彼はお山の斜面に小屋を建てたのはいつだったろうか。バウム先生、あるいはバウムソン先生と彼は皆から呼ばれている。しかし、先生と呼ばれるのが面倒なのか恥ずかしいのか、「バウさん」と呼んでくれと皆に頼んでいる姿を良く目撃する。私は彼をバウさんと呼ぶことにしている。

バウさんの人となりは謎めいた所が多い。気が付くとこのカブの里に住みついており、いつからお山の斜面に住み着いたのか誰も知らない。バウさんが何をしていた人なのかも誰も知らない。しかし、そもそもこの里の住民はそんなことには無頓着だし、バウさんが悪い人ではないのが良く分かるので、生まれた時からそこに住んでいるように接している。それにバウさんはとても力持ちでどんな力仕事でも平気で一人でこなしてしまうので大人気だ。少しだけ、バウさんの容貌を紹介したい。

バウさんの顔が馬の様にデカい。けれど、どこか端正だ。そして、首が太い。胴体と同じくらいに見えてしまう。特徴的なのは肩幅で異常に広い。ゴリラみたいな身体だ。腕も太い。ああ、あの異様な肩幅はこの腕を支えるために発達したんだなと思わせるくらいに太い。余りにも発達した上半身の筋肉で見落とされているが下半身の筋肉も太かった。その筋肉は敏捷性と耐久性に優れているせいで、その異様な盛り上がりが見過ごされがちだ。身長は175センチくらいで高くもないが低くはない。

 そう。彼は皆と違う異質な肉体を持っていた。恐らく、彼が本気になったら誰も敵わないだろう。もしかしたら銃弾だって跳ね返すかもしれない。この里にはそんなものはないのだが、そう思わせるような圧倒的な存在感が彼の肉体には宿されていた。その肉体は異質な目的のために存在しているような気がした。

けれど、それよりもなによりも彼は鷹揚で色々なことに無頓着に見えた。そう。優しいのだ。誰からも愛されたし、この里の誰もを彼は愛した。だから、彼はここにあるのだろう。今日も彼は山の斜面で酒を飲みながら煙草を吸い里の人たちからの力仕事のお願いを待っている。とても伸びやかに。