こぎれいな事務所に通されると、早速本題に入る。
用紙を渡され、消費者金融名、借りた時期、金額、などを書かされる。
しかし人間てのは結構いい加減なもんで。
最初に借りた時期や金額など、全く覚えていないものまであり。
それでもなんとか必死で書き出し、弁護士さんに渡す。
私達は【債務整理】をしてもらうつもりだった。
それなら借金を踏み倒すこともなく、多くとられていた金利分を減らすことが出来る。
うまくいけば支払いすぎていた分を、返金してもらえるかもしれない。
ところが、この弁護士。
やたらと【自己破産】を勧める。
ダーリンが
『いや債務整理で。』
と言うと一旦は引くが、暫くするとまた、勧めてくる。
私達の財産状況を聞く、
収入状況を聞く、
などなど、何かやる毎に。
ちぃママの話しでは、弁護士業界の中でもかなりやり手で優秀、非常に有名な人だった。
ちぃママの友達もキッチリやってもらえて、チャンと自己破産にしてもらえたと。
本当だったら通らなかったかもしれないのに。
そうか。
この弁護士【自己破産】が好きなのかもしれない。
手続きやら何やら、自己破産の方が簡単なのか?
とてつもなく優秀かもしれないが、私はどうにもこの弁護士が好きになれなかった。
高圧的な物の言い方。
人を蔑むような目つき。
何より、私達が弁護士の言い分(自己破産にしろ)をすんなり受け入れないのが非常に気に入らない、てのが見え見えだった。
なんだか、ちぃママに聞いていたのとあまりにもイメージがかけ離れていた。
((ちぃママは、とっても優しい良い先生だって言ってたのになぁ…。))
途中、ダーリンは義姉に電話をかけてみた。
あまりにも弁護士がしつこいので、自己破産という選択もあるのかを。
もちろん答えは決まりきっていた。
ダーリン自身も出来ることなら自己破産はしたくなかった。
自分のプライドを捨ててしまうみたいで、嫌だったようだ。
ここまで借金しておいて、プライドもへったくれもないが。
結局。
やっとどうにか債務整理でお願いすることになった。
すると場所を移動してくれ、と弁護士が言う。
((え、ここがこの弁護士の事務所じゃなかったのか?))
この部屋は、時間契約で借りているだけだったようで。
促されるままに部屋を出て、その弁護士の事務所に向かう。
弁護士の事務所は、そこから歩いていけるくらいの距離にあった。
こんなに近いのに、なんでわざわざ別の場所に借りてまで話しをしたのか。
それは事務所に行ってみて合点がいった。
事務所は、小さな貸し事務所の寄せ集めのアパート的場所の一角にあった。
信じられないほどボロボロの。
その弁護士の他にも、数名の弁護士名の書かれた部屋へ入る。
中はボロボロなだけでなく、非常に狭く、また、非常に汚かった。
((これが超有名な、超凄腕の、弁護士の事務所?マジか?))
私達は本当に面食らい、困惑してしまった。
もちろん事務所の綺麗さ、豪華さで仕事をする訳ではない。
それにしても、だ。
私達の通された、恐らくは応接室だと思われる部屋には、椅子はところどころ錆び付いたパイプ椅子。
ダーリンと私が並んで座ると、ほとんど身動きのとれないほどの狭さ。
周りにはビッチリと書類などが詰め込まれていた。
夏だというのに窓を開け放ち、これまた古ぼけた扇風機が生温い空気をかき混ぜている。
汗だくになりながら先ほどの話しの続きをする。
あまり気乗りがしない様子の弁護士は、やや投げやりに見える態度でダーリンに色々質問をし、何やら書類に書き込んだりしていた。
とりあえず費用は、1件につき3万円。
過払いで沢山払い戻しがあった場合は5万円。
最低でも合計30万円。
分割で支払えるのが救いだった。
『宜しくお願いします。』
頭を下げ、弁護士事務所を後にする。
なんとも怪しげで、感じの悪い弁護士だったが、ダーリンは、とっても晴れ晴れとした顔をしていた。
弁護士がそれぞれの消費者金融へ通知を出した時点で、支払いはストップする。
毎月数十万もの支払いから、とりあえず解放されるのだから、晴れやかにもなろう。
さぁ、心機一転。
またがんばらねば…。
翌日。
私の携帯が鳴る。
誰かと思えば…義姉だっ。
((なんだろ…。))
義姉からの電話は、大抵あまり良い話しじゃなかった。
話しは、ベンツの自動車税のことだった。
ダーリンは借金だらけだったし、私も生活費全部の他に、ダーリンへの援助もしていたので支払えずにいた。
情けない話しだが。
すると義母が
「これで払ってやって。」
と、お金を出してくれていたらしいのだ。
私の所に転がり込んでいたダーリンは、住所がまだ彼の実家のままだった。
なので税金などの書類は全て、実家の方に届く。
実家に遊びに行く度に、郵便物などは貰ってきていた。
その時
「これ、払えるのッ!?」
と聞く義母。
『大丈夫だよ。』
毎回そう答えはするが、支払える訳もなく。
毎月届く自動車税の督促状を見て、どうにも耐えられなくなったのか、その分のお金を義姉に渡したらしいのだ。
ところが。
義姉はそれを支払っていなかった。
「使いたくないからッ!」
と。
いやいや…。
それならそれで、義母に内緒で良いから、ダーリンに一言、言うべきなんじゃないのか?
コッチはお金を出してくれたなんて知らないから、お礼も言わず、感謝もせず。
そのお金を使った、使わない、にかかわらず、やはり教えて欲しかった。
それにしても…。
そのお金を渡されたのはずいぶん前のこと。
何故いまさら?
それも債務整理が決まった翌日に。
というか、義姉は義母からのお金を使ってないことを、義母にもずっととぼけ通すつもりだったのか?
税金を支払わない限り督促状は届く訳で。
そしたらいくらなんでもバレてしまうのは避けられない訳で。
下手すりゃ私達が、お金を貰ったクセに、いつまでも支払わずにいるように思われる訳で。
本当に何を考えているのかよく解らない人だ。
これには実は、裏があったのだが…。
まぁ、ともかく、税金は分割払いでお願い出来るということで、その手続き(といっても電話で済むことだが)をし、その支払い用紙もコチラに送ってもらうことにした。