生活のために平然と殺人・強盗・強姦を繰り返すひとりの男の奇妙な日常を、彼を主人公とするドキュメンタリー映画の撮影クルーが追うという設定で描いた異色の犯罪映画

 

 

 

 

 

 

 -  C'EST ARRIVE PRES DE CHEZ VOUS  -   

    監督 レミー・ベルヴォー、アンドレ・ボンゼル、ブノワ・ポールヴールド

 

 出演 ブノワ・ポールヴールド、レミー・ベルヴォー、アンドレ・ボンゼル 他

 

こちらは1992年制作の ベルギー映画 ベルギー国旗 です(96分)

 

 

 

 

 殺人鬼ベンのドキュメンタリー映画を製作するため、監督のレミー、カメラマンのアンドレ、録音技師のパトリックの3人は、ベンが人を殺していく日常に寄り添います。 ベンはどのような人間を殺せば効率が良いかをカメラに向かって説明しながら、淡々と殺人を重ねていきます。 やがてその狂気に影響された撮影スタッフの3人も、ベンの犯罪に加担するようになりますが、モラルを失った彼らに思わぬ事態が訪れ、、、

 

 

 

 

まるで、私の好きな作家 星新一 の小説のようなタイトルの本作は、モノクロの16mmフィルムで撮影されたような、独特なフィルム映像の粗さが本作の魅力の一つでもあります。 そして本作は、最近ではお馴染みとなった モキュメンタリー映画のスタイルで作られ、その内容と素人臭い映像スタイルが合致して、殺人鬼を映したドキュメント作品という設定をリアルなものにしています。 あのモキュメンタリー映画として脚光を浴びた 「ブレアウィッチ・プロジェクト」 が1999年ですから、公開当時としてはなかなか斬新な映画で、本作をドキュメンタリー映画だと勘違いした人もいたかも知れません、、。

 

 

 

 

映画の物語は、強盗を生業とした男 ベン を主人公にした、ドキュメンタリー映画を作ろうと考えたクルー達が、ベンの日常を追いつつ、彼の仕事 (殺人強盗) をそのまま撮影して行くというものです。 よくよく考えれば、そんなものを撮影しても上映出来ないだろう!とツッコミたくもなりますが、何故か映画を見ていくと、これも有りかな?と思えてしまう不思議な生々しさと説得力があります。  

 

 

 

 

その多くは主人公であるベンの特異なキャラクターからくる所が大きく、極悪非道でありながらも、どこか憎みきれないロクデナシ的な人を引きつける魅力を持っているのです。そんな普通に見えるベンですが、その日のお金欲しさの為に日常の延長のような態度で、いとも簡単に殺人を犯していきます。 ターゲットを選ばず、老人や女性、時に犯行現場に居合わせた子供までも手にかける鬼畜ぶり。 良心の欠片も無く、無感情にやってのけるのです。 そのくせ家族や、親しい友人には優しい態度や言葉を掛けたりするという恐ろしさ。 カメラを前に良く喋り、それなりの教養もあったり、時にはピアノを弾いたり、詩を読んだりもする、つかみ所のない男

 

 

 

 

そんなベンに同行していた時に、撮影クルーが身代わりに銃撃されて死んでしまいます仲間はそれにショックを受けますが、ベンと食事やお酒を飲んでいるうちに、撮影クルー達も徐々にベンに感化されてゆき、殺人の片棒を担いだりするようになって行くのです。ある件でミスをしたベンは警察に捕まりますが、脱獄を計りクルー達と合流 恋人の元へ向かいますが無残な姿で殺されていました。 実家でも同じように母親が酷い状態で殺されていました。 そんな身内の無残な死には涙を流するベン。 

 

 

 

 

何処かの組織の復讐で、ベン自身が狙われている事を悟り、クルー共々、一旦隠れ家に身をひそめるベンでしたが、その行動は見限られていたのでありました、、。 スプラッターホラー映画程のえぐいシーンこそありませんが、殺人という恐ろしい行為に対してあまりにも無感情で無慈悲なベンの行動を見ると、こちらの感覚までも侵食されいつの間にか私達と同じ日常と繋がっているようなリアリティーを感じてしまいます。 

 

 

 

 

特にインパクトが強いのが、女性をレイプ (クルーもこの時点ではノリノリです) した後の、騒然たる現場のショット。  一人暮らしの老女を、いとも容易く殺す乾いたライブ感。 そして幼い子供を窒息させて殺す場面の残虐性は、映画を越えた嫌悪感を懐かせます。そこには正に、同じ人間の生々しい狂気が映されているのでした。長回しのカメラと、劇中音だけで本編にはBGMは流れません。 それが余計この作品のドキュメント性を際立たせています。  ただのサイコな殺人鬼を描き、インパクトだけで勝負した作品、というだけでは無い、真の暴力と人間の残酷性を描き出した作者の恐怖にも似たメッセージを感じさせる映画でもあります。 

 

 

 

 

当時のベルギーという国の時代的、社会的、な空気は私には知り得ませんが、このような 「異物感」 を生み出す空気のような、何かが存在した瞬間だったのかも知れません。決して観て楽しい映画ではありませんし、何かを得るような作品でもありません ただこのカルト的な映画に漂う、何か他にない、得体の知れないパワーと感性は感じられる映画だと思いますので、少数でしょうが、興味が湧きましたら一度ご覧になってみてはいかがでしょうか?

 

では、また次回ですよ~! パー

 

 

 

 

 

 

 

映画のオープニングシーンです この映画には劇中音楽以外流れないのでした