちらは2019年制作の アメリカ映画です。 アメリカ (122分)

 

DCコミック 「バットマン」 に登場する悪役 ジョーカー 。 コミックでも触れられて

 

いないジョーカー誕生までの物語を描いた 映画オリジナルストーリー となる本作は、

 

アメコミ原作としては初の 第76回ヴェネツィア国際映画祭 でグランプリにあたる 

 

金獅子賞 を受賞した記念すべき作品です。 ベル

 

 

 

 

 本作は「バットマン」に登場する悪役 ジョーカーを描いたものではなく、あくま

 

で ゴッサムシティに暮らす アーサーというコメディアンを夢見る男の物語がメインと

 

なっています。  その為、アメコミ映画に思い入れや、キャラクター好きな方よりは、

 

私のようなコミック作品に消極的な方のほうが、この映画をご覧になるには向いてい

 

るかも知れません。

 

 

 

 

 

何故なら、この作品にはバットマンやヒーローは登場しませんし、かっこいいガシェ

 

ットはおろか、目立ったCGですらほぼ皆無です。 当然架空のお話ではあります

 

が、その世界が現在の私達の世界と地続きになっている事を強く印象付けるよう、リ

 

アルに作られています。

 

 

 

 

主人公のアーサーは、年老いた母親を介護しながら、店の宣伝等の大道芸で暮らして

 

います。 彼はいつかはコメディアンになる事を夢見ていますが、ストレス等によっ

 

て突発的に笑い出してしまうという精神的な疾患を患っていて、定期的にカウンセリ

 

ングを受けていました。 しかし町は財政難となり、貧富の差は激しくなる一方で、

 

アーサーが受けていたカウンセリングも閉鎖になり、安定剤も得られなくなってしま

 

います。 

 

 

 

 

そんな不安定な精神状態の中、偶然乗った地下鉄で友人から護身用にと渡された拳銃

 

で殺人事件を起こしてしまいます。ドンッ 銃  しかし、そこに罪悪感は起こらず、む

 

しろ自分の社会的存在感を確認するアーサー。 仕事上のトラブルで遂に職までも失

 

ってしまったアーサーはある臨界点を越えてしまうのでした、、。

 

 

 

 

本作のほとんどはアーサーの主観で進行していきます。 その為ほとんどのシーンに

 

アーサーが映され、彼の存在しない場面はほぼありません。 それによって映画を観

 

終わった後から妙な疑問が湧いてくる事になりますが、それは後半でお話するとして

 

とにかく言わずもがなですが、この作品のホアキン・フェニックスは見事に演じきっ

 

ておられました。 

 

 

 

 

このブログでも彼の作品の登場回数は多く、今更どうこうではないのですが、久々の

 

肉体改造を堪能出来ました。 「ビューティフル・デイ」 のクマのようなボッテリとし

 

たお腹は何処へやら、20kg以上の体重を落としてのデニーロアプローチは、単純に

 

画面からアーサーという人物の痛々しさが伝わる効果に見事成功しています。 ゲッソリ

 

その元祖デニーロとの共演で意図的でありますが、デニーロのオーラをホアキンが

 

吹き消している程です。 DASH!

 

 

 

 

作品をご覧になれば分かりますが、本作は 「タクシー・ドライバー」と「キング・オ

 

ブ・コメディ」 の2本から多くをインスパイアされた作品で、「タクシー・ドライバ

 

ー」の名シーンの一つでもある、自身の頭を指で撃ち抜こうとする仕草を重要な場面

 

で使用する等、多くの部分でオーバーラップする所が多くあります。 

 

 

 

 

トラヴィスは戦争によるPTSDで不眠症になり、英雄になれず社会にも認められな

 

い自分の欲求を、別の形で成就させようとします。本作のアーサーも同様に、低層階

 

級で暴力と差別の中でなんとか生きていましたが、社会はそんな彼に冷淡でした。 

 

 

 

 

様々な意味で社会生活から弾き出されたアーサーと彼の世界は暴走し、別の形で社会

 

にコミットするにまで至ります。それによって手段はどうであれ、自分がここに存在

 

しているという事を社会に認められた事で存在意義の欲求を満たします。キラキラ 「キン

 

グ・オブ・コメディ」はTVコメディアンになりたい男がその夢を実現する為に、フ

 

ァンであるTVコメディアンを誘拐して、1夜だけ彼のホスト番組を乗っ取って、儚

 

い夢を叶えるというお話です。 この中にもある架空の司会者と孤独なリハーサルご

 

っこをするという異様な光景を再現しています。 この両作に主演しているデニーロ

 

を逆の立場で出演させている所に笑ってしまう人も多くいるでしょうね。

 

 

 

 

そしてもう一つ大きな要素として 笑い があります。 作中印象的なシーンで、街中で

 

暴動が起きている最中、金持ちがタキシード姿で劇場で上映されているチャップリン

 

の映画を観て爆笑している場面です。 ここで上映されている作品が「モダン・タイ

 

ムス」で、機械化された工場で働くチャップリンが途中で発狂してしまうという作品

 

です。 

 

 

 

 

彼が多く演じた放浪者​​​というキャラクターは、言い換えればホームレスのような低所

 

得者の象徴で、その放浪者の姿を見て笑う金持ちという構図は、本作のアーサーから

 

ジョーカーへと変貌する歪みの根源を表しているようにも見えます。 そして「モダ

 

ン・タイムス」の映画で有名な曲はあの 「スマイル」 です。 音譜  なんとも意味深

 

で象徴的な事でしょう。

 

 

 

 

そういった様々な要素を混ぜ込みつつ、現在の世界の問題までもさりげなく描いてい

 

る本作ですが、意外にもバットマンとリンクさせる所もしっかりと押さえておりまし

 

て、バットマンの父であるトーマス・ウェインとアーサーの関係が描かれています。 

 

アーサーの出生の秘密に、もしやのトーマスが絡み、自身の出生を知ろうとすがるア

 

ーサーに暴力で突き放すトーマス。 この場面でアーサーの悲しみはピークに達する事

 

になります。 グー

 

 

 

 

そしてもう一つ印象深い場面に幼いブルース・ウェインとの出会いがあります。 見方

 

によっては鉄格子に見えるウェイン家の門を挟み、アーサーとブルースが対面します

 

アーサーは楽しませようと手品を披露しますが、それを見つけた屋敷の人間に「近づ

 

くな!」と追い払われる、これまた悲しい場面。 門を挟んだその構図は、豊かさと

 

貧しさ、正義と悪 の境界を比喩しているようにも見え、全ての世界は紙一重で表裏一

 

体に存在する事を象徴的に表した場面でもありました。 絶対的正義は悪にもなり得

 

るのでした。

 

 

 

そんな危ういバランスの上に本作は成り立っています。 見方によっては障害者差別

 

とも、暴力肯定とも言われかねない作品ですが、アーサーの人生を共に見て来た一観

 

客の私としては、アーサーに寄り添ってしまうのは致し方ありません。

 

 

 

 

そうそう、書き忘れる所でした。 この映画はある種の多重構造の様子も呈している事

 

に後から気付きました。 あのエンディングはその前のシーンとの繋がりが微妙にお

 

かしく感じられます。 もしや、これはアーサーの、、? ともとれるのです。 そんな

 

妄想を膨らませながら再構築したりする楽しみ方の余白もあるのでした。  

 

 

 

 

本作を観てしまうとジョーカーというキャラのイメージが変わってしまうという方も

 

いらっしゃるようですが、これは本作のみのお話です。 と、同時に悪しきお金儲け

 

風潮の続編などという作品が作られない事を切に願う珍しい映画です。  ウインク

 

 

 

 

このような多岐に渡った作品を、ほぼ一人で成立させ表現してしまったホアキンの演

 

技は正に見事です。 「人生は喜劇」 を体現したような、笑いながらもそれをこらえ

 

ようと咽び泣くアーサーの発作と、部屋で一人、痩せた身体をくねらせながら踊る彼

 

の異様な存在感が脳裏に焼き付く作品で、アカデミー授賞式の檀上で、オスカー像を

 

抱くアーサーを見るのが今から楽しみな私でした。 式典をキャンセルしなければの

 

話ですが、、。

 

 

 

 

今作はある意味で 「愛」 について描かれた作品です。 誰かに愛されていれば、誰か

 

と共感できれば、誰かに声が届いていれば、誰かを愛せていれば、、、 とどのつまり

 

彼もただの一人の人間なのですから。

 

 

 

 

映像はもとより、音楽も非常に素晴らしい効果を発揮している作品ですので、お時間

 

があれば劇場で是非ともご覧になってみて下さいませ、です。  目

 

 ~ 長文失礼いたしました。ってここまでご覧になる方がおられるか謎ですが、、。

 

では、また次回ですよ~!  パー