オーストリアの実在の殺人犯、ヴェルナー・クニーシェックが1980年に起こした殺人事件を題材に描いた猟奇映画。

 

 

 

 

 

 

    -  ANGST  - 監督 ゲラルト・カーグル 音楽 クラウス・シュルツェ

 

  出演 アーヴィン・リーダー、ズィルビア・ライダー、イーデット・ロセット 他

 

こちらは1983年制作の オーストリア  映画です。(87分)

 

 


 

  刑務所から保釈されていた殺人犯・Kは、相手の目に映る恐怖心が見たい、という欲望に駆り立てられ、殺人の衝動に突き動かされていた。 食堂に立ち寄った彼は、カウンター席に座っていた2人の少女を襲おうとするも、公共の場ではそれができずにいた。 タクシーを拾った彼は運転手の女性を殺そうとするが、彼女が不振に思って車を止めると逃げ出した。 その最中にある屋敷を見つけた彼は、そこに侵入する。

 

 

 

 

屋敷には、母、息子、娘が暮らしており、息子は車椅子で生活していた。 母と娘が帰宅すると、Kは一家を襲撃した。 母と娘の身体を縛り、娘の口にテープを貼って口が利けないようにした。 Kは息子の身体を屋敷の2階にある浴室に引き摺っていき、息子の頭を浴槽の中に沈めて溺死させた。 階下に戻ると、母は死にかけていた。 母に薬を与えるよう娘は懇願し、Kはその通りにしたが、自分が殺そうとする前に母が事切れると激怒した。

 

 

 

 

娘が逃げようとしているのに気付いたKは彼女を追いかけ刃物で刺して殺害し、彼女の身体から出た血を飲み、直後に彼女の身体に向けて嘔吐した。 翌朝、彼女の身体のそばで目覚めたKは、一家が所有していた車のトランクの中に一家の遺体を詰め込んだ。  新たに犠牲者となる相手に遺体を見せ付けることで戦慄させようと考えた彼は、一家が飼っていた犬を車の助手席に座らせた。

 

 

 

 

半狂乱状態で車を走らせたKは別の車に追突し、数人がこの場面を目撃したがそのまま逃走。 以前に立ち寄った食堂に入った彼は犬に餌を与えようとするが、車の登録番号を書き留めた警察から尋問を受ける。 彼は車のトランクを開け、中に入っていた遺体を周囲の人々に見せ付けるのだった、、。

 

 

 

 

本作はオーストリアで終身刑を言い渡された実在の人物 ヴェルナー・クニーシェックが仮釈放中に起こした一家3人を拷問後に全員殺害したというアルトライター一家惨殺事件を映画化した作品で、約8年の刑期を終え予定されていた釈放の1ヵ月前、就職先を探すために3日間のみ外出を許された際に及んだ凶行を描いています。

 

 

 

 

映画の為の脚色がされてはいますが、事実は映画で描かれているよりも残酷なもので、最後に残された娘においては7時間以上の残酷な拷問の末に刺殺されたとあり、映画では登場しないネコまでも殺していたようです。 日本ではあまり知られていない事件ですが、オーストリアではかなり知られた悲惨な事件という事もあってか、公開から間もなくヨーロッパ全土で上映禁止になっていて、ソフト化される2012年まで一般的に日の目をみる事のなかった作品です。

 

 

 

 

映画冒頭、主人公のKが挙動不審な表情で住宅地を歩く上半身のショットから始まります。 それはまるでPOVカメラで撮影されているように、Kの身体の振動がそのまま伝わってくるような独特な動きを見せ、彼の興奮と観客の不安がリンクしているような錯覚を覚えます。 そして目に留まった家を訪れ、持っていた拳銃で老婆を撃ちます。 盗みが目的ではなく、これといった目的もない凶行で自身にも理由が分からないというのです。

 

 

 

 

その事件によって8年間刑務所に入り、仮釈放の準備の為3日間だけ刑務所から出される事になります。 驚くのがこれを待ち、計画していたように、何のためらいもなく犯行に及ぶKの行動力です。 8年を無駄にしたと考えながらも、そうせずにはいられないという抑制できない衝動とその強さはやはり常識を逸しています。 その背景には複雑な家庭環境や虐待がある事が精神科医のナレーションで説明されますが、それだけでは理解出来ないKの狂気が画面から伝わってきます。

 

 

 

 

そして以前のように何となく目に留まった家へ侵入し、自身の欲求を満たすように3人を斬殺していくのですが、この殺人場面がかなり場当たり的なもので、他のシリアルキラーを題材にした映画とは比べ物にならない程のグダグダ感で、犯行の一部始終を見せつけられます。 

 

 

 

 

全くスタイリッシュではない殺し方と体力勝負の過程が、ある意味紛れもない人を殺すという行為の生々しさと、Kの殺人に対する執拗性を嫌でも感じてしまうのです。 そんなKの姿を頭上の俯瞰カメラで捉え、まるで天界に居る神が罪深い人間の行いを傍観しているような、独特な視点で映しているのが印象深く、不気味で緊張感のある音楽と共に脳裏に焼き付く不気味さです。

 

 

 

 

結局の所Kという人間が何故このような犯行に及んだのかという答えは、自身の欲望に支配されたKがそれに突き動かされ、その欲求に従った為で、そうする以外Kに選択肢はなかったという、他人だけでなく、彼自身にも理解出来ない衝動から逃れられなかったのでしょうね。 それがどこから生まれたのかが最も重要なのですが、、。

 

 

 

 

大きな悲鳴やサスペンスフルな駆け引き等、エンターテインメント作品に慣れた観客には少々退屈な作品かも知れませんが、実録モノの生々しさを体感するには丁度良い気味悪さのある作品だと思います。 特に主人公を演じるアーヴィン・リーダーの表情とその存在感はかなりのインパクトです。 彼の顔面と味気ないソーセージだけの食事、そしてワンちゃんが印象深く残る映画でございました。 興味がありましたらご覧になってみて下さいませ、です。

 

では、また次回ですよ~! パー