ナンバー36 ラーメン屋 春ちゃん「水の巻き」 | 堀切光男のエッセイ畑

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ラーメン屋 春ちゃん「水の巻き」


都内に 店を構える ラーメン屋の知人は、 究極のラーメンを


作ろうと 頑張っている。


こう書くと、さぞや行列が出来る店なんだろうなと


思われるかも知れないが、彼の店に 行列が出来た試しはない。


彼が 造る (あえて、この字 ) ラーメンはトンコツでは無く、昔懐かしい


( 東京 ラーメン)。 醤油味で、シンプルなようで 実は


雑味なく、奥深い味に仕立てるのは 結構 大変だ。


で、 彼がこだわって 創(あえて) りだす ラーメンは


麺もスープも 申し分ないのだが、今一つ何か物足りない。


本人もそこの所は よく解っていて、日夜研究をかさねているらしい。


ある日、彼から


「最後の 手段だ。 スープ に使う 水に こだわってみる事にした。


二十八万円も出して 整水器を買ったぞ」


と、、電話が来た。


アルカリイオン水を作り、備長炭と 自然石を沈めて


一晩 汲み置きしておくのだと 言う。 味見を させて、


「前より ずっと 旨く なっているだろう?」 と 自信満々だが


「そうねえ、 何と言うか・・・・・よく解らん」


と、 答えるしかなかった。


( つづく )


彼の こだわりようが 鬼気に迫っていたので、気になって数日後、


様子を見に行くと、今度は片道 一時間半 もかけて、毎朝 郊外に


名水を 汲みに行っていると言う。


「だけど、それって毎朝汲みに行く必要 あるの?」 と聞くと


「そりゃあ、もちろん。 タケノコや トウモロコシなど、朝採りした物の方が


ずっと 旨いだろ? 水だって 朝採 りした方が 旨いに決まってる」


「ふーん、 そんなモン かね」


自信たっぷりに 出された ラーメンを 思いを込めてすすってみると、


そう言われれば 今日のラーメンは後味に さわやかさが、残る・・・・・・


ような 気がした。



その次に 訪ねると、名水は もう止めたと言う。


やつれて、疲れはてた 顔をして彼は言った。


「東京のラーメンは、もともとは水道水から始まったんだ。


いろいろやってみたが、結局 元のラーメンの原点に戻る事にした」


たかが ラーメン、 されど ラーメン。


彼は( ラーメン 道) を 極めたのだろうか?


( 了 )