荒廃した街の中、華とアーサーが並んでいた。華は何か頷きながら「なるほどねぇ、アーサーはそうやって戦うんだ~。」と、のんきな声のトーンで話している。
「何が言いたいんだ?」
「いやー、特に言うことはないけど、立派な戦い方だなぁーってね」
「どこがだ?」
「うーん、なんていうか、まるで相手の動きを完全に見切って無駄なく戦う…そんな感じかな」
アーサーはその言葉を聞いて、一瞬だけ眉間にシワが寄った。一瞬の表示を華は見逃さなかったが、あえて何も言わなかった。
ー誰かに言われるほど立派な戦い方してない。
アーサーは自分にそう言い聞かせた。
今回の依頼は民間人の子供の捜索、急ぎの依頼だったので華が相談せずに受注していた。
華は辺りを背伸びし、キョロキョロと見回しながら
「それにしても、いないねぇー…」
「民間人が迷って死ぬ確率は半分を越しているんだぞ。」
「それでも、見つけなきゃ!何処かに隠れてるかもよー?」
いつの間にか華は崩れかけた家の屋根まで登っていた。
「所詮、人っ子1人の命だ、死んだって変わりな…」
「バカ!その子だって生きてるんだよ?
消えていい命なんかないんだよ!」
突然、怒鳴られた。
この時、アーサーの中で引っかかっていた"あるもの"がほどけた。
「そうだよな…すまん。」
「うん、わかってくれればいいよん!」
ーそうだ、この世界には消えていい命なんかどこにもないんだ、だから俺は、行き続ける!
アーサーは胸にそう誓い、子供を探すため、走り出した。
「…パパ、ママ、どこ?帰りたいよぉ~…」
崩れた瓦礫で壁が一つ吹き抜けた家の影からひどい嗚咽と共に親を呼ぶ声が聞こえる。
「もう、やだよ…助けて…」
そんな泣き言を言っていたら民家の外に人影が見えた。
「…パパ!」
子供は勢い良く外に出ると、子供の父親が佇んでいた。
"一般人は入れない区域の中"で。
子供はそんなことに気付かずそのまま走り続け、父目の前まで来た瞬間ー視界が闇に覆われた。
次の瞬間、闇は消え、目の前に金髪の少年と薄桃色の少女が剣を振りかざしていた。
「大丈夫⁉︎」華が子供の肩を軽く叩いた。
そこで少年は父と思われた状態を理解した瞬間、大声で泣きわめいた。
相手の望むものに姿を変え、"餌"をおびき寄せるアンコウ型モンスター、フロッグフィッシュマン…その異形な姿はアンコウに近い顔、胴体は人のそれに近いが、手足はカエルに酷似し、皮膚の色はウシガエルの様な化け物だ。体長は小型トラック程のサイズだ。
「その子を死守するぞ!」アーサーは剣をフロッグフィッシュマンに突きつけたまま、顔を華に向けた。
華は子供を家の中に隠れるよう促し、剣を抜いた。
華の剣はとても細く、刃元は紅く、切っ先は白のグラデーションで彩られた、とても武器として扱う様な見た目の剣ではなかった。
華はそれを掌で軽く握り、フロッグフィッシュマンの懐まで一気に距離を縮めた。
そのまま腹部に一瞬で3回、バックステップし、右前足に2回、跳んで背中に6回…次々に突き入れた。
あまりにも流れるような剣戟に敵は対応することも出来ず、華から遠ざけようと大きく跳んだが、着地点にはアーサーが待ち構え、腹部を鞘に収めたままの剣でなぎ飛ばした。
敵は口から強い酸性の水球を飛ばしたが、どれも虚しく2人からそれた場所に落下し、地面を大きく抉った。
否、抉ったのではない、溶かしたのだ。
アーサーは溶けて穴が空いた地面を一瞥し、走り込んだ。敵は前足でアーサーをなぎ払ったがそれ程ダメージはなかった。だが、軽く吹き飛ばされたことにより、先程出来た穴に落ちてしまった。
穴の中で体制を立て直そうとした直後、上空は先程の酸性の水球がアーサーの視界を覆った。
アーサーの入った穴の中に水球が飛び込むとジュワーっと、音を立て蒸発した。
肌がチリチリと焼け焦げた様な感覚に見舞われたが、倒れるわけにはいかない、子供を助けるという指名、それを糧にアーサーは穴から這い上がり、敵の横腹部に回り込んだ。それを見計らうように前足を振りかざす、その瞬間ー
「華!今だ‼︎」
アーサーが大声で叫ぶと、華は敵の背後から連続で何度も切り裂き、突き入れた。
フロッグフィッシュマンは苦悶の咆哮を上げ、黒い塵となり霧散した。
「華、助かった。」
「もう!なんであんな無茶な戦い方したの!」
「華を信じてみたんだ、すまなかったな」
苦笑しながらアーサーは言った。
子供とギルドに無事戻り、民間人の母にこれでもかというほど感謝された。
本人達はそんなに謝らなくてもいいと何度も言っているのに、母は満足するまで謝らせて欲しいと言う。
アーサーは苦笑しながらもふと、空を仰ぎ見た。
ーシズ、俺は誰でも生きている価値はあるってことが今日わかったよ。
次回予告
次回、アーサーの過去が語られる。
何故アーサーの力はあれほどなのか
シズとは誰なのか
心を閉じた理由は…!
呼応ご期待下さい。