シャーペンがカリカリとノートを引っ掻く音だけが、気だるい午後の自室に響いている。机の上には開かれた参考書が無造作に置かれ、蛍光ペンで引かれたアンダーラインが、まるで諦めにも似た主張を繰り返しているようだ。窓の外ではセミの声が容赦なく降り注ぎ、ただでさえ重いテオの頭をさらに締め付ける。
「ああ、もうマジ無理…」
小さく呟きながら、テオはシャーペンを放り出した。代わりに手に取ったのは、いつも肌身離さず持っているスマホ。イヤホンを耳に突っ込めば、たちまち世界はテオだけのものになる。お気に入りのロックバンドのギターサウンドが、頭の中で渦巻く鬱屈とした感情をかき消してくれる。
画面をスクロールする指先は、無意識のうちにSNSのタイムラインを彷徨っている。キラキラとしたリア充アピールや、友達の楽しそうな夏休みの写真が、テオの胸にチクリと刺さる。「みんな、楽しそうだな…」
受験という名の巨大な壁が、テオの目の前にそびえ立っている。夏休みが終わればすぐに二学期が始まり、模試の嵐、そして気がつけば進路調査票の提出期限が迫ってくる。担任の先生の「第一志望はそろそろ決めたか?」という言葉が、まるで呪文のように頭の中でリフレインする。
(第一志望、ねぇ…)
テオには、明確な目標なんてなかった。ただ、親に言われるがまま、周りの友達が目指すからという理由で、なんとなく進学校の名前をノートの隅っこに書いただけで。本当に自分が何をしたいのか、どんな未来を描きたいのか、まだ霧の中だ。
そんな時、テオの心をふと捉えるものがある。それは、画面の片隅に表示された小さなアイコン。「note」と書かれたそのアプリは、テオにとって気まぐれな落書き帳のような存在だった。
最初は、授業中の落書きのような短い文章や、頭の中に浮かんできたくだらない妄想を、誰に見せるでもなく書き連ねていた。誰かの日記を覗き見ているような、秘密めいた快感があった。
今日、何気なくnoteを開いてみると、以前に投稿した短い文章に、初めて「スキ」がついていることに気づいた。たった一つの小さなハートマーク。でも、それはテオにとって、暗闇の中で見つけた微かな光のように感じられた。
(へぇ、誰かが見てくれたんだ…)
その小さな発見が、テオの心に小さな波紋を広げる。受験勉強の重圧からほんの少しだけ解放されたような、そんな気がした。イヤホンの向こう側の宇宙は、今日もテオの逃避場所であり、そして、まだ見ぬ何かへの小さな入り口なのかもしれない。
続く