綺麗な夕焼け。 雨になるのか、晴れるのか。
「あしたはー どうっちだあー」
話を少し戻します。
力石徹の息子達也が矢吹丈の息子貴志に始めて逢いに来た時の話に戻ります。
裏口辺りがやけに騒がしいので二階にいた貴志が降りて来る。
ドアを開けた途端二人の目が合う。
「おめえが矢吹丈の息子か、なるほど写真のオヤジにそっくりじゃねえか」
「そういうお前は力石徹にそっくりだな、せがれか?」
二人の間には目には見えないが激しい火花が散っていた・・・・・・。
貴志は三歳の時に母親の白木葉子に連れられ此処、林食料品店に来たが、
その時の事は全て覚えていた。
大人たちの話は隣の部屋でこっそり聞いていたが、全てを理解する三歳児であった。
そして自分の運命をけなげにも受け入れる決心をする、三歳児であった。
頭のいい子であった。
そう まるで「子連れ狼」の大五郎のような・・・・・・。
貴志は成長するほどにネットや関連本で自分のルーツ、そして父と知った
矢吹丈と力石との因縁の試合の事も全て掌握したのだった。
達也が続ける。
「俺とお前は、何れ決着をつけなくてはならない運命の様だな、おめえにその覚悟は
あるのか?」
「ああ、オヤジの事を知るほどにオヤジの無念は解っていたさ、
お前のオヤジに無理な減量をさせて、結果的に死なせてしまった。
その懺悔の思いが自分自身を死に急ぐ様に追い込んで行った。
パンチドランカーになり乍らもお前のオヤジの後を追っていたんだ。
俺のオヤジも、お前のオヤジもこの世に未練を残して死んで行ったんだ。
真っ白に燃え尽きてなんかいないっ!!
(おい おいホントかよ)
俺とお前、お互いオヤジたちの因縁を受け継いで決着を着けようじゃあないか。
今度こそ悔いの無い試合をしようぜ。
俺とお前のオヤジ達の為にもな。
ただし、条件が一つある。見た通り俺とお前はオヤジたちと同じ
ウエイトのようだ。
俺がフライ級でお前がライト級、その差は10キロだ。
お前のオヤジはその差を減量で埋めてきたが、今回は俺が増量で埋める。
文句ねえな?」
かくして、 貴志の地獄の増量トレーニングが始まるのであった。
つづく
その夜 泪橋の近く、土手の上でラーメンの屋台を囲んで懐かしい面々が集っていた。
段平、西夫婦と貴志、段平が帰って来た事を聞きつけた昔のドヤ街の仲間達、
チュー吉とヒョロ松、みんなもう三十前後の立派なおっさんだ。
そして、屋台の主人はあの、太郎。
その女房はなんと、赤いスカートにいつも下駄ばきだったサチだった。
昔話に花が咲いていた。
「西やんは 減量の真っ最中、夜中に抜け出してはこの土手のラーメン屋台で
ラーメンの大もりを毎晩食っていたんだよ」
誰かが言うと
「そうそう、それをジョーに見っかって強烈な一発をボデイに食らって・・・・・」
「その話はやめろって」
と西。 段平が後を続けて、
「だけど その日から 西は生まれ変わった様に減量に取り組んだ・・・・
その男らしい姿に紀ちゃんが惚れたんだよな」
「やめてー」
と紀ちゃん。
ヤンヤ、 ヤンヤと盛り上がって夜は更けて行く。
焼酎のお湯割りをグイグイあおっていた 西が貴志の耳元でそっと呟いた。
「さっき、達也から電話が来てな。貴志が勘違いしているようやから、はっきりさせとくゆうんや。
俺はライト級やのうて スーパーウエルター級だというんや。
あいつ着やせするタイプなんやなあ。
何にしてもこれで貴志は二十キロ太らなあかん訳や。
俺もマンモス西とリングネームで呼ばれていた頃は減量に苦しんだ。
だから減量には自信があるんやが、なにせ今度は増量だ。
ジョーもそうだったが、お前も太る体質じゃあない。
ただ太るのではなくスピード感も瞬発力も今以上につけなくてはならないし。
達也には二年後の対戦を約束したが、それまでに二十キロの増量をして
プロテストに受かってと、やる事は山積みや。
段平のおっちゃんはもう歳やし、
ボクシングのコーチとセコンドは俺が引き受けるが、太らせる事だけは自信が無いねん。
それで、おれの知り合いの相撲部屋に入門してもらいたい。
ちゃんこの材料やら一切を卸しているお得意さんで、
伊勢駒部屋という部屋でな。
お前も知っているやろ ほら「のたり松太郎」と呼ばれていたが今度初優勝して
幕内に昇進した「荒 駒」という力士がいる部屋や。
まあ、今日はなにも考がえんと、食えっ 食えっ。オヤジラーメン大もり追加や」
つづく
