そんな私の様子を見て、今度は必死にすがりつくダーリン。
絶対に別れない、と。
私の昼休みを狙って電話をかけてくる。
そして同じ問答の繰り返し。
チビたんに内緒でやっていたのは、俺が悪かったっ。
二度としないから…
二度とコソコソしないから、許してくれっ。
いやっ!!
一度そんなことがあると、いつも不安な状態になるんだよっ。
今まで散々繰り返してきたから…
ほんとに、もう嫌だっ。
そんな状態が数日続いただろか。
とうとう私は根負けしてしまった。
もちろん二度と同じことはしないとの条件付きで。
彼からの…執拗とはいえ、彼からの電話に出た時点で、私の【負け】は確定していた。
いや、ココロの何処かで負けることを望んでいたのやもしれぬ。
ダーリンを許したのは、彼を含む他の誰か、いや、【可哀想な私で居る】為だったのか。
しかし…。
最初の騒動の後。
最初は不安だったものの、すっかり信じきっていた馬鹿な私は、平穏な日々を過ごしていた。
あれは3ヶ月ほど過ぎた頃だろか。
急に胸騒ぎを感じた私は、再びダーリンの携帯に手を延ばした。
そして。
その胸騒ぎは見事に的中する。
再び楽しげに踊る、文字、文字、文字。
更に。
わざわざ、他社携帯でも絵文字がそのまま使えるサイトの会員になっていた。
やもすると、私へのメールよりも多かった。
これが、怒りの炎の、絶えることのない燃料となった。
再び問い詰める私。
違う…
悪いか…
頼むから…
同じ変化を繰り返すダーリン。
そして。
同じく、また丸め込まれる私。
馬鹿だ。
本当にメダカ大馬鹿野郎だ。
一旦そうなると、暫くは何事もなかったように過ぎてゆく日々。
そしてまた、3ヶ月ほどのち…
それらは、四季をなぞるように繰り返されてゆく。
ある時。
また携帯を見ると、どうやら喧嘩して、また仲直りした内容のメールが。
「チトも悪かったのに。ありがと。ダーちゃん大好きッ(^3^)-☆chu!!」
別れたようだったのに、また、よりを戻していた。
こういう場合。
普通の女性なら、男側よりも女側に恨みを抱いたりすると思うが、私は断然、男側が悪い、と考えるタイプだった。
しかしどうやら今回は、この女がかなりくせ者だと感じた。
((長い戦いになるかもしれない…))
その予感は当たってしまうことになる。
女は、18歳だという。
結婚もしている、と。
その旦那のことで、色々相談に乗っていた、と。
乗ったのは相談だけかっ!?
このパターン。
以前も経験した覚えが…。
そうだ、元ダンだ。
男という奴は、自分を頼りにされると全力で守ろうとする生き物らしい。
鼻の下を伸ばしながら。
若い頃。
ダーリンは、女性に凄くモテた。
黙っていても、気付けば女性がくっついてくる。
最初の居酒屋の頃がピークで、毎日違う子とデートしていたらしい。
トリプルブッキングの時は、さすがに焦ったらしいが…。
【〇曜日は忙しくないから、その日においで】的なことを言って、月曜日はA子ちゃん、火曜日はB子ちゃん…と、うまい具合に決められていたローテーション。
それがある日。
予定外の曜日に、予定外の2人が来てしまった。
カウンター席に、一つ飛ばしで3人の女性が並んで座ってる姿は、恐ろしいもんがあったらしい(苦笑;)。
結局。
この時は同僚に協力してもらい、なんとか乗り切ったらしいが。
この話しでも解るように、彼はいつも優位に立っていた。
自分が何もせずとも、女性が群がってくる。
それも【アナタの思うままに】的女性ばかりだった。
根拠のない妙な自信は、そこから来ているのか。
だが、今度の女は違う。
私はそう感じていた。
まぁ、これも根拠のない動物的勘だが。
《今までダーリンが出会ったことのないタイプだから…今までの女の子達とは違うタイプだから、気を付けた方が良いよっ。》
そんな私の言葉を【俺を誰だと思ってるんだ】的目つきで聞いていたダーリン。
この俺が女に振り回される訳がない、
この俺にコントロール出来ない女がいる訳がない、
そんな風にでも思っていたのか。
しかしやがて。
その自信は、見事に打ち砕かれるコトになる。
その日。
仕事から帰ってきたダーリンの様子がおかしい。
《なんかあった?》
そう聞いた私に、やや躊躇したのち
『アイツ、腹立つっ#今日さ…』
と語り始めた。
見覚えのない電話番号からの着信に、誰だろと思いながら、なんとなく電話に出てみた。
通常。
見覚えのない電話番号は出ないのだが、この時は何か予感がしたのだろう。
「あの…ダーリンさんですよね?チトちゃんて知ってますよね?」