翌朝、テオは寝不足気味の頭でぼんやりと目覚めた。昨夜、勇気を出してサラのnoteにコメントしたことへの後悔と、わずかな期待が入り混じった複雑な感情が、胸の中に渦巻いている。
(まさか、返信なんてないよな…生徒会長だし、忙しいだろうし…)
そう思いながらも、テオは朝の支度を済ませ、学校へ向かう電車の中で、無意識のうちにスマホを取り出していた。恐る恐るnoteアプリを開くと、通知アイコンに小さな赤い数字が表示されている。
(え…?)
心臓がドキドキしながら通知を開くと、そこには「@sara_shishoさんがあなたのコメントに「スキ」しました」という文字と、「ありがとうございます!」という短い返信があった。
テオは思わず息を呑んだ。生徒会長のサラが、自分のコメントにスキをして、しかも返信までくれた! まるで夢を見ているようだった。
(マジか…!)
小さな承認だったけれど、それはテオにとって、これまで感じたことのない喜びだった。自分の言葉が、誰かに届いた。自分の書いたものが、少しでも誰かの心を動かしたのかもしれない。そんなささやかな事実に、テオの胸は熱くなった。
その日一日、テオはどこか上の空だった。授業中も、休み時間も、昨夜のサラの返信が頭から離れない。ヤマさんの退屈な古文の授業も、今日はなんだかいつもより短く感じられた。
放課後、テオが下駄箱で靴を履き替えていると、背後から声をかけられた。
「あの、昨日のコメント、ありがとうございました」
振り返ると、そこに立っていたのはサラだった。いつもの凛とした雰囲気はそのままに、昨夜のオンラインでのやり取りを知っているせいか、テオにはどこか親近感のある笑顔に見えた。
「あ…いえ、こちらこそ、面白い記事をありがとうございました」
緊張で声が裏返りそうになるのを必死で抑えながら、テオは答えた。
「そう言っていただけて、嬉しいです。実は、私もテオさんの書く文章、たまに拝見しているんですよ」
サラの予期せぬ言葉に、テオは完全にフリーズした。自分の書いた、誰に見せるでもない秘密の落書きのような文章を、あの生徒会長が読んでいるなんて…。
顔がみるみる赤くなるのを感じた。恥ずかしいやら、信じられないやらで、頭の中が真っ白になった。
「え…あ、ほんとに…? あんな、ただの思いつきみたいなやつなんですけど…」
「いいえ、テオさんの視点は面白いと思います。日常の何気ないことを、独特な言葉で表現されていて…」
サラはそう言って、少し微笑んだ。その笑顔は、昼休みに垣間見た真剣な表情とはまた違い、年相応の、可愛らしいものだった。
「あの…もしよかったら、今度、noteのこととか、色々話しませんか?」
勇気を振り絞って、テオはそう言ってみた。まさかサラと個人的な話をする日が来るなんて、想像もしていなかった。
サラは少し考えてから、にっこりと頷いた。「ええ、ぜひ。私も、誰かとnoteの話をしてみたかったんです」
こうして、テオの孤独な夜に生まれた小さな承認欲求は、思いがけない形で、生徒会長サラとの現実の繋がりへと発展していくことになった。それは、テオにとって、灰色だった日常が少しずつ色づき始める、小さなけれど確かな一歩だった。