おかしなことを言うと 「ヘソが茶を沸かす」と言われ笑いものになりますが、

「ヘソが茶を沸かす」とはどういうことでしょう。

 

 おかしくてたまらない、ばかばかしくてしかたがないことの例えで使われる言葉で、

嘲りの意をこめて用いられることが多いようです。

 

 「お茶」にまつわる言葉は枚挙にいとまがありません。

 お茶が気軽に飲めるようになったのは江戸時代になってからのことです、それ以前は

武士階級で茶道として嗜まれていました。江戸時代中期にはお茶が庶民の飲み物になり、

お茶にまつわる言葉が多く生まれています。

「お茶の子さいさい」、「お茶をにごす」、「茶にする」、「茶番」などなど・・・

 

「へそが茶を沸かす」は、当時の人びとに好まれ、さまざまな文芸作品にも登場します。

 

 あまりの馬鹿馬鹿しさに大いに笑いコケるときの、腹がよじれて波打つ様子が

湯が沸き上がるのに似ていることに由来していると言われています。

 笑い過ぎてお腹が痛くなったとき、おへそのあたりが煮え立つように沸騰するので、

そこへ茶を沸かす急須でも置くと、お茶が沸くんじゃないかという思いがありそうです。

 

 同義語に「へそが笑う」、「へそが捩れる」、「片腹痛い」がありますが、

どれも笑い過ぎて腹が捩れることに由来しています。

 

 浄瑠璃の「糸桜本町育」の中に

『意見するもあんまり阿保らしいて、呆れが舞うて臍がをかしがって茶を沸かす』

と謳われていて、「へそが茶を沸かす」が広く使われていた様子が伺えます。

 

 

 

 初鰹、初茄子など、初物を食べると寿命が七十五日のびるという俗信があります。

 

 季節に先駆けて出る農作物や漁獲物などを「初物」と言います。

初物を好んで食べる人のことを「初物食い」などと呼び、昔から日本人は初物好きです。

「初物」と似たような「旬」も日本人の好きな言葉です。

「旬」はある食材がほかの時期よりも新鮮でおいしい食べごろの時期を言う言葉です。

どちらの言葉も日本の食文化をよく表しています。

 

 さて、初物ですが

これを食べると寿命が75日延びるとはどういうことでしょう?

 

 江戸時代の頃、死刑囚の刑の執行に際して

「死ぬ前に食べたいものがあればそれを叶えてやる」という慣習がありました。

死刑囚が望んだものがその季節に無い場合、その初物が取れるまで執行を延期しました。

最大75日まで延期が認められていたのです。

その間は刑が執行されないので寿命が最大75日延びることになります。

当時の死刑囚は季節を読み最大効果を狙って食べ物を望んだことでしょう。

 

 似たような話は日本に限らず、ヨーロッパにもあったようです。

フランスの例ですが、食べ物に限らず広く望みをかなえていたようです。

例えば、「英語を勉強したい」と死刑囚が望めば実際にそれを叶えさせたと言います。

これだと2,3年は寿命が延びたことでしょう。

 時々相撲で「まった」を見かけますが、そのはしりは250年前まで遡ります。

 

 江戸時代享保年間に、初代谷風と八角の初顔合わせが京都二条河原でありました。

谷風は讃岐の生れで高松候のお抱え力士で色白の美男子で人気もありました。

対する八角は色黒で猪首の藪睨みで人気も今一。何とかしてこの勝負に勝ちたかった

八角は師匠の行司役で紀州家のお抱え儒者の尺子一学に相談を持ち掛けます。

 

 そこで一学は、「気の練れ」を説きました。

 

 八角は立ち合いの瞬間「まった」と声をかけ相手の出鼻をくじく方法を編み出します。

それまでの相撲は行司の軍配が引かれると力士は即座に立ち会っていたのです。

誰も考えなかった奇手でした。

 

 いよいよ谷風との立ち合い、予定通り八角は行司の軍配が引かれると「まった」と

立ち上がりません。谷風は出鼻をくじかれるも仕切り直しに・・・

 行司の軍配が引かれて立ち合いかと思いきや、再び「まった」の掛け声が。

これが数回繰り返されるうち谷風はいら立ってきます、八角は予定通りとご満悦。

この勝負八角が見事に谷風を下しました。

八角もこれ以降人気が出たそうです、奇手を咎める声もなかったとか。

 

 以降「まった」は既成事実化され、相撲のルールになりました。

これを悪用する者も現れたため明治になって立ち合いに制限時間が設けられました。

制限時間を超えての「まった」は無しとなりました。