終戦直後の呉 復員後遊び人の群れに身を投じていた広能昌三は、その度胸と気っぷの良さが山守組々長・山守義雄の目にとまり、山守組の身内となった 当時の呉には土居組、上田組など四つの主要な組があったが、山守組はまだ微々たる勢力にしかすぎなかった そこで山守は上田組と手を結ぶことに成功し、当面の敵、土居組との抗争に全力を注ぐ その土居組では組長の土居清と若頭・若杉が仲が悪く、事あるごとに対立し、とうとう若杉は破門されてしまった そして、若杉は以前からの知り合いである広能を通じて山守組へと接近していった、、、。
こちらは1972年制作の 東映映画 です(99分)
確かレンタルビデオ時代だったか、一度観てはいたのですが、正直その時は年齢的な
事もあってなのか、はたまた 当時は日本のヤクザ映画なんて、、、と思ってちゃんと
観ていなかった事に気付きまして、今回はDVDで鑑賞してみる事に致しました
そもそも、この映画を ちゃんと 観てみようと思ったのは、「キネマ旬報の2009年
の邦画部門オールタイムベスト映画遺産200」 で、5位 に選出されたという記事を
見たからです。多分、これには批評家の世代交代が大きく関係している所も大きいの
かな?とも思います。 私が中学生位の頃だったら、ベスト20位にも入っていなか
ったのではないでしょうか
海外の監督、特にタランティーノ 他の評価も影響している感も否めないですな~
当時、よく見かけた洋画ベストでよく憶えているのが、「天井桟敷の人々」や「市民
ケーン」「風と共に去りぬ」という 高級な作品が上位を占めていて、評論家の方々も
インテリが多かった時代でありました 逆に今のベスト10等を見るのも怖い気がし
ますが、、、という訳で、「仁義なき戦い」 であります 説明はもう必要も
ないと思いますが
美能幸三 が網走刑務所で書き綴った手記を基に、飯干晃一 が書き下ろした ノン
フィクション が原作となっています 監督は本シリーズで名を馳せた 深作欣二 です
原爆のキノコ雲のタイトルバックから始まる本作 アメリカの強大な暴力の焼け
跡からしばらく経った、昭和24年 無秩序の広島県呉市 すでに勢力を拡大していた
土居組組長 土居清、若頭 若杉、をはじめ 愚連隊の上田、闇市で商売をする矢野、槙
原、新開、神原、坂井 ら 土建屋山守組の若衆など、新しい暴力の火種がくすぶってい
ました
復員兵の広能昌三は、親友の山方新一に怪我を負わせた喧嘩相手を、自ら名乗り
を上げて射殺し刑務所に収監されます 広能は、同じく収監されていた 若杉と刑務所
内で、義兄弟の血の盃を交わします 広能は、先に出所した兄貴分若杉の計らいで、保
釈金を支払った土建屋山守組の山守と土居親分に出向えられ出所、山守を親分とした
博徒山守組の立ち上げに伴い、矢野、槙原、新開、神原、坂井、山方らと共に盃を受
けて山守組の組員となります (こう書いていると、人間関係がややこしいですが、
映像ではまだ分かりやすいと思います)
極道者となった広能でありますが、組同士の利権争いや抗争、仲間の裏切り、そ
して兄貴分と慕っていた 若杉の死 という出来事によって、つくづく 組 や 極道 とい
うものに わだかまりを感じ、一人組を抜けます 若い頃から仲間だった 坂井が、自ら
の勢力を広げる中、広能も標的となる中、亡くなった仲間の妻の下へ、線香をあげに
訪れます しかしその妻の家に、帰って来た坂井に出くわします 広能は坂井に
「鉄ちゃん!」 と呼びかけます その坂井の手には子供への土産が、、、妻を愛人にし
ている坂井でした 派手な喧嘩や抗争場面のない、静かな二人だけのこのシーンが、
私は特にお気に入りです それは今の立場と、昔の仲間が交錯する、人間臭い場面
で、大きな夢を語り一緒にやらんか? と広能を誘う坂井と、もうこの世界から嫌気が
さした、広能の対比が興味深いのであります。
広能が内ポケットに手を入れる仕草に、慌て叫ぶ坂井に、冷静に 「座ってくれや わし
まで信用出来んようになっちょるんか、、、」 と、取り出したタバコに火を点ける広
能 「互いに殺し合う為に組に入った訳じゃないはずだ 死んだ者は帰って来な
い」 と、親分と和解を促す広能でしたが、逆に造反に走る坂井でありました
義理と仁義を重んじる広能は、自らの意志で坂井の下へ、殺されるつもりで向かいま
す あっけなく捕まり、坂井と部下の乗る車で拉致されます その車中で坂井が広能
に 「昌三わしら何処で道を間違えたんかのう?」と訊ねます 坂井にも、迷いと後悔が
ある事がうかがえる場面です そしておもむろに車を止め、「好きな所で降りろ 勝
負はこの次に着けよう」と拳銃を広能に返し、自分はさっさと車を降りる坂井 残さ
れた二人だけの緊迫した友情場面になっています 車を降りた坂井は一人、商店街の
おもちゃ屋へと入って行きます子供への土産を見る坂井の背後から銃声が響き、坂井
も亡くなります
最後、坂井の葬儀に、広能が単身訪れ 「鉄ちゃん こんな事をしてもろて満足か?」
と遺影に語り掛けます 「満足じゃなかろうが ん? わしも同んなじじゃ」 と言って祭
壇に銃弾を撃ち込みます それを見た元親分の山守は 「昌三 お前は腹をくくった上
でやっとるんか!」 と叱咤しますが、広能はこう呟きます 「山守さん 弾はまだ残っ
とるがよ」 と言い去って行きます、、、 そしてエンドロールもなく赤字で 終 と画
面に出て終了 という昭和感。 99分という上映時間ですが、これでも かなり端折っ
て端折って書いても全然足りない内容で、登場人物や、関係性がかなり入り組んでい
ます その上、人物名等は変更されているものの、ほぼ実録というのも凄いのでして
本作製作中に次作の製作も決定したようです。
とにかく、昭和世代にはたまらない出演者の数々で、ざっとご紹介すると、主演に 菅
原文太、松方弘樹、梅宮辰夫、金子信雄、田中邦衛、渡瀬恒彦、伊吹吾郎、川谷拓三
志賀勝、ナレーションに小池朝雄というメンツであります 当時の役者さんのギラギ
ラしたものが、様々に化学反応を起こし、作品に不思議な生命感を生み出しています
指を詰める場面のドタバタした感じや、出入りでの組員のやり取り、何かというと泣
く親分等ユーモラスな場面もあり、人間臭さを感じる所も多々あります そして本作
を独特な作品としている大きな要因に、広島弁の独特のイントネーションと言葉使い
があります これがそれまでのヤクザ映画と大きく異なり、その後のヤクザ映画にも
多大な影響を与えています
最後に広能が発するセリフを含め、名台詞も多く登場して、広島弁のシェイクスピア
のようです 技術的には手持ちカメラを多用し、切迫した混沌感を生み出してい
ます 写真や、ナレーションによる場面の編集と、説明 多数の登場人物による群像劇
を、分かりやすくすると共に、実録もの映画という作品にリアリティを持たせる効果
も発揮しています。そして、とにかく 広能 を演じる 菅原文太 が、ずば抜けてメチャ
メチャカッコイイのでございます 本作に出ている俳優さんは、皆ギラギラとしてお
ります 「北の国から」 の五郎さんのイメージが強い田中邦衛 が、もぉ~嫌な男を演
じているのも新鮮でありました
昭和臭プンプン香る男達の世界で 女性はちょっと敬遠してしまいそうですが、戦
後のダークサイドを生きた、男達の群像劇としてご覧頂くと楽しめる作品となってお
ります 私自身、この後の作品も観たくなっておりますが、、、とりあえず本作一本
の完成品として楽しむ事が出来ましたので、この機会に本作だけでもご覧になってみ
て下さいませ です。
では、また次回ですよ~!
テレビでも多様される、日本映画音楽の代表作の一つでござります