最後の【お勤め】を、なに食わぬ顔で終えた私達。
翌日は定休日。
辞める旨を伝える為、社長に電話をする。
ところが、何度電話しても出ず、やっと話が出来たのは、夕方近くになってだった。
《もう会社、辞めたいので。明日から出勤しません。》
「あー、そーですか。解りました。ご苦労様でした。」
ぷつっ、ぷーっ、ぷーっ、ぷーっ…
あっけないもんだった。
もちろん、労いの言葉や、引き止めの言葉を期待していた訳ではない。
いや…
もしかして、気持ちのどこかで馬鹿な淡い期待を抱いていたのか。
ひょっとしたら高い給料を払うのが惜しくて、クビにしたかったのかもしれない。
そうだとしたら、まんまとその策略に掛かった訳だ(苦笑;)。
しかし。
いずれにせよ、辞めて良かったのだ。
とりあえずホッとした。
仕事を辞めて約一週間。
ダーリンはほとんどゲーム三昧。
私はボチボチ部屋を片付けたり、ダーリンと同じくゲームをしたり。
飲みに行ったり、お出掛けをしたり、体調不良で寝込む以外は、まったりとした日々を送っていた。
今までの私達には、考えられない生活だった。
そして。
この日は、普通に働いていれば定休日。
ダーリンの実家に行かなきゃいけなかった。
ご両親には、会社を辞めたことは内緒だったので、非常に気が重かった。
内緒にしていたのは、余計な心配を掛けたくなかったから。
これは、ダーリンの意志だったが、私も同じ気持ちだったので、それに異議を唱えるつもりはなかった。
ただ。
まだ働いている振りで話しをしなきゃいけなかったのは、やはり、少しキツかった。
後で解った時に【上手いこと嘘並べてっ!】と思われやしないか、なんて心配になったりして。
(どのタイミングかは解らないが、いずれは本当のことを言うつもりだったので)
しかし。
この日の義母はいつもと違い、弟の嫁さんの愚痴をずっとグチグチ。
私が仕事のことを取り繕う必要もないくらいで、そういう意味では助かったが。
今まで、義母が他の誰かの愚痴(悪口)を言っているのを、一度も聞いたことがなかった。
ただの一度も、だ。
その義母が、それも、結構激しくグチグチ言っているのは、本当に驚いた。
よほど溜まっていたのか。
弟さんはバツイチだった。
前の奥さんが、子供を2人置いて、男の所へ逃げてしまったのだ。
(実に耳の痛い話し;)
その後暫くして、フィリピンパブで知り合ったのが、今のお嫁さんだ。
そう、後妻さんはピーナだった。
気立ても良くて、よく働く…と思ったらしいが、現実は違っていたようで。
掃除の仕方、家具の扱い方、食器類の扱い方、etc.etc.…。
義母にしてみれば、何もかもが信じられないことだらけだった。
床(特に台所)には、必ず何かが落ちていて、足の裏にくっつかなかったことがないらしく
「裸足なんて絶対嫌だし、新しい靴下だって履いては行けない!」
家具等の扱いも乱暴なうえに、本来の使用目的と違う使い方をするらしく
「【お義姉さーん、またファンヒーター壊れたよぉー。日本の家電、壊れやすいねー。】 って、あんな重い人がいつも踏み台代わりに使ってたら、そりゃ壊れるわねっ!?」
などなど。
まぁ確かに、苛立つ気持ちも解るが。
(ファンヒーターを踏み台にする発想は無いし;)
帰りの車中、ダーリンにその話しをしたら、不機嫌になってしまった。
叔父の嫁さんの話が気に入らなかったのではなく、恐らく、義母が他の人の悪口を言っていたのを聞きたくなかったんだろう。
確かに、義母のイメージと違う。
今思えば。
この頃から黒い陰が義母に忍び寄っていた…ような気がする。
さて、実はこの日。
海外旅行に行く計画を立てていた私達は、さり気にダーリンのパスポート・保険証・スーツケースを持ち出していた。
(そういうコトはぬかりない)
そして数日後。
私達は旅行社にいた。
計画を実行する為だ。
行き先は…なんと、ハワイ!!
旅行社に着いた時点ではまだ、グアムに行くつもりだったのに、気付いたらハワイになっていた(苦笑;)。
旅行社の人と話しをしたりしているうちに、そうなった。
ダーリンは、まだ一度も行ったことがなかったが、私は、元ダンとの新婚旅行で経験済みだった。
大して楽しい記憶もなかったが、ダーリンが行きたい様子だったので、まぁ特に異議はなかった。
旅費やパスポート申請代金などの諸経費だけで15万ほど。
ハワイでのお金もあわせると、30万は確実に飛ぶと思われた。
2人とも退職した身で、しかも、次の就職先が決まっている訳ではなかった。
蓄えがある訳でもなく。
他の人からすれば、かなり無計画で無謀なことだったかもしれない。
だが私は((また、頑張って働けばいいや))としか考えていなかった。
その夜。
旅行社から連絡があり、10日後に出発の便に決まった、とのこと。
(旅行社では、行き先を決めて、申し込んだだけだった)
まさか、海外旅行に行くことになるとは思ってもいなかったし、申し込みはしたものの、夢物語のようで実感がなかった。
出発の便が決まったことで、やっと、いよいよだな、という感じだった。
ただ…。
私達が乗る飛行機は韓国経由で、【大韓航空】だった。