自分ならどこに立つ?

    妻は白帯とか黒帯とかの類いの習い事をしている。「プライベートを公にするんじゃないと」またお叱りを受けるので、ぼやかしたところは許して欲しい。で、道場には少ないながらも女性が何人かいる。そのうちのひとりが妻にこうボヤくそうだ。

「先生は昇級試験や試合のある子供たちばっかり教えて、大人には全然教えてくれない。目も合わせてくれないのよ?」

    妻もその憤りは一理あると感じているらしい。ちなみに妻もその仲間も黒帯を締めている。いわゆる段持ちだ。僕は、へぇーそうなんだと相づちを打ち、「月謝を払っているのだから、分け隔てなく教えてくれないとね」と答えた。

    消費者とか受講生の立場ならまったくその通りだ。でも本当にそうなんだろうか。自分で口にしておきながら同時に疑問も湧く。道場が技術やノウハウ、または幅広く環境や文化みたいなのを伝えたいと考えるなら、あれこれと手を尽くすはずだ。しかし僕は、伝えたいことが全て伝わることは無いと思っている。伝え手と受け手の指向や熱量が揃ってないと教えても伝わりにくい。だからその先生は、彼女が来ることを待っているかもしれない。もちろん、面倒だから関わりたくないという可能性もなくはない。また、一般から脱した段持ちなら「自分で考えなさい」とか「どうしてもわからないところは積極的にしつこく取りに行きなさい」とも僕は思う。

    こんな時、古武術研究家の甲野善紀さんを思い出す。過去に1度投げられたことがあった。甲野さんほど突き詰めるのは尋常ではない。だけれども受け身になっていては何も始まらない。つまり「教えてくれない」は立場の違いなのだろう。

    そんなことを妻に言ったら反抗に合うだけなので、僕はしれっと体を躱すことにした。

 

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