引き続き、この本より。
●「平気でうそをつく人たち―虚偽と邪悪の心理学」
M.スコット ペック (著)
森 英明 (翻訳)
著者のスコット氏は医学博士にして、臨床心理士です。
この中に、氏が受け持った、こんな症例があります。
(あらすじ的に説明しますので、ネタばれや先入観をさけたい方は
先に同著を読んで下さい)
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●素行不良になった少年のことで、その両親が氏のもとに相談に来ました。
職業も堅実、地域貢献もし、教養も高い、申し分なさそうな夫妻です。
その夫妻の息子が、素行不良になったというのです。
欧米はカウンセラー社会です。
何か問題があった時には、「カウンセラーに行った?」が挨拶のようなもの。
夫婦は、信頼のおける高名な医師である氏に、
たいせつな息子のことを、相談に来たのです。
彼らには子どもが二人います。問題があるのは上の子です。
下の子はいい子のようです。
相談を受けるうち、氏は、何ともいえない違和感を
その夫妻に覚えはじめます。
いちばん奇妙なのは、その夫妻は、問題があるとされている
当の息子さんに、氏を、会わせようとはしないのです。
わたしたちは両親なのですから、と彼らは言います。
未成年のばあい、保護者で十分でしょう。
いいえ、問題があるのは息子さんなのですから、ぜひ息子さんと
会わせて欲しい、本人の口から事情を聞きたいと、氏は頼みます。
氏と夫妻の間に、緊張感がたれこめます。
彼は高名な医師であり、夫妻は、紹介状をもって、彼に会いに来ています。
緊張感は、一瞬にして吹き飛び、両親は完全な同意ではなくとも、
はれやかに愛想よく、氏と息子との対面を認めます。
●氏は夫妻の息子と会います。
少年は、たしかにちょっと、ひねくれているようにみえます。
学校での素行も褒められたものではありません。
しかしカウンセリングを重ね、彼に改善がみられました。
成績は悪いのですが、新しい学校では、明るくて人気者、先生方からも
愛されている存在だと、その学校の先生から報告がきたのです。
●夫妻がまた相談にやってきました。
息子の様子が悪化したというのです。
きけば、学校の中から選抜した者だけが行ける小旅行に
彼が学校から選ばれたのにもかかわらず、
両親は、ささいな家庭内の言いつけを守らなかったという理由で
罰として息子の旅行参加を認めず、楽しみをとりあげた、といいます。
氏は驚きました。
子どもの気持ちが分かる親ならば、決してそんなことはしないでしょう。
そこに、「言いつけを守らなかったからだ」という大義名分はあったとしても、
やりすぎのような気がします。
それだけではなく、父親は氏に、
スパルタ教育で有名な陸軍学校へ息子を入れることを、
唐突に提案してきます。
驚いて、氏は反対します。
息子さんはいまの学校で、愛されている存在なのです。人気者なのです。
本人が、いまの学校に通いたいと言っているのです。
それなのになぜまた遠方の、陸軍学校に行かなければならないのでしょう。
父親だけではありません。
母親はさらに驚くべきことを、氏に向かって、言いだします。
遺伝的な要素で、息子が異常者だということはありませんか?
●この両親は、息子を改善したいと口では願い、熱心に心配しながら、
自分の息子を「異常者」扱いするのです。
親ならば、たとえ子が犯罪を犯したとしても、最後まで庇うものです。
それだけでなくこの両親は、氏に、賛同して欲しがっているかのような
様子をみせます。
息子に異常者のレッテルをつけて、厳しいことで有名な、遠くの学校に
追いやろうとしているのです。
重ねて、氏は強く反対します。
この両親に覚えた違和感を決定的に強めながら、
それは息子さんの為にはならないと思いますと、反対の意を伝えます。
後日、夫妻から、氏のもとに手紙がとどきました。
妻の手で書かれています。例文になりそうな、きちんとした礼状です。
感謝を述べながら、二度とそちらの診療所には世話にはならないことを
それとなくにおわせた、別れの挨拶の手紙です。
そこにはこう書かれてありました。
先生のおっしゃるとおり、息子を陸軍学校に入れました。
氏は、あれほどに強く反対したのです。
ですがこの両親は、通っていた学校を退学させて、
スパルタ教育で有名な陸軍学校へ、息子を入れてしまいました。
しかも、氏がそれを勧めたかのように、装っています。
おそらく人にも訊かれれば、そう言っているのでしょう。
章のさいごで、氏は、少年の将来を懸念しながらも、おそらくこの両親にとっては
これが真実なのだろうと、結んでいます。
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善人であるわたしたちの教育には、非がないはずだ。
↓
だが息子は素行不良だと言われている
↓
悪いのは誰? 善人のわたしたちではありえない。
↓
では、息子が悪いのだ
・息子を「異常者」に仕立て上げ、遠い陸軍学校に追いやりたかったのは、
自分たちに原因があると思われないための工作。
・夫妻が、氏と息子を会わせたがらなかったのは、彼らが操作のしやすい
二者関係に固執するから。
この両親には親らしい情愛はなく、子どもの発育途上における
情操の浮き沈みも分からず、それを包んでやる優しい心もありません。
彼らが欲しかったのは、
・子の為を想うすばらしい親であるという評判
・ちゃんとカウンセラーに相談したという既成事実
・高名な医者が息子を「異常」だと診断し、両親には非がないことを認め、
息子を陸軍学校に入れることを勧めたという、(虚偽の)真実
以上です。
ストーカーと化したモラさんは、思い通りにならぬわたしのことを、
知り合いの精神科医に【相談】しに行きました(何を考えているんだか…)。
「コトンさんは、明らかにおかしい」
モラさんが欲しかった「真実」は、何だったのでしょう。