事業譲渡 法令上の規制 注意事項 | 資金繰り 事業再生 M&Aアーク司法書士法人@代表社員 李 永鍋(リ ヨンファ)のブログ
3 法令上の規制について
(1) 手続に関する規制
株式会社が事業譲渡を行う場合、原則として株主総会の特別決議がないと効力が発生しません(会社法467条1項1~3号、309条2項11号)。

後の紛争を回避するために、契約書には、これら法令上の規制があることを確認し、各種手続を遅滞なく実施すること保証する条項を定めます。

(2) 競業避止義務について
会社法によれば、会社間で事業譲渡が行われた場合、事業の譲渡会社は、同一および隣接する市町村の区域内で、20年間同一の事業を行うことができません(競業避止義務。会社法21条1項)。

この規定は、当事者間に特段の意思表示がない場合の規制です。当事者間で競業避止義務を負う旨の特約をした場合には、30年間その効力が存続します(会社法21条2項)。

当事者が合意する場合には、競業避止義務を負わない旨を約することも可能です。
競業避止義務を負うか否か、負うとしてもその期間はどの程度かについては、当事者の合意の有無によって変わります。したがって、競業避止義務に関する規定は必ず定めた方がいいです。

4 従業員の取扱いについて
従業員の取扱い方法は、「雇用契約に基づく使用者たる地位」を譲受会社に承継させるかによって異なります。

① 譲受会社に承継させる場合
法律上、契約上の地位の移転は、いわば権利義務をまとめて移転するようなものなので、原則として当事者の合意があれば移転すると解されています。
「雇用契約に基づく使用者たる地位」も、事業譲渡を行う当時会社の合意内容の問題とも言えます。もっとも、会社が変われば労働条件・環境等も変化しますから、従業員としては、突然「明日から君は○○社の社員だから」と勝手に決められたのでは困ります。したがって、「雇用契約に基づく使用者たる地位」を移転する場合には、対象となる従業員の同意を得なければならないこととされています(会社法625条1項)。

契約書には、譲受会社での従業員の処遇に関する事項を定めた上で、事業譲渡の効力発生日までに従業員の同意を取り付ける等の事項を定めておきます。

実務では、上記の方法とは異なり、従業員に譲渡会社を退職してもらい、譲受会社が新たに雇用し直すという方法が採られることがあります。

このような場合にも、従業員が退職について同意し、譲受会社に雇用されることについて承諾することを要します。契約書には、退職+再雇用という形式になる旨と、譲渡会社が従業員の承諾を得るために協力する旨を定めておきます。

退職となると未払い賃金や退職金の支払いの処理の問題が、再雇用となると労働条件等の処遇に関する問題が生じます。これらの事項についても、あらかじめ契約書に定めておきます。

② 譲受会社に承継させない場合
譲渡会社に従業員の籍を残す方法です。
この場合でも、「出向」というかたちで、従業員を従前の事業に従事させることがあります。従業員に出向を命じる場合には、出向命令権の濫用にならないように配慮しなければなりません(労働契約法14条)。契約書にも、従業員の処遇に配慮した取扱い方法を記載しておきます。

譲渡会社の解雇等で処理する場合もあります。この場合に、少なくとも事業譲渡契約を締結する上では、法律上、問題になることはありません。
譲受会社が、譲渡会社の紛争に巻き込まれないようにするために、「雇用関係を承継しない」「従業員の雇用契約に関する一切の権利義務を承継しない」といった合意内容を確認する規定を定めておきます。