時は戦国 南北朝時代、戦乱により男手を失い餓えた二人の女(姑と嫁)は、殺した落武者から武具を奪って売りさばくことで糊口をしのいでいた。嫁は、戦場から戻った若い男と逢引を重ねるようになり、嫁を失うことを怖れた姑は仏の罰が当たると嫁を脅すが効き目がない。姑は鬼の面をつけた敗将を殺して鬼面を奪い、夜な夜な逢引に出かける嫁を待ち伏せ、鬼に化けて脅しはじめる。ある嵐の夜、鬼の面をつけた姑に異変が起こる、、。
こちらは1964年制作の 近代映画協会 作品です。 (103分)
新藤兼人 監督 脚本 で、乙羽信子 吉村実子 佐藤慶 殿山奏司 宇野重吉 他の出演
で、ストーリーは、ほぼ 乙羽、吉村 の姑と嫁 そして戦場から逃げ出してきた 八の
三人の愛憎のドラマがメインに描かれます。
頻繁に 戦 が起こり、過疎の農村の男も戦地へと駆り出せれる時代。
息子も戦に出たまま帰りを待つ 母親と嫁 二人は生きる為に、落ち武者を襲い 刀や
鎧を剥ぎ取って食料と交換しては、何とか生きているような生活を送っていました
ある日、息子と戦へ出た 八 が帰って来ますが、息子は戦で命を落としたと告げられま
す。 日が経つにつれ 八 は若い嫁に言い寄り始めます 最初は拒んでいた嫁だったの
ですが淋しさもあってか、八 と関係を結ぶようになり、夜な夜な出かけて行くように
なります。
嫁を取られては一人で生活が出来なくなると心配した 姑 は、八 に 色仕掛けで迫るの
ですが、相手にされません 姑は嫁に 不貞をした者は地獄で罰を受けると諭します
が、愛欲に溺れた二人にはそんな声も届きません。
そんなある夜、一人で家に居た姑の前に 般若の面を付け、鎧を着た武士が現われ京
まで行く道案内をしてくれと頼まれるのですが、、、というお話です。
ザックリとしたストーリーラインのご紹介でありますが、日本よりも海外での評価が
高い作品です。 この作品の根底には、監督の 仏教説話 が元にあるようで、人の一生
は苦であり、永遠に続く輪廻の中で終わりなく苦しむことになる。 その苦しみから抜
け出すことが解脱で、ある。 生前に良い行いを続け功徳を積めば次の輪廻では良き境
遇(善趣)に生まれ変わり、悪業を積めば苦しい境遇(悪趣)に生まれ変わる とい
うものです
とは言っても、劇中にそのような難しく高尚な表現はなく、今作のジャンルを ホラー
映画と紹介している所もある位です。 確かに人間の行いが過剰に行き過ぎるとホラ
ー になってしまう部分は確かにありますが、、、
そういった人間の善と悪を強く印象付けるかのように、本作はモノクロで撮られてい
ます
強めの照明が生む光と影のコントラストによって人物の表情が強調され、人間の内面
の恐ろしさがより露わに画面に映されています。
主演の 乙羽信子 さんも私達のイメージにある良き母親とは真逆の強烈なキャラクター
に変貌していて、嫁役の吉村実子 とのヌード共演とも相まって、老いと若さを身体で
対比させるという、残酷な荒業にも挑戦されています。 その間に入る 佐藤慶 と 殿
山奏司は、相変わらず男のいやらしさ満々のギラギラした演技を見せてくれます。
そして、私個人が主役と思っている ススキの原 これがたまらなく美しく、ま
るで意識を持っているように風にうねり、見ようによっては、まるで戦国の戦という
風に右往左往させられる民衆のようにも見えて、なんとも言えない自然の強さと儚さ
を感じさせます。
その中をさまよい歩く野武士や、八のもとへ向かう嫁にまとわりつく ススキの草陰。
それを払いのけながら人が進んで行くさまは、あたかもかよわい人間の人生そのもの
を見せられているようで、その映像だけで何か考えさせられてしまうような美しさが
あります。
ラストは、今までの業による 因果応報 という形で幕を閉じることになるのですが、
人間が生きる為に行う 食、性、欲 、罪 を ミニマムな日本文化の世界で、生々しく
描いた無類の作品だと思いますので、機会がありましたらご覧になってみて下さい
ませです
では、また次回ですよ~!