平安時代末期、農民を救うため将軍にたてついた平正氏が左遷された。 妻の玉木、娘の安寿と息子の厨子王は越後を旅している途中、人買いにだまされ離ればなれになってしまう。 玉木は佐渡に、安寿と厨子王は丹後の山椒大夫に奴隷として売られた。 きょうだいはそれから十年もの間、奴隷としての生活を続けるが、ついに意を決して逃げ出すことにする。 しかし追っ手に迫られ、安寿は厨子王を逃すため池に身を投げるのだった、、。
こちらは1954年制作の 大映映画 です。 (124分)
第15回 ヴェネツィア国際映画祭 で、「七人の侍」 と並び、銀獅子賞 を受賞してい
ます。日本の中世の芸能だった説経節 (民衆芸能)の 「五説経」 と呼ばれた有名な
演目 (無知な私には、はてさてです) の一つ 「さんせう太夫」 を原話に 1915年
(大正4年)に森鴎外が執筆した 「山椒大夫」 を映画化したもので、以前ご紹介した
森鴎外 名前は聞いた事がありますが、一冊たりとも読んだ事のない近寄りがたいお名
前。 安寿と厨子王 という名称は聞いた事がありましたが、このお話だったのか!と
いう感覚。
ですから、森鴎外が書いたものに 溝口アレンジが施されている本作が、私
の 「山椒太夫」 になります。 歴史が ( だけではありませんが、) 苦手な私は、ま
ず時代設定から理解しなければならないという課題がありました。 「近松物語」 もで
お話をより簡単に要約すると、身分のあった父親が農民の為に上司にたてつき
左遷 その妻と子供は父親の後を追い旅に出ますが、途中で人買いに騙され母親は
遊女屋へ、兄妹は労働力として 山椒太夫の所へ売り飛ばされてしまい、親子は離れば
なれになってしまうのでありました。
映画は 山椒太夫に売られた兄妹を中心に描かれ、親を慕う子供。子供を思う母親。
という引き離された 家族の前に立ちはだかる試練 と、それを乗り越える 苦悩の愛 の
強さが描かれています。
時代は古く、映画も昔のものではありますが、テーマはいつの時代になっても古びる
事がないもので、どこの国の人が観ても未だに感動させる力のある映画です。
その力を、より強固にしているのが 宮川 一夫の写す、映像の 日本的な美意識 があり
ます。水墨画のような濃淡のモノクロ映像で映された自然の情景も美しいのですが、
意外と本作でも編集する事なく、この時代においても長回しのカメラが縦横無尽に移
現在の視点で観ると、内容の割に感情的な演技が抑え気味にも感じますが、あれ以上
いくと西洋的で臭くなってしまい、あの表現が日本的な、絶妙の塩梅なのでしょうね
出演は 花柳 喜章、(こちらは存じませんでした) 田中 絹代、香川 京子、( このお
二人は溝口健二、小津安二郎、黒澤明 といった方々の作品に出演されていらっしゃる
凄い方々 ) 少年期の厨子王を、津川雅彦が演じていたのには驚きましたが、、。
前半で、父が幼い厨子王に言って聞かせる言葉。
「 人は慈悲の心を失っては人ではないぞ。 己を責めても情けをかけろ。 人は等しく
この世に生まれて来たものだ、幸せに隔てがあってよいはずがない。」 今でも響く
言葉です。
音楽、衣装、装飾や、人物の 所作まで気を抜いていない感が伝わってくる映画で、タ
イトルこそとっつきにくい作品ですが、現在こそ観るべき 奥深い日本映画 ですので、
機会があれば、ご覧になってみて下さいませ、です。
では、また次回ですよ~!