「ほう・・・そりゃ貴重な体験じゃないか」
彼はコップ一杯の酒を飲み干し、そう呟いた。
「そう思うかね。僕は生きた心地がしなかったが・・・」
「心霊だなんてね。縁のない人間は一生見舞うことはない代物さ」
「とすると、君はそれを信じるのかね」
「もちろん。もっとも、君が見間違えた、聞き間違えたという線は捨てられない。
だが心霊という現象ごと否定する気は毛頭ないさ」
「ほう・・・現実的な君のことだからまた信じないのかと思ったぜ」
今度は僕が酒を飲み干す。彼は黙り込んだ。何かいけないことを言ったか。
「どうかしたかい」
「いや・・・話してもいいものか・・・」
真剣な面持ち。
「君も心霊の類か」
「似て非なるものだろうな」
「気になる言い方じゃないか。教えたまえよ」
「実はね・・・」
彼は話し始めた。
とある事情で山道を車で走っていた。夜道、それも人のいない山の中。
走っていて気分のいいものじゃない。早く帰ろう。
そう考えて僕は車のスピードを上げた。しかし、急に車の調子がおかしくなる。
「一体どうしたと・・・ん?」
真横の森の中から光が漏れている。
民家だのといった類ではない。なぜわかるか?明るすぎるんだよ。
まぁ君も言うとおり、僕は現実主義者だ。
それゆえ、こんな山奥にこれほどの明かり。どんな施設があるのか。
気になったんだね。車を停めて歩いて近づいてみた。
すると・・・なんということか。これまでの常識が覆されたと言うべきか。
いや人生を否定されたというか。なにせ衝撃的だった。
若干浮いていて・・・なんて解説は不要だよな。
はっきり言ってしまうと、そいつはUFOだった。
近づいてみてもよかった。だがさすがに怖かった。好奇心どころじゃないんだよ。
そのあとは車を無理やりにでも動かして山を降りたさ。
もしかするとあいつが車の止まる磁波か何かを出していたのかもな・・・。
そこまで話すと、彼は酒のおかわりを注文した。
しかし・・・僕はひとつ、疑問を抱いた。
「その山ってどこにあるんだい」
「ん?・・・見えるだろ?すぐそこの・・・あのてっぺんだね」
彼が指さした先・・・それは僕が青い石を埋めた場所だった。
「日付は?」
「たしか・・・」
同日だった。間違いない。
「どうしたんだい?今度は君が黙っちまうか」
「いや・・・実は・・・」
僕は彼に話した。
「・・・偶然かもしれないが・・・」
「いや・・・この場合偶然と考えるほうが難しいんじゃないか・・・」
今日は風が強い。山に茂る木々が何かを案ずるがごとく不気味に揺れていた・・・。