アクアアグリ開業前、独立就農しようとしたときの経験談の続きです。

 

市農政課A氏との面談後、早速「青年等就農計画認定申請書」の作成を始めました。農業界に入る前は「お役所系」の仕事をしていたので、こういう書類の作成には自信があったのですが、この申請書の肝が「収支計画」でした。

「収支計画」とはその名の通り、開業から5年間(補助金支給期間)の収支計画であり、作成時の条件として「5年時の所得目標が400万円以上に達すること」と「5年時の経営面積が50aに達していること」でした。

農地面積については前回書いた地域の加減面積に対応しているもので、所得目標は農業専業で生活を続けられるであろう所得との考えとのことでした。補助金を渡す以上は農業を続けられる計画にすべきというのは至極当然のことだと理解し、作成に取り掛かりました。

 

まず、収入の根拠になる資料の入手です。どの野菜をどうやって(路地or施設)どれくらい(農地面積)栽培すると、予想される収量はどれくらいで、収入はどれくらいになるという数字を、「試算」ではなく「根拠」として説明しうるある程度公的な資料はないかとA氏に聞いたところ、そういうのは農協が持っているらしいとのことでした。そこで市内にある農協の本店に電話で聞いたところ園芸課の方を紹介され、今度はそちらに電話して、後日面談してもらえることになりました。

 

面談当日は予想以上に丁寧に対応してくれました。そこで上記の資料(名前がないので仮に「農協資料」とします)を入手しただけではなく、その内容の詳しい説明と共に、現在農協として推奨している作物品種の資料も貰えました。この時にアクアポニックスの説明をしましたが、「あのハウスでそういうのしているんだ、今度見に行っていい?」などの話もありました。農協の職員は地域の隅々まで農業指導やら何やらで動いているので、農業に関わる情報が早くて多いです。新しい農法にも興味を持ってくれ、チャレンジ大歓迎という印象でした。まあ、今に至っても見学には来ていないので社交辞令だったのかもしれませんが、とてもフレンドリーに接してもらえたのはありがたかったです。

 

農協側としても、新規就農者を歓迎しているのは確かです。ただし、それには個人のやる気やアイデア以上に、実績と信用が必要だと思います。当時、私は地元の農業法人の社員という立場でした。なので、社名を出し、そこで7年ほど働いてきたけど、このたび独立を考えているのでその情報収集ですと伝えていました。なので、Uターンしてきて経験もなしに農業はじめます、というのとは信用度が違います。どの業種でもあるしれませんが、特に農業界は閉鎖的な所も感じるので、田舎に移住して農業を始めようと考えている方は、まずは地元に根付いた農家・法人で経験を積むのが遠回りなようで近道になり得ると思います。

 

さて、これで実際に収支計画を作成できるようになりました。農協資料を参考に収入単価の良い栽培品種を選定し、アクアポニックスと同時並行で露地栽培もする形で計画を作りました。その際は農協が推奨する品種も入れたりして、説得力を増すようにもしました。何度かA氏と何度もやり取りして申請書としての体裁を整えていき、5月中旬、県の担当者に提出しました。担当は地域振興局の農業普及指導センター(略称「普及センター」)。ここで特に収支計画の内容の精査と実現可能性の判断がなされるということで、申請の最大のハードルとなります。A氏とは「こことも何度かやり取りして、内容を詰めていきましょう」という打ち合わせをしていましたが、結果的にはこの一度で終わってしまいました。次回はこの申請最大の壁の存在についてお話ししようと思います。

前回の投稿から2ヶ月以上が経ってしまいました…

この間、お盆が明けて間もなく、例年より1週間ほど早く稲刈りが始まりました。

序盤は晴れが続いた(その分酷暑になった)ことから作業は順調に進みましたが、9月中旬からは雨が続くようになって圃場がなかなか乾かずに作業が停滞し、結局は例年より遅く終わりました。そのため、休みがない訳ではありませんでしたが、文章を書くにはまとまった時間だけでなく、体力・気力の余裕が必要であり、ブログに手がつかなくなってしまいました… ようやくその気になったので書き始めましたが、前回の話の続きではなく、まずは今年の稲作の結果について書きたいと思います。

 

梅雨明けから9月上旬までは酷暑が続き、雨が異常に少なくて水不足が心配されました。現に渇水で稲が枯れてしまった地域もありました。幸いながら、この地域では冬の小雪から水不足が当初から予想されていたため、その対策として例年よりも早めの田植えをして栽培期間をずらす対策をした結果、渇水の影響をもろに食わずに済みました。ただし、酷暑の影響からは逃れられず、特に早生品種や速く植えた稲が影響を受けてしまいました。

 

#24 令和5年産新潟県産コシヒカリ1等米比率激減! 米の「等級」とは?

https://youtu.be/xcz2_pYycQQ

昨日、今年の稲作の結果と等級について紹介したYouTube動画を配信しましたのでご興味があれば見ていただきたいのですが、以下でその補足を書き足したいと思います。

 

 

10月13日 日経新聞

この記事では稲作の収量を表す作況指数(平年を100としたときの今年の指数)が、新潟県全体で「95」と全国最下位となったとのこと。この値は2006年(平成18年)の「96」以来の不作。ちなみに「平成の米騒動」と言われた1993年(平成5年)は「74」でした。なお、当地上越地域の作況指数は「93」と県内最低の値でしたが、実際に関わった感覚で言うとそこまで収量は悪くなかったです

 

9月29日 NHKニュース

この記事は上記の動画でも紹介したものですがもう少し内容に対して詳細に説明すると、「8月末時点での1等米比率41%」とは「こしいぶき」や「つきあかり」などの早生品種の検査結果ですが、実際に「こしいぶき」に1等は出ませんでした。

また、9月28日までのコシヒカリの収穫の結果、新潟市のJAでは1等米が全体の0.6%しかなかったということですが、こちらの方でも同じような感じでした。ただし、コシヒカリでも早めに植えたものは等級は悪かったですが、時期が遅くなるにつれて徐々に状態が良くなっていきました。

 

この米の等級が食味に影響するか否かについては意見が分かれるところで、その理由は動画で説明しましたが、何せお米の味は微細に過ぎて、個人的には正直分からないです。ただ、味の感じ方はその時の気分に左右されると思うので、前情報として等級というランキングの結果を知っていると、ネガティブな印象になってしまうのは仕方ないかなと思います。

 

10月5日 ヤフーニュース(日刊ゲンダイ)

こちらも動画内で紹介した記事ですが、数年前にデビューした新潟のブランド米「新之助」についても良くないような書き方がされていましたが、実際には下の記事のように例年並みに良い出来でした。

上の記事にもありますが、ブランド維持のために1等米でなければ「新之助」の名称で販売できないので「新之助」=1等米であり、今の状況であれば流通量の維持のためにそのルールを変更するということにはならないのではないかと思います。

あと、今年の出来を機に米離れが加速するのでは、といった指摘もありますが、個人的にはそういう話でもないかなと思っています。なぜなら米離れの理由は様々ですが、よく言われるのが食の多様化(麵・パンの選択)や準備時間の短縮(そのまま食べられるパン、数分煮れば食べられる麺、炊くのに数十分かかる米)というのが上位で、味や等級を理由としているのは少ないからです。

 

ここまで色々書いてきましたが、農業というものはやはり自然の力には逆らえないので、今年の結果は受け入れつつ、来年に期待しようと前向きに考えるのが農家の気質だと思います。消費者の方でどうしても等級の結果が気になるという方は、令和5年産はコシヒカリではなくこれを機に新之助を選ばれてみてはいかがでしょうか?

個人農場として独立開業して今年で2年目、まだまだ新参者であり、胸を張って上手くいっているとはいいがたい状況ではありますが、アクアポニックスをメイン事業とした個人農場はまだまだ珍しく、たまにではありますが「新規就農するにはどうすればいいか?」という相談を受けたりします。そこで自分の経験談(ほぼ失敗談)をこのブログでまとめることで、同じことを考えている方々の参考になればと思い、書いていきます。

 

そもそも「農業」、つまり何らかの作物を育てて販売することで収入を得る行為をするにあたっては特別な資格も申請も必要なく、自分が栽培に使用できる土地があれば誰でも、何時からでも始めることができます。

しかし、通常は事業としての農業をするにあたってはある程度の面積(栽培する作物で異なる)の「農地」が必要になり、市町村ごとに設置されている「農業委員会」から借りることになりますが、何の準備もなしに行ってもすぐには貸してくれません。そこでまずは市の農政課に新規就農の相談に行きました。

 

2021年2月、最初の相談。農政課の担当は若い男性、ここではA氏としましょう。新規就農を考えるならまずは「認定新規就農者」に認められるよう、「青年等就農計画認定申請書」を作成しましょうと提案されました。

この「認定新規就農者」になると様々な行政からの支援を受けられるようになりますが、特に目を引くのが「農業次世代人材投資資金(経営開始型)」という補助金で、最長5年間で年間最大150万円の用途自由の資金を得られるという支援です。

A氏は申請書の作成方法やその他の準備に関して丁寧に説明してくれました。また、こちらがアクアポニックスという新しい農法で挑戦したいという希望を伝えたところ、前向きに協力してくれると約束してくれました。

 

農政課での相談の後、その足で農業委員会に向かいました。農政課での相談のアポを事前を取った際、引き続き農業委員会に出向くということで事前に話が通していました。担当の方との話を色々したところ、以下の2点を確認できました。

①「農業次世代人材投資資金」を得る条件として「農地の所有権または利用権を確保していること」とあるが、先に「認定新規就農者」になるための申請書にある「収入計画」で必要な農地面積が計算されるので、その申請書の作成過程の中で必要面積が確定したらまた相談に来る。

②農地の貸与については地域ごとに下限面積が設定されているが(当地は50a)、新規の1年目から適用されるわけではない。ただし、営農計画を普通に考えれば自然とその面積以上が必要になるだろう。

こちらの担当の方も丁寧な扱いをしてくれて、地域担当の方にこちらの希望について情報共有してくれることになりました。

 

このような感じで初回の相談は終わりました。正直言ってこちらの希望を言っても怪訝な顔をされて適当に扱われることも覚悟していたのですが、予想外に丁寧な扱いを受けて「幸先の良いスタート」と思ってしまった訳ですが、この後は高いハードルに躓いてしまうのでした……

 

まずはアクアポニックスのしくみについて、簡単に説明します。

 

アクアポニックス(Aquaponics)とは、水産養殖(アクアカルチャー:Aquacuiture)と水耕栽培(ハイドロポニックス:Hydroponics)を融合した比較的新しい食料生産技術で、欧米では「オーガニック(有機栽培)技術」として定着しています。なお、アクアポニックスはアクアカルチャーとハイドロポニックスを組み合わせた造語です。

 

その原理としては下図のとおり、養殖している魚のフン等から発生するアンモニアを微生物が硝酸態窒素に分解(硝化)し、それを植物が養分として吸収して育つとともに、浄化された水を魚の飼育に再利用する循環型農業です。

一般的な水耕栽培では一作ごとに水を全て入れ替えるので、水の使用量は格段に少ないものになります。
 

 

アクアポニックスではこの循環サイクルとバランスが肝となるため、それを崩す可能性がある化学農薬及び化学肥料は使えません。よって、栽培される作物は必然的にオーガニック(有機無農薬)野菜となります。

 

私は仕事としての農業(稲作)と趣味としてのアクアリウム(海水魚)を経験していましたが、アクアポニックスの存在を知った時は「人生最大のワクワク」を感じました! 趣味と実益を兼ねつつ、周囲に同じことをやっている人は誰もいない、つまりは最先端の道を開くというロマンにすっかり舞い上がり、我が人生最初で最後のチャレンジだと見切り発車で独立しました。今もまだその熱は冷めていません。

 

ただ、独立起業に至るまでには法律や行政の面で数多くの壁がありました。

「あった」と書くといかにも乗り越えた風に感じますが、実際は解決できずに迂回したというのが本当の所です。次回はそんな経験談について書いていきたいと思います。

 

 

 

 

 

※アクアポニックスの原理については動画を作っていますので、

 良かったらこちらも見てください。

 

※アクアポニックスの歴史など、さらに詳細はHPのブログに書きましたので、

 良かったらこちらも見てください。  

 

アクアアグリは新潟県でアクアポニックスを実践する小さな個人農場です。

 

アクアポニックスとは魚を養殖し、その水で野菜を育てることで水を循環使用できる農法+養殖法です。

当方ではティラピアをメインに錦鯉や金魚を養殖し、冬はほうれん草、夏は空心菜やミント等を育てています。

 

農場での仕事の様子等はHPやyoutube動画で配信しています。

栽培した野菜は少量ですが食べチョクにて販売しています。

 

HPにもブログ欄がありますが、そちらは日々の仕事などを記載し、こちらではアクアポニックスや農業全体に関わる時事問題やニュースを、小さな個人農家の目を通して感じたことなどを書いていきたいと思います。